29.心霊少年の戦い3
助けて。
おぼれる恐怖に叫ぶ。
声は出ない。
水でいっぱいだから。
鼻も口も、目も耳も、水でいっぱいだから。
「しっかりしろ」
高遠の声がぼくを呼びもどした。
彼は青冷めていたけど、まだ無事だった。
ぼくはその上に乗っかったまま、力が入らない。動けない。
「起こして。ぼくを起こしてください」
彼にはなにもできない。ぼくがなんとかしなければ。その思いでいっぱいだった。
ぼくがやらなければ、さつきさんも、さっきのぼくのように閉じ込められたまま……。
胸が締めつけられた。
きっといま、さつきさんは恐怖のなかに閉じ込められている――。
高遠が起こしてくれたので、目を動かして悪霊の姿をさがした。
太陽をさえぎるように、包囲を縮めている。
ぼくらを今にも取り込もうとしている。
「どうして」
暗い影に問いかける。
「どうして連れて行こうとするの。水の中が苦しかったから? 怖かったから?」
ぼくには彼らの声を聞くことができない。一条さんのようにはできない。
でも、心を感じとることができるはずだ。
「一人で沈んで行くのが、怖かったから?」
苦しくて、淋しさのなかでゆがんでしまった魂が、ぼくを見下ろしていた。
まだ若い。
小さい。
いくつかの、魂。
涙が出た。
「――もう終わったんだよ? もう苦しくないよね。怖くないから。もう終わってしまったことだから、大丈夫だから――」
涙が止まらない。
肩を抱いていた高遠の腕に力がこもった。
その意外ないたわりに、ぼくは新たな力を得る。
「安心して。もうどこにも苦しくて怖いことはないから。痛いことも悲しいこともないから。――大丈夫だから」
だんだんと、暗さがそこなわれていく。
一人で沈んでいく孤独がやわらいでいく。
助けてと叫んでも、だれの手ものばされなかった恐怖が、消えていく……。
「――もう終わったから……、泣かないで――」
さようなら。
ぼくは心の中で手をふる。
さようなら。しずかに眠って……。
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