おまけ
///////////////おまけの掲載は終了しました。////////////////
/この場所には予告なく、番外編などが発生することがあります。その際はフロントのあらすじ欄に通知いたします。/
と、思ったのですが。
次作の兼ね合いもありますので、おまけ一部掲載で; 失礼しました。
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と――。
ふと目をあげた高遠の目に、車の助手席がわに立つ男の姿がうつった。
まだ若いのだろうと思う。肩近くまでの黒い髪がサラサラと風にゆれる。服は無地の黒いTシャツにジーンズ。
高遠に気づくと、華が咲くように笑った。
「なんだろ?」
気づいた一条が車の窓を開けた。
彼はもう高遠を見なかった。一条の血濡れた傷のほうを見ている。
「どーしたの、それ」
気易く声をかけてくる。まだ十代なのかもしれない。あっけらかんとした、暗さのない声だ。
「――ちょっとした事故で、――おいっ」
「見せてよ」
目にも止まらぬ速さで、一条からタオルをとり、傷をさらした。
うわあ、と目を輝かせる。好奇心も行きすぎだった。遠慮もなさすぎる。
「なん、なんだ、おまえ」
「――ねえ、治してあげよっか」
にっこりと先ほどの笑顔をつくり、闖入者が聞く。その肌色は人種が違うのではないかと、思わせるような白さ。血の気がまるで感じられない。
「ちょっとね、おまえ…」
「いーからいーから。ただで治してやるからさ、そのかわり、ちょっとわけて」
一条に喋る隙すら与えずに、十センチほどの斜めに走る傷にかかる、服の切れた部分を払いのける。
そしてそのまま傷に口をつけた――。
「いっ――、いてぇだろっ」
しばらく硬直していた一条が、窓から頭を入れる闖入者を押しもどそうとする。
「――もうっ」
腹立たしそうに、顔をあげた彼の頬は生気を帯びた桜色に、唇は血に染まって赤くなっていた。顎のラインの美しさが際立っていて、妙に艶かしい印象を与える。
「なんなんだよっ」
一条が奇態すぎる彼に、態度を決めかねるような中途半端な問いかけをする。
「やっぱ女がいいや」
その口を彼が扇情的に舐めてみせる。そして自分を観察している高遠にちらりと目をやり、なにか言おうとした。
その時――。
「坊ちゃま!」
厳しい女の声が割って入った。
うげぇ、と闖入者が背後を振り返る。
「なになさってるんですか! 行儀の悪いマネなさらないで下さいっ」
そこに、ほとんどガラガラになった駐車場の一角で仁王立ちになってるのは、その彼と同い年くらいの女だった。
だがずいぶん立場は強いらしく、腰のひける男を母親のごとく叱りつける。
「だって、だってさ、すげーいい匂いがしたんだもん」
幼児が言い訳するような調子には、さきほどまで人を呑んでいた空気がすっかり無くなっていた。
白いシャツに黒いスカートというクラシカルないでたちの女は、その耳、彼の耳をひっぱりあげて懲らしめ、車中のふたりに愛想笑いをして、声をかける。性格はきついようだが、可愛らしい顔立ちをしていた。
「ごめんなさい。この人喰いしんぼうなもので」
言うだけ言うと、返答しようのない二人を残して、彼らは立ち去っていったのだった。
最後までそれを見送って、一条が高遠の顔を見た。
「……ええと……、なんの話してたっけ」
終始無言で通した高遠は、その一条の逃避行動をゆるさなかった。
「すごい変態だったな。あれが本物の変態か。お前ならまだ変人で通るな」
「――レンちゃん、じつはものすごく動揺してるのかな?」
「当たり前だ。なんだあれは」
「わけわかんねー。でも行っちゃったし…。いいんじゃね。――あれ?」
一条が顔色を変えて高遠に自分の傷をさし示す。
傷が浅く、細くなり、治りかけていた。
二人は沈黙ののちに、帰ろうかと呟きあう。
もう医者の手はいらなさそうだった…。
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