P39 反撃開始
イルアムナ上空は、天界へと進軍する全ての部隊を乗せた航空機で埋め尽くされていた。第一陣は歩兵が中心となった編成だが、後から続々と車両が空輸される手はずになっていた。
「目標まであと五分!!」
自衛隊ヘリ、UH-60JAの機内には、休暇から戻ってきた立川の姿があった。もちろん、その横には金髪の髪がトレードマークのサーシャが座っている。
しかし、誰一人として口を開かない。天使と遭遇した場合の生存率は50%、生きるか死ぬか、一つの博打の前に全員が貝の殻の様に口を閉じて、自分たちの機体が攻撃を受けない様に祈っていた。
「11時方向!天使6!!」
全員に緊張が走る。キャビンの横に備え付けられたミニガンをドアガンナーが撃ち始める。
「サーシャ、部隊の周りに薄い結界を張ってくれ」
「分かった」
サーシャは呪文を唱えると、編隊の周りに薄い結界を張った。サーシャの魔法は主に防御魔法と呪縛であり、強力ではあるが、それは個人や単体に対してである。こうして全体を囲む様な魔法を使うと、どうしても能力は弱まってしまうが、天使の武器である弓の威力を軽減したり逸らしたりする。
ドアガンナー以外にも、サイドステップに腰掛けている隊員達が89式やMINIMIで応戦する。天使の一体は集中砲火を食らい、翼を捥がれて失速し墜落していく。
「装甲天使急接近!!」
そのうちの一体がヘリに向けて特攻してきた。その天使は天使の中でも堅固な皮膚を持つ種族で、人間界で例えれば一般人と違い、プロレスラーの様な種族である。
護衛の戦闘ヘリAH-64Dロングボウアパッチが応戦する。しかし、その数に押されていよいよ彼らの目前にまで迫ってくる。
「衝撃に備えろ!」
パイロットの声で搭乗員全てが頭を抑える。しかし、後少しと迫ったところで装甲天使が撃ち落とされる。撃墜させたのはロシア軍のSU-37であった。
「やるね〜!」
「いいぞやっちまえ!」
増援に来たロシア空軍のおかげで、部隊は無事に空島へとたどり着いた。到着した部隊は主に米軍海兵隊、自衛隊西部方面普通科連隊、中国人民解放軍海軍陸戦隊、ロシア軍親衛空中旅団である。
扉から出て来た神狼を迎撃し、ついに彼らは門をくぐり、天界へと足を踏み入れた。
「なんだここは?」
ロシア兵がそう口にした天界は、一面が森林であった。侵攻部隊はBMP-3や89式装輪装甲車を先頭に森を進む。特に襲撃を受けることもなく、ただ部隊はひたすら前へと進む。
すると、前方を偵察していた無人偵察機が街の様なものを発見したのだった。20mはある壁の向こう側に、背中に翼を持った翼人のような生物が生活を営んでいた。
部隊はすぐさまこの事を総司令部へと伝達する。おそらく、彼らが来たのはあの忌々しい神の住まう神界ではなく、神の名の下で暮らす天人たちの世界、天界であった。
司令部から接触を図れと言われた彼らは、交渉に慣れている自衛隊からなる偵察部隊を編成し、街へ侵入する。
壁についた偵察部隊は、まず壁の性質を確認する。確認するのは自衛隊、元中央即応連隊第一中隊長、立川圭一1等陸尉であった。
「レンガか……他に入口がないか探そう」
「立川1尉、前方500mに門を発見」
「俺が行く、他は隠れて援護してくれ」
偵察隊はいつでも立川を援護できる位置に配置するとそのやりとりを見守る。彼の横にはサーシャもいる。
「こんにちわ、ここは何の門ですか?」
「何だあんた?見ないなりだな」
「我々、異界の門からやって来ました異世界の人類です。交戦の意思はありません、通してもらえますか?」
「い、異世界人だと!?ふざけるな!お前らのせいで神軍が天界までやって来て迷惑してるんだ!とっとと帰れ!」
翼を持つ門番に門前払いされた立川は、部隊にありのままを報告した。
しかし、驚くことに部隊はすでに敵と交戦中であった。立川が門前払いを受ける少し前、侵攻部隊の陣地に20人組の盗賊らしき翼人達が攻撃を仕掛けてきた。彼らは空を縦横無尽に飛び交い、魔法と思われる力で作った槍を歩兵部隊に飛ばしてきた。
これを明確な敵対攻撃と見なしたIPKFは、すぐさま反撃を開始した。




