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巫女と依巫  作者: 若宮 不二
第1章
22/49

22話 これからのこと ~sideシード

 

 ユキハは、ひとしきり豆チョコを堪能(たんのう)していた手を止め、

 不意に居住(いず)まいを正して、俺の方を見た。


「シードさん。長官さんの話を聞いて、いろいろ考えました。」


 ユキハの方が、先に話し出してしまった。



「あたしは、1ヶ月後に元の世界に帰っても、居場所がありません。

 だから、私がもう少し大人になるまで、ここに置いてもらえませんか?


 もちろん、こんな豪華な部屋じゃなくて 

 もっともっと小さくて、ボロい部屋でいいですし、

 できる仕事を見つけて働いて、自分で食べていきますので……


 それとも、こっちの世界では私みたいなのは、働き口ありませんか?」


 そこまで一気に言って、真剣な顔でユキハが口を(つぐ)む。


 俺は、彼女の勢いに押され気味に


「働くって……ユキハはまだ子供だろ? 子供はまだ働かなくていいんだよ。」

 と答える。


 あれから副長官と相談して話を詰めたが、結局、新しい依巫(よりまし)の召喚が済んでから

 俺の実家で引き取るという事になった。

 両親にだけは話をして、了解も得てある。

(大喜びの、大はしゃぎ、熱烈歓迎だった……なぜだか)


「ユキハ位の年なら、アースリンドでは

 魔法の才能のある子は王立魔道師養錬所(アカデミー)に入学するし、

 それ以外は各職業組合(ギルド)で修行や教育を受けている。

 よっぽどの事情がないと、子供は働かせないんだ。

 だから……」


「あの……あたし、いくつくらいに見えます?」


「? 10歳くらいかな? それより下なのか?」



「……すみません。あたし、背が低い上に()せているので幼く見えますが、15歳です。」



「「……えええええっ!!」」


 ライアと同時に叫んでしまった!


 見えない。

 全く15歳には見えない。

 せいぜい8歳か、いって12歳。


 どこをどう見ても15歳は無理。


「あの……ユキハ様の国では、皆様15歳でそのようなお姿なのですか?」

 ライアがどう質問したらいいのか苦慮(くりょ)しながら、でも好奇心には勝てず、ユキハに尋ねた。



「いいえ。私が特別小さいんです。

 栄養不足ですかね? 私の国でも10歳位にしか見てもらえませんでしたよ。」

 悲しそうに笑う。


「だから、働き口を見つけるのは大変でした。


 見つからなくて、

 最後には校長先生の知り合いの会社が雇ってくれて……


 それなのに、多分、あたしが逃げたって事になってるんでしょうね。

 突然、居なくなったんですから……」


 豆チョコの袋のシワを伸ばしながら、肩を落とす。

 小さいユキハが、さらに小さく頼りなく見える・・・



 だから、あんなに あの日に帰ることにこだわってたのか。



 後で帰ったところで、居場所がないと泣いたのは、

 そういう事情があったからなんだな。


 家にも居れない理由があるんだろう。


 胸が締め付けられるように、痛んだ。


 どんな理由あるんだろう?

 ユキハの事は、何でも知りたい。

 出来ることなら、(なぐさ)めて……

 でも、俺の方から、特に今すぐ 聞きだす様なことは したくない。

 ユキハが、自然に自分から 話してくれるのを待つつもりだ。



 彼女の目にうっすらと涙が浮かんでいる。

 声もかすかに震えているようだ。

 不安なんだろうな……


 思っていたより年が大きかったとはいえ、まだ15歳だ。


 思わず抱きしめてしまいたくなる衝動にかられたが、

 グッと(こら)え、俺はユキハを安心させるように、

 できるだけ優しい声で語りかける


「ユキハ。

 ユキハが居たいだけ、

 俺はユキハに、この国に居てほしいと思ってるよ。」


 ユキハの顔がパっと明るくなる。


 ユキハの小さい手に、俺の手を()える。

 少し冷たい……

 暖めるように、両手で包み込む。



 (言うぞ。本題。)


「ユキハが良ければ、俺の両親の家で、暮らさないか?」


 (言った!)



「え?」

 ユキハが驚いた顔をする。


 (そんなに驚かないで欲しいんだけど……予想は していたけど)


「ユキハには、俺の両親の家で、暮らして欲しいと思っているんだ。

 本当は、()んだ俺の所へ来るのがいいんだろうけど

 仕事で家には、(ほとん)ど帰らないから……

 家って言っても、居住棟の一室なんだしね。


 何かあっても、常には居てあげられないし


 実家なら、両親や弟の誰かがいるし、一人きりになる心配も無い。

 それに、いろいろ教わる事も出来ると思う。


 俺も兄貴も出てしまってるから、部屋も空いてるんだ。だから……」


「………………。」

 黙っていたユキハの口が開く。


「でも……シードさんのお世話になる理由が、わかりません。

 一緒に住むなんて……そんな……召喚者?の義務とかですか?

 義務にしても、お世話になった分を あたし、何も返せません。

 どこか、働き口を紹介してもらえれば 嬉しいんですけど……

 3年。 できたら、18歳になるまで 帰りたくないんです。

 そんなに長い間、シードさんにも、シードさんのご両親にも お世話になんて なれません。」

 以外にも、きっぱりとユキハが言い切る。


 ああ……ユキハ、遠慮しすぎだ。


 ユキハは、俺に無理やり呼び出されたんじゃないか。

 もっと、いい待遇を求めてもいいはずなのに……



 遠慮するユキハに、なんとか実家に住むことを承知してもらおうと……

 こんなこと言うのは自分でも、ちょっと姑息かと思ったんだけど


「ユキハ、15歳はアースリンドでも まだ子供になるんだ。

 みんな、どこかの組合(ギルド)王立養錬所(アカデミー)で勉強している。

 ただ、ユキハは、たとえ依巫から外れたとしても、依巫の素質がある事には 変わり無いから

 普通の子供と同じように組合(ギルド)に入れるというのは 魔道府としては、ちょっと無理で……

 街で何かの職に就くのは、難しいと思うんだ。

 ……だから、遠慮しないで……」



「……すみません。 シードさんに迷惑かけてますよね。 ごめんなさい。

 すごく、中途半端な存在で扱いに困りますよね……あたし。」


 そう言って、しゅんとなってしまったユキハに

 俺の心は、強烈な罪悪感に襲われた。


 俺は、ユキハをどうしたいんだ?

 落ち込ませて、どうするんだよ!自分!


 (えええっっと!!!!)


 思わず、ユキハの手を握る両手に力が入る。



「ユキハ様。

 ユキハ様がそんな風に気に病む必要は、爪の先ほどもございません。」


 じっと、俺とユキハの話しを聞いていたライアが、口を開いた。



「ユキハ様。シーウェルドは、ユキハ様を独り占めしたいのですわ。


 ユキハ様を組合(ギルド)に預けてしまったら、

 忙しいシ-ウェルドは滅多にユキハ様に会えなくなってしまいますもの。


 その点、自分の実家ならいつでも好きな時に帰ってきて、ユキハ様の顔が見れます。

 それこそ時間を気にせず、存分に。遅くなれば自分も泊まればいいんですもの。朝まで一つ屋根の下で一緒に居れるのですわ。」


「なっっ//////ライアっ 俺はそんなつもりで言ったんじゃ!!」 


「あら。 そうかしら?」


「そうだよ! 俺はっ」


「ずっとユキハ様の手を握り締めていて……今更、照れなくても……ねぇ。」

 クスッと笑う。


 バッと二人して手を離してしまった!


「離さないでいいのに。誰も召喚者には、なんにも言わないのにねぇ~」

 ニヤニヤ笑いを止めてくれ。


 ユキハは真っ赤になりながらも、何の事か分からない顔をしている。


 ライアはユキハに微笑みかけながら

「ユキハ様。シーウェルドの下心は置いておいても、

 レスコス夫妻は、明るくて親切ないい方々ですわ。

 子供が大好きで、とても誠実です。

 教養も有り、常識人です。だからユキハ様がアースリンドで生きていかれる基本を学ぶのには、とても良い環境だと思います。私も、彼らなら安心して 任せられますわ。」


 親を褒められて、嬉しいけど多少こそばゆく……

 しかもユキハは、ライアの言葉で強烈に納得した顔をしている……

 つい。つい口が……

「人の親のことを、偉そうに……」

 

 俺の(つぶや)きを、ライアは聞き漏らす訳も無く


「シーウェルド。 貴方の両親とは、子供の貴方より、(わたくし)の方が付き合いが長いんですのよ。

 それこそ学生の頃からの付き合いですからね。

 よくよく解っているんです。

 私にはユキハ様のお世話が出来ないんですから、後任の人選は(わたくし)の納得のいく者でないと!私の、純粋なる愛情の表れです。ユキハ様の行く末に心を配るのは、当然のことですわ。」

 ぴしゃり、と言われた。


 ああ。言い返せない……


「それに、召喚者にとって、()んだ女性は何より大切な存在です。 だから世話になってる、なんて決して思わないで下さい。 むしろ、来てやったんだから、女神の(ごと)(あつか)いなさい!位の気持ちで十分です。 シーウェルドは、こう見えても執務室勤務の高給取ですから、思い切り我侭(わがまま)言って贅沢(ぜいたく)しても(ばち)はあたりませんわ。」


 すると、ユキハが

我侭(わがまま)贅沢(ぜいたく)もしようとは思いませんが……」

 ライアの言い様が面白かったのか、笑い声をあげた!


「ライアさんがそうおっしゃるなら、あたしシードさんの実家に行く事にします。」

「シードさん。いいんですか?」


「もちろん!ユキハ! 我侭(わがまま)でも贅沢(ぜいたく)でも、何でも言って?」

 他人の我侭なんて聞きたくもないが、ユキハは別。

 何でも、聞きたい。

 むしろ、言って欲しい。

 自然と、(はは)(ゆる)む。

 一時はどうなるかと思ったけど、なんとか上手(うま)くいった。


「シードさん、宜しくお願いします。」

 笑顔で、でも深く頭を下げるユキハに


「こちらこそ、よろしく。」

 と返しながら、

 俺はライアに、感謝した。

 そして、この借りはいつか返そうと心に誓った。


 ライアは、もう何も言わず、俺達を見守るように、静かに微笑んでいた。



甘々ですね。

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