心霊少年 ヤナギ(19/37)縦書き表示RDF


本編に入れきれなかったので、ちょっとだけ。
心霊少年 ヤナギ
作:オトハ ソラ



〔番外編〕  レイ


 一也は特別だから……。

「じーちゃんきえたよ」
 かなしそうに一也が言ったのは、まだ一也が一年生になったばかりの頃。
 おれは中学に入って部活をはじめて、一也とすごす時間はますます減っていた。
「じーちゃんきえたよ。ばーちゃんもいなくなるみたい」
 晩ご飯のあと、猛烈な眠気と戦って、部屋で宿題をしているときだった。
 祖父はどっちもずいぶん前に死んでたし、一人いる祖母も他県に住んでいる。
 まったく意味不明。
「いまさ、いそがしーからさ」
 一也はいつもは、とっても聞きわけが良かった。
 宿題のジャマしたり、ゲームのジャマしたりなんか、ぜったいにしたことない。
 おれのイヤなことは一度だって、故意にしたことないと思う。
 でもこの時は、まだ不安そうに机の横に立ち尽くしていた。
「でもね、じーちゃんいないとこわい」
 くりくり目のすごく可愛い、生意気な妹なんかより大好きな弟だった。
 でも、疲れていたし、わけがわからないこと言われて、イライラした。
(うるせぇっ。うざいよっ)
 びくっと、一也の目が瞠られた。
 まるで聞こえたみたいに。
「…………ごめんね…………」
 泣きそうな声で言って、一也は出て行った。
 胸がもやもやしたけど、宿題を片付けるほうがさきだった。

 祖母の死をしらせる電話が鳴ったのは、その翌日、明け方だった。

 それからの一也は、泣いてばかりだった。
 とつぜん、ポロポロと涙を流す。
 聞かれても、理由は言わなかった。
 でも、とつぜん、なにかを見つけて、苦しそうに泣くのだ。

 心配した親が病院に連れて行ったり、カウンセリングに連れて行ったり……。
 でも、本当は、家族みんなわかっていた。
 一也が見えるはずのないなにかを見て、怯えていることに。

 一也は特別だから。
 父も母も言った。
 一也は特別だから……。
 だれとも違うから……。

 今日も一也が泣きながら帰ってきた。
 目をこすりながら、リビングでランドセルを降ろす。
 その日は体育祭の代休で学校が休みだった。
 おれは、映画のDVDを鑑賞しつつ、横目で一也を見る。
「一緒に見る? はじめから?」
「うん」
 ソファの上、すぐ横に一也が座る。
「今日はなにが見えた?」
 画面を見ながら、さり気なく聞いた。
「学校の前の、川のところにいたよ。手がなくて、痛そうだった。……かわいそうだったよ。……ぼくも事故にあったら、痛いのかな……じーちゃんいたら、目隠ししてくれたのに。もう、見たくないよ……」
 そしてまた、一也が泣いた。

 一也は特別だから……。
 おれも悲しくなった。
 一也はだれとも違うから……。
 一緒に歩いて行けない。
 きっとどこかに行ってしまう。
 きっとここから居なくなってしまう。

「…ごめんね。ぼく怖いんだ。うるさいよね…」
 まだ祖母が死ぬ前の晩のことを、気にしていたらしい。
 すまなさでいっぱいになって、小さなからだを抱きしめた。
「ごめん」
 おれにも見えたらいいのに。
 一緒に見て、怖がってあげれたらいいのに。

 その日はおれも一緒になって、泣いてしまった。

 仕事から帰ってきた母親が、そんなおれたちを見てわらった。
「一也には、だれにもできないことができるからね……」
 淋しそうに母親が言った。
 おれはどきりとした。
 それを感じているのが、自分だけでないことに気づいた。

 一也がいつか、手の届かない場所に行ってしまう、そんな予感。

 一也は特別だから……。

 おれはこぶしを固めた。

 特別でも、おれの弟なんだ。
 絶対に、絶対にどこにもいかせない……っ!

 ――十三歳の、おれの決意だった。

 一也とおなじモノが見えるらしい友達ができたのは、高校に入学してから。
 やたら綺麗で意地悪いアイツを、いつも追い駆けてるヘンタイだと評判だった。
 でもいいヤツだった。ものすごく。
 だから、なおさら燃え上がる、筋違いの嫉妬心。
 絶対に一也のことは教えない。一也には教えない。
 ふたりだけ、ふたりにだけ同じものが見えるなんて。

 絶対に――――!






 

   












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