P41 神と人と魔女と
自衛隊以外の軍が空気な気が
肝心の天人も空気な…
リスナイフトが放った一撃は、まっすぐIPKF軍へと氷山を作って行く。その途中にある街への被害をお構いなしに。
その頃、本隊と合流した自衛隊偵察部隊は、突然の攻撃に混乱する。しかし、部隊に接触する間一髪のところで、サーシャの防御魔法が発動し、攻撃を防いだ。
そして、リスナイフトが大幅な跳躍で部隊に接近する。そして、大剣でIPKFと戦っていた天人を叩き落とす。
「攻撃だ!!反撃しろ!撃て!撃て!」
兵士達は司令官の命令で、即座に銃で応戦する。リスナイフトは銃弾を氷で作った薄い膜で全てを防御する。 膜は彼女自身を覆うように形成され、5.56mmNATO弾を寄せ付けない。
「は、弾かれます!」
「構わん!撃ち続けろぉ!」
途中からハンヴィーや装甲車に備え付けられた12.7mmのM2重機関銃や、グレネード弾、ショットガンも撃ち込まれる。しかし、氷の膜は貫くどころか傷一つすら付かない。
「はぁあ!!」
振り下ろされた大剣が地面を震わせる。真下にいた歩兵は吹き飛ばされ、車両は氷漬けになる。
「うっ……く」
「もう一回!」
「させない!」
再び振りかぶられた大剣を、サーシャが自前で作った光の剣で弾き、軌道を逸らす。
「我が契約に従い、炎の魂よ、集い、猛る灼熱の炎、焼き尽くし、喰らいつくせ!火龍炎息!」
サーシャは詠唱し、右手を中心に円形の魔法陣を出現させ、燃え上がる炎を噴射する。
「へぇ!魔法使いなんだ!」
「焼きつくせ!」
炎は一直線にリスナイフトへと直進するする。リスナイフトは大剣を構え、上段から炎を叩き切る。しばらくの間、両者の技の相殺が続き、お互いの技が弾け飛んで両者は距離を取る。
その間に歩兵が銃を構えながらリスナイフトを囲い始める。
「貴様!何者だ!?」
「私?私はねぇ、戦の神リスナイフトって言うのよぉ。私は戦いを楽しみにしてるの、帰って欲しければ誰か強い奴と戦わせなさい」
「みんな退け!そいつは只者じゃない!」
兵士達は立川の声を聞き、ゆっくりとリスナイフトから距離を取る。
「どうしたの?やらないなら私が勝手に選ぶけど?」
そう言って上唇を舐めるリスナイフトに、兵士達は冷や汗をかく、一人を除いては。元帝国軍一級魔道技師であり、魔法に精通した女性のみに与えられる(魔女)の称号を持つサーシャは臆しなかった。
「私がやるわ」
「サーシャ、勝算は?」
「私個人で20、ケイイチと私で40、でもその場合の2人とも死んでしまう確率は60よ」
「なんだ、100回やれば40回あいつを倒せるんじゃないか」
「そう言うことね……で、どうするの?」
「2人でやるしかねぇだろ?少しでも勝算をあげよう」
「了解、行くよ?」
「GO!」
サーシャが剣を構えてリスナイフトへと突撃し、立川がM4で援護射撃をする。弾は正確にリスナイフトの頭部、胸部、腰部へと吸い込まれて行く。
「全員手を出すな!周囲を取り囲んで警戒しろ!」
「了解!」
「はぁぁあ!!」
サーシャは上段から回転斬りを繰り出す。しかし、リスナイフトは一瞬で大剣を持ち替え、すぐさま防御する。
金属がお互いを弾き、火花が散る。
「凍てつく氷よ、汝、其の方を貫け、氷槍」
「聖なる光の壁!何者も拒絶する鉄壁!聖光防壁!」
リスナイフトが放った氷の槍を、光の防御魔法で防御するサーシャ。周囲にいた兵士達は、目の前で起こる幻想的で非現実的な戦いに見入ってしまっていた。
「纏えイフリート!其の剣に真実の炎を!レーヴァテイン!」
「なっ!?なんで人間の魔法使いごときが英霊召喚魔法なんて使ってるの!?」
サーシャの剣からは二つのツノを持ち、トカゲの様な体つきをした巨大な生物が、絶えずオーラのように吹き出ている。
「くらえ!」
サーシャは片手で柄を握ると、横へレーヴァテインを斬る。斬った部分から放射線状に炎が吹き上がる。さすがのリスナイフトも、上位ランクの魔法に焦り、防御魔法を展開する。
「今よケーイチ!」
「せいやぁあ!!」
隙をついた立川がリスナイフトの服を鷲掴みにし、力の限りを尽くして背負い投げる。
「くっ!?」
「拘束した!手錠をかけろ!」
「拘束魔法を付与するわ!こいつは神よ!」
「離せ!離しなさい!」
「誰か!?足と手を抑えろ!!」
数分後、格闘の末に戦神リスナイフトは拘束されてしまう。手錠だけならば彼女はたやすく逃亡できるが、魔女の拘束魔法が付与された手錠なため、逃げることができない。
「さてと、こいつどうする?」
「まぁ攻撃してきたとはいえ、我々と戦っていた天人をやっつけてくれたので……おとがめなしって事にします?」
「こいつを、榊原2尉の所へ連れて行ってくれないか?」
「ビクッ!?」
榊原のワードを聞いたサーシャが背筋をビクッとさせる。よほど、尋問がトラウマになっているんだろう。
「ちょ、ちょっとリスナ!?」
新たな声の方向に一同が目を向ける。そこには橙色のロングヘアー美女、デルヒンヴリリュがいた。
「あ〜すまんデルヒ!捕まっちゃった」
「えっ!?ほんとに!?あっ!?ほんとだ!?」
「おい!」
「ひ?ひゃあい!?」
いつのにかデルヒンヴリリュの周りには大勢の兵士が銃口を一斉に彼女に向けていた。
「質問に答えろ、答えないならそのいっぱいの穴から火が吹く。あんたらは何者だ?」
「私は知と慈愛の神デルヒンヴリリュです。呼び方はデルヒで結構です。それで、こちらは戦の神リスナイフトで、呼び方はリスナで構いません」
自己紹介を聞いた立川は彼女の目の前へと歩み寄る。
「自分はIPKF神界派遣部隊陸上自衛隊第一中隊長、立川圭一1等陸尉であります。この部隊の責任者でもあります」




