20.ヤナギ、コクる
「おはよ。元気そうだね」
駅前で改札から出てきたヤナギを捕まえた。あれから、一条と消えてからどうなったのか、すごく気になっていたのだ。
「さつきさん……」
意外そうな顔をしたあと、ヤナギは嬉しそうに頬を染めた。
(かわいいんだよねぇ)
しみじみと思った。実際あれだけうろんな、常軌を逸した言動をしてても「ヤナギだから」でゆるされてしまうのは、すんごく可愛いキャラクターだから、なのだろう。
愛玩動物系というのか、性格素直だし、見た目もハーフ系の美少年。というより美少女。
「悪霊退治はどーなったの?」
「……ひとまず安心なのかな。出てってくれたから……」
何か言いたくなさそうな、そんな空気。
(どうしたんだろ)
「一条さんがさ――。は、なに?」
あきらかにヤナギは挙動不審。ビクッとしたかと思うと、目を泳がせてひきつり笑い。
「な、なにって。――いっ、一条さんがどーしたの」
なにかあったのだろうか。聞かれたくないようなことが?
「昨日無事に家についたんでしょ?」
その後の説明を求めると、話してくれた。けどなにか……。
(隠してるな)
直感した。
「そういえば、一条さんってなにしてる人なの」
ヤナギが飛びあがりそうにした。一条さんの名前が出ると、反応するみたいだ。
「い、一条さんちって、学校の近くのお寺みたいに大きな道場があるでしょ」
「あそこなんだっ。空手? 少林寺とか?」
「えーとね、なんとか言う古武術なんだって…。今日の放課後、行く予定なんだけど。一条さんが、ぼくも精神鍛錬したらいいんじゃないかって言って」
「精神鍛錬したら悪霊祓ったりできるの?」
「……気持ちが安定したりするみたい。高遠、センセイも中・高でやってたって」
「ふうん」
「そういえば高遠センセイに連絡取れないから、一緒に連れてきてって言われてんだけど…」
ヤナギは憂鬱そうに顔をくもらせた。
「難易度が高そう……。なんでヤナギに頼むんだろね」
きっとまた、あの冷やっこい笑顔で彼をいびるんだろうと予想できた。
「だよね」
会話がとぎれて、学校までの道のりをもくもくと歩く。
ときどきすれ違う人の視線が痛いくらいに感じられる。
なんだかおかしくて、ぷぷっと笑ってしまった。
「どうしたの?」
聞き咎めたヤナギが、私のほうを見た。
「んーやっぱヤナギって可愛いんだなーって思って。みんな見てるから」
ヤナギはちょっとイヤな顔をした。
「可愛いって……。ちがうよ。さつきさんが、――キ、キレイだから見てるんだよ」
はにゃ。ヤナギのクセにくどいてる?
またなんだかおかしくて、げらげら笑ってしまった。
「なんで笑うんだよー」
むう、とヤナギがふくれる。それがまた可愛い。たまんない。
「それでさぁ、ね、一条さんがらみでなんかあったんでしょ」
ぎくっとしたヤナギがみるみる赤くなる。
「言いなさいよぉ」
私はそのほっぺをつついてみた。ヤナギがものすごく動揺しておもしろい。
白状させるのに、そんなに時間はかからなかった。
だがしかし。
事実は私にもかなりのダメージを与えた。
「一条サンニ、濃厚ナちゅーヲシタノネ」
想像したくないのに想像してしまう。聞かなきゃよかった。
「聞きかえさないでよっ」
ヤナギは私がつつきまくった両頬を両手で押さえて、やや涙目。いじめすぎたかな。
「まあ、あのさ」
なんとか慰めなきゃと思った。
「ヤナギってそこらの女より可愛いから、だいじょうぶだよ。一条さんとお似合いっ」
「さっ、さつきさん……」
ふるふるとヤナギが震えて、涙があふれた。
「な、泣かなくても――」
と――。
きっ、と意を決したように、彼は視線をつよくした。
「ぼくは……、ぼくはさつきさんが好きなんだっっ」
………………はにゃ?
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