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心霊少年 ヤナギ
作:オトハソラ



31.ヤナギ、後悔する


「さつきさん……」
「いやさつきちゃんじゃないから」
「でもさつきさんの体です」
 これ以上ないくらいに密着してしまっている二人に、ぼくはやきもきする。
「あはは。男のジェラシーは見苦しいぞー、少年」
 笑われても、イヤだからしかたない。
 でもさつきさんは……。
 さつきさんはイヤじゃないのかもしれない。そんなのわからない。
 ぼくは立ちあがった。――なんとか。
 近づくと高遠が困ったように見た。なんとかしろと言いたげに。
 彼を見あげるさつきさんの整った横顔は嬉しそうで、ちょっと切ない。
 その腕が、ぼくの目の前で、高遠の首にまわった。
 ひいっ。
 ぼくは声のない悲鳴をあげた。
 まさか――。
 彼の顔がひきよせられる。ちかづくようにさつきさんが背伸びをする。
「わあぁっ! やめろーっ!」
 ぼくは飛び込むように、ふたりの間に手を差し入れた。
 ぜったいに、さつきさんをぼくと同じ目にあわすわけにはいかない。
 さつきさんは女の子なんだからっ。
(しまった)
 後悔先にたたず。
 逃避する心をふるいたたせても、どうにもならない。
 彼女の肩を押し戻そうとした、その時。
 ずうぅぅん、と三度目のあの感覚が襲ってきた。

 …………学習能力ゼロ。

「おい?」
 声をかけられて、顔をあげた。
 困惑した顔の高遠。その後ろに暮れかけた空がひろがっている。なんて美しい空。
 ぼくが死んだあの時も、こんな空が目の前にあった。
 騒々しい救急車のサイレンを聞きながら、赤い光を頬にうけながら、眠りについた。
 忘れられてしまうのだろうか。
 もうあの瞳で見て、笑いかけてはもらえないのだろうか。
 そんなことを考えた。
 手足がつめたくなっていく。視界が暗く閉じていく。
 もう一度、逢いたかった。
 もう一度だけ――。
 もう一度だけ、大好きなあの人に。
「夜梛?」
 自分を見つめる彼に、喜びがあふれた。
「…………高遠サン…………」
 彼がこんなに驚くなんて、おかしい。
 ぼくはわらって、その首に腕をかけた。
 大好きな、綺麗な瞳が、不安そうに揺れた。
「……大好キナノ」
 そんな、壊れてしまいそうな顔も。だから。
(怒ラナイデ。嫌ワナイデ)
 体が引き裂かれるように、辛くなるから。
 彼は痛みが伝わったみたいに、眉をよせた。
「……悪かった。酷い言い方をした――」
 そんな顔、してほしい訳じゃない。苦しめたい訳じゃない。
 あなたを大好きな、こんな自分がいたことを、覚えていてほしい――。
 ぼくは、ありったけの思いをこめて、その唇に――。

「――――――」
 はじめはその柔らかいものが、なんなのかわからなかった。
 うっとりするような感じにも、疑問をもたなかった。
 とても気持ちが良くて、それを――。
「……ヤ、ヤナギ……?」
 さつきさんの声で我にかえった。
「いやいや、さつきちゃん。これは見なかったことにしてくれないかなー。中身はヤナギ少年じゃないからね」
 腹立たしいくらいのんびりした一条さんの声。
 じゃあ、ぼくが吸いついてるのは――。
「――――この……っ」
 解放された高遠がそっぽを向く。手の甲で口もとを押さえて。
 ぼくは指の背で唇を押さえて、ぼくらを見守っていたらしいさつきさんと一条さんに目をやった。
「ああ、抜けたねー。思いを果たして成仏しましたって感じ?」
 にこにこする一条さんの顔が、ものすごく憎たらしかった…。
 ものすごく…。




 
 

   
 
 







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