28.心霊少年の戦い2
気づくと見ていた。
仕事中、いつもこっちを見ていた。
よくあることだから、気にも止めていなかった。
その時は退屈だったから、たまたま気が向いたから、話しかけてみた。
彼女は頬を染めて、笑った。ただそれだけのこと。よくある日常のできごと。なにひとつ特別なことはなかった。
でも――。
つぎの日、彼女が話しかけてきた。そのつぎの日も、またつぎの日も。
うっとおしかった。彼女の名前も思い出せない。どうでも良かった。
だから――。
大嫌いだと言った。
『年下ハ大嫌イダカラ、ホットイテクレル?』
でも、心は晴れなかった。
とても彼女が悲しい顔をしたから。泣き笑いの顔で謝ったから。
オマエが捨てた女が死んだ、と情け知らずの言葉を投げてきたのはどちらの兄だったか……。
「うわっ――」
一条さんの小さな叫び声が、ぼくの集中を乱した。
ふり返ると、さつきさんの表面を覆っている彼女が、一条さんに向きあっていた。
ポタポタと彼の足もとに落ちるものがある。
ぎょっとして、その赤さに注目する。
血だ。
「いっ、一条さんっ!」
彼が背中を向いているから、なにが起こったのかわからない。
さつきさんにぴったり寄りそうように、暗い影が凝っている。あれは――。
「――っ!!」
つないだ手に違和感を感じて、ぼくは高遠をみた。
暗い、けむりのようなものが、その肩から胸を覆いかけていた。
意識がそれていたことに気がつく。
「れっ、んに、――蓮にさわるなっ!」
あせって高遠に飛びついた。
バランスを失って二人で地面に倒れこむ。
倒れる前に、黒煙にふれた体が、しびれたように感覚をなくした。
力が入らない。
なんだかわからない。
でもだめだ。彼にさわるな。
高遠の胸にしがみついたまま、かたくなにそれを拒絶しつづける。
「蓮にさわるなっ――」
光が、太陽の光が、そこにあるのに。
悪意の黒煙にさえぎられて、ここには届かない。
「だめだから! さわるな!」
必死に拒絶をくりかえす。
ぼくにはそれしかできなかった。
冷たい、池の下に沈むときには、こんな感じがするんだろうか。
こんなに、暗くて、胸がつぶれそうな、恐怖を感じるんだろうか。
「つれて、行くな……」
恐怖のなかに、おぼれていく――。
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