P40 神々の愉悦
新地特別調査部隊と言う名のIPKF神界侵攻部隊が天界で部隊を投入しているころ、彼らの目的地である神界の古風な神殿の中に、白髪の老人が女と戯れていた。
クロノディアス、地球側が異世界と呼称する世界の神の中でも、頂点に君臨する最上級の神であった。もちろん、彼と戯れている女はほとんどが愛人の女神であり、彼の性癖が垣間見れる。
そんな彼に1人の女神が呆れた顔で近づく。彼女は知と慈愛の神デルヒンヴリリュであり、神の階級でいうと上級神である。橙色のロングストレートに蒼目の美女である。
「クロノディアス様…………クロノディアス様!!」
「ん?なんじゃ?」
「異世界の地上人の軍が天界へ侵攻しました。どうやら我々の放ったガリルとロックが撃退されたようです」
ガリルは神狼、ロックは巨人兵の事である。
「ふむ、なんじゃそんなことか。すまんがちょい待っててくれ」
取り巻きの女神を抑え、クロノディアスが階段を降りてくる。その足取りは、まさに数多の神々の頂点に君臨する者の存在感を出している。
「リスナイフトを送り込むのじゃ」
「り、リスナイフトをですか!?」
戦神リスナイフト、またの名を青の狂犬リスナイフトという。彼女は中級神ではあるが、その桁外れの戦闘能力と並外れた精神力は、上級神である軍神フラウマンと同格と呼ばれている。
そして、彼女は特殊な趣味をお持ちでもある。
「で、では。リスナイフトとその部下を向かわせます」
「それでよい、下がるのじゃ」
神室を離れたデルヒンヴリリュはため息を付く。彼女は知っていた、侵攻してきている異世界地上人たちがどれほど強いのかを。送り込んだ神使を瞬殺し、この神界の下にある天界まで攻め込んできたのだ。
「仕方ない、とりあえずリスナに伝えに行かなくちゃ……」
神殿を出たデルヒンヴリリュは、広場の近くにある噴水へと歩いていく。その噴水に座っていたのは、胸元が大きく開いた衣装と、背中に氷の様な装飾をつけ、右目を氷の結晶の様な大きな眼帯で覆った少女だった。
「り、リスナ……」
「なに?デルヒ」
凍てつくような冷たい視線を向けられたデルヒンヴリリュは背筋を凍らせる。彼女はまだリスナイフトとは仲の良い方である。しかし、リスナイフトが向ける視線には今だに慣れない。
「クロノディアス様からの命令で、天界に侵攻してきた異世界軍を撃退しろって」
「はんっ!何で私がそんな面倒くさいことしなくちゃいけないのよ!?私はこれからとっても大事な時間なの」
「で、でも。最上級神様の言うことだし、現に神使として赴いたアルカはやられちゃったのよ」
「ふーん……ま、いいわ。でも、今回の命令を聞くにあたってそれぐらいの報酬はあるよね?ただでさえあのジジイの言うこと聞かなくちゃいけないの」
「報酬は……」
「デルヒ、あなたの体よ?」
そう言って立ち上がったリスナイフトは、手元にあった大剣でデルヒンヴリリュの胸を突つく。デルヒンヴリリュは顔を赤らめながら、渋々頷く。
「交渉成立ね、じゃあ行ってくる」
「待って、私も行くから」
「デルヒ、あんた報告書の整理は?」
「んなもん後回しでいいわよ!」
そう言って2人は神界から姿を消した。向かった先は、天界と神界をつなぐ古代遺跡の最深部であった。彼女らはゆっくりと階段を上がると、入り口へと向かう。
「ほう?なかなかやるね、人間」
丘の上から見下ろした先には、異世界の軍(IPKF)と天人達が戦っている森があった。
「どうやら、異世界軍は奇妙な奴らなのね」
「彼らを侮ってはいけないわリスナ、彼らは士気が高く、武器も優れ、練度も良いわ」
「なら……とりあえず力だめしと行きましょうか!」
リスナイフトが大剣を振りかぶると、周囲の空気が凍りつく。そして、冷気を纏った刀身が地面に叩きつけられる。叩きつけられた地面は氷山が突き出し、天人の街を凍らせながらまっすぐ地を破壊し、道を作る。
「さぁ、戦おうか異世界人」




