『さあ、まもなく始まります! 地獄のレースです!』
そんな声が何度も耳の中で響いていた。
目を開けると俺は何かの乗り物の中にいた。前部にハンドルが付いていた。さらには、スイッチやギアチェンジなどが付いていた。ブレーキやアクセルも。ここは運転席のようだ。決して広くはない大きさだ。1人が入れる広さだ。席は鉄製だ。座り心地が悪い。
コックピットから外の景色を見てみた。全ての景色が荒野となっていた。建物が何もなく植物すらなかった。
「一体、ここは・・・・・・」
なぜ、俺はここにいるんだ?
俺の名前は柴崎正樹。27才。職業は普通の会社員だ。
しかし、俺はなぜこんなところにいるんだ? 昨夜の夕食の後にテレビを見ながら、残りの仕事を仕上げていた。その後はベッドで横になり眠りに着いた。それからの事が全く覚えていない。
するとまた放送の声が聞こえてきた。
『早く覚醒して下さい。もうすぐでレースを始めますので』
レース?
何のレースだ?
『どうやら、選手は全員がお目覚めですね。それでは、これよりレースを始めます。選手の皆さまは準備をして下さい』
「何を言っているんだ?」 放送の声は俺の言葉など無視して、レースの説明を始めた。
『選手の皆さま。お手元の液晶モニターをご覧下さい。モニターの右端に上空から撮られた画像が映っています』
狭い室内で液晶モニターを探す。
「あ」
モニターは前部に埋め込まれていた。とても小さな画面であった。そこには荒野の上で横一列にたくさんの乗り物があった。
『選手は全員で247名。国籍は様々。優勝すれば自由の身になります』
自由の身? 一体どういう事だ?
俺は何者かに誘拐されたのか? しかし、よくたくさんの人間を集めたものだ。
『これよりレースの説明を始めます』
放送の声が説明し始めた。俺はそれを聞きながら、ドアの手すりを探すがそれらしきものがなかった。
『ルールは簡単。モニターに映ってある地図に沿って30分間でゴールを目指して下さい。1着でゴールした選手が優勝です。ただし、2着以降の選手全員は爆死します』 爆死? 俺はその言葉により冷静でいられなくなった。
「死んでたまるか!」
俺はコックピットのガラスを壊せそうな物を探すため、座席の下に手を伸ばした。
すると自分の手が何かに触れた。俺はそれを掴んで持ち上げる。
「嘘だろ」
この質感、この重み。間違いなかった。
銃だ。マシンガンだ。映画に出てくるような大きい奴だ。さらに座席の下から、銃弾が詰まったマガジンもたくさん出てきた。
『レースを盛り上げるため、面白いルールがあります。これから、選手の皆さまは10分おきに必ずほかの選手を殺して下さい。最低でも3人は殺して下さい。もし、選手がそうしないで10分を過ぎると、その選手は爆死します」
10分で3人。最低でも30分間で9人も殺さないといけないのか。
俺は自分の死が間近に迫っている事に恐怖心を抱いた。
『ほかにもこのフィールドには、罠が仕掛けられています。なので選手全員が死ぬ場合もありますので、心してレースに参加して下さい』
すると液晶モニターの画面が乗り物の映像に変わった。俺はそれを見て初めてどんな乗り物かがわかった。
今俺が乗っている乗り物は、半月型の形をしており後部に巨大なブースターが2つ付いていた。車輪の数も2つだ。車というよりバイクに近い。爆弾は車体の下にあるのがわかった。
「マジかよ」
俺はまだ死ぬわけにはいかない。俺をこんな目に合わせた犯人を見つけないと。
突如、バイクのエンジンが作動した。
『それではレースを始めます。バイクの運転の仕方は液晶モニターに出ています。随時確認して下さい』
俺は液晶モニターでバイクの運転の仕方を見た。案外、普通の車とほとんど変わらなかった。ただ怪しげな部分を覗いては。
俺はだいたいを覚え、レースに待ち望むことにした。
『準備はできましたか? レース開始直後、10秒以内にスタートしなかった選手は失格として遠隔操作で起爆させます。わかりましたか?』
俺はハンドルに手を乗せた。そして高鳴る心臓の鼓動を抑えた。
『それではレーススタート!』
俺は何の迷いもなくアクセルをふんだ。バイクが発進する。すると、左右の扉が横に動いた。それで左右の様子を確認しやすくなったかと思いきや。
『今、全てのバイクの扉が開きました。これで横にいる選手たちを殺すことが簡単になります』
なるほど。
俺は横に視線を向けながら、前へ前へと進んだ。
すると右横から銃弾が飛んできた。確認をすると敵がいた。男だ。相手は片手にハンドルを持ったまま、さらにもう片方にマシンガンを持って撃ち始めた。
俺はハンドルを回して相手の攻撃を避ける。
「やるしかないのか?」
俺はマシンガンをその男に向けて、撃ちまくった。最初の5発はバイクに当たったが、次の2発は男の頭を撃ちぬいた。男は死亡した。男のバイクは横転し、ほかのバイクを巻き添えに爆発した。
するとモニターから音楽が鳴った。画面にクリアの文字が現れた。
そうか、俺は3人を殺したのか。 後15人。残り時間27分。7分は逃げればいいのか。
後ろの方から銃声や爆発が聞こえてきた。地獄とはこのことだ。
俺は敵の攻撃を避けながら前へと前進した。
レース開始から10分後。今のところ、俺は60番以内のところにいた。選手の人数は100人ほどだ。
俺は敵から攻撃を受けながら逃げていた。しかし途中から状況が一変した。
前方に地中から何かが現れた。
「嘘だろ」
地中からいくつものミサイル砲が現れたのだ。それぞれの砲台からミサイルが一斉に発射された。
俺は逃げる。
ミサイルがほかの選手のバイクに直撃した。無論、爆発する。俺はミサイルを避けながらほかの選手を殺しながら前を目指した。
するとミサイルがすぐ近くに迫ってきていた。
「やばい」
俺は急いでレバーを引いた。するとバイクが猛スピードでミサイルの下をくぐっていった。
「やったぜ」
残り時間5分。
俺はルール通りに人を殺して、先ほど3人目を殺したばかりだ。
ゴールまで間近だった。これまでの地獄が嘘のようだった。
ほかの選手は俺より後ろの方向だ。誰も俺を追い越すことはできない。俺の勝ちだ。
ゴールはもう目の前だ。 俺は勝ったんだ。
必ず犯人を捕まえてやる。そして殺す。
ゴールまで50メートル。「俺の勝ち」
ゴールまで30メートル。「もうすぐ」
10メートル。
「もうすぐ!」
5メートル。
「やっ・・・・・・」
俺の首に銃弾が貫いた。その後、俺のすぐ横を通り過ぎるバイクが見えた。
『レース終了。優勝者が決まりました。優勝者は、田中太郎さんです!』
俺は死ぬ。
耳の中で爆発音が聞こえてきた。
俺はそこで目が覚めた。妙に胸がくるしかった。
「目が覚めたか」
俺の前にサングラスの男が現れた。男は名簿のような物を持ってこう言った。「収容番号4961。柴崎正樹。お前は連続殺人だ。この正義の名において死刑だ」 その瞬間、俺は全ての記憶を思い出した。
俺は連続殺人犯だ。何人ものの命を奪い、バラバラに刻みこんだ。昨日の晩もテレビを見ながら、女の足を刻んでいた。だが警察に家を突撃され逮捕となった。証拠は全て揃っていた。裁判無しで死刑に決まった。だが死刑の前に執行人は俺にチャンスを与えた。
それは今、世界中の死刑場で普及しているオンラインゲーム『爆走ゲーム』であった。このゲームはバーチャルシステムで専用の機械の中で眠れば、まるで実際に体験しているような感覚が伝わってくるのだ。痛みも感じる。ゲームをする時は、ところどころの記憶を失ってしまう。そのため俺は自分が殺人犯だと、思い出せなかったのだ。
ではなぜ俺は、ゲームに参加したのか。それは、ゲームに勝つと死刑免除になるからだ。しかし、ゲームに負けるとショック死となる。ゲームに負けると機械に強い電波が流れだし、体の心臓機能を停止させるのだ。
俺は死ぬ。当然の報いだ。
こんなのありか? ゲームで死刑が決まるってよ。
・・・・・・。
正樹の心臓が停止していた。
執行人は笑みを浮かべ、亡骸となった正樹に真実を告げた。
「全く馬鹿だな。お前は殺人犯じゃねえよ。それは偽物の記憶だ。ゲームは存在するが、殺人犯のお前は存在しない。お前は国に選ばれた実験台だ。まあお前の本来の姿は俺は知らないけどな」
そう言って執行人はその場を去っていた。
終わり |