心霊少年 ヤナギ(30/37)縦書き表示RDF


心霊少年 ヤナギ
作:オトハソラ



28.心霊少年の戦い2


 気づくと見ていた。
 仕事中、いつもこっちを見ていた。
 よくあることだから、気にも止めていなかった。
 その時は退屈だったから、たまたま気が向いたから、話しかけてみた。
 彼女は頬を染めて、笑った。ただそれだけのこと。よくある日常のできごと。なにひとつ特別なことはなかった。
 でも――。
 つぎの日、彼女が話しかけてきた。そのつぎの日も、またつぎの日も。
 うっとおしかった。彼女の名前も思い出せない。どうでも良かった。
 だから――。
 大嫌いだと言った。
『年下ハ大嫌イダカラ、ホットイテクレル?』
 でも、心は晴れなかった。
 とても彼女が悲しい顔をしたから。泣き笑いの顔で謝ったから。
 オマエが捨てた女が死んだ、と情け知らずの言葉を投げてきたのはどちらの兄だったか……。

「うわっ――」
 一条さんの小さな叫び声が、ぼくの集中を乱した。
 ふり返ると、さつきさんの表面を覆っている彼女が、一条さんに向きあっていた。
 ポタポタと彼の足もとに落ちるものがある。
 ぎょっとして、その赤さに注目する。
 血だ。
「いっ、一条さんっ!」
 彼が背中を向いているから、なにが起こったのかわからない。
 さつきさんにぴったり寄りそうように、暗い影が凝っている。あれは――。
「――っ!!」
 つないだ手に違和感を感じて、ぼくは高遠をみた。
 暗い、けむりのようなものが、その肩から胸を覆いかけていた。
 意識がそれていたことに気がつく。
「れっ、んに、――蓮にさわるなっ!」
 あせって高遠に飛びついた。
 バランスを失って二人で地面に倒れこむ。
 倒れる前に、黒煙にふれた体が、しびれたように感覚をなくした。
 力が入らない。
 なんだかわからない。
 でもだめだ。彼にさわるな。 
 高遠の胸にしがみついたまま、かたくなにそれを拒絶しつづける。
「蓮にさわるなっ――」
 光が、太陽の光が、そこにあるのに。
 悪意の黒煙にさえぎられて、ここには届かない。
「だめだから! さわるな!」
 必死に拒絶をくりかえす。
 ぼくにはそれしかできなかった。
 冷たい、池の下に沈むときには、こんな感じがするんだろうか。
 こんなに、暗くて、胸がつぶれそうな、恐怖を感じるんだろうか。
「つれて、行くな……」
 恐怖のなかに、おぼれていく――。




 
 

  







作者小説一覧





ケータイ表示 | 小説情報 | 小説評価/感想 | 縦書き表示 | TXTファイル | トラックバック(0) | 作者紹介ページ


小説の責任/著作権は特に記載のない場合は作者にあります。
作者の許可なく小説を無断転載することは法律で堅く禁じられています。




BACK | TOP | NEXT


小説家になろう