P37 第一防衛ライン壊滅
第一級戦闘配備を命令された米中IPKF部隊は、来るであろう神軍に対して迎撃準備を整えていた。後方陣地にあるロシア連邦軍の早期警戒レーダー「ヴォロネジM」が敵の出現を確認した。
中国人民解放軍と米陸軍が迎撃準備を整える。どちらも両軍の中ではかなりの精鋭であり、武装も申し分ない。
「来るぞ」
現れたのは天使だった、迎撃に飛び立ったF-22ラプターが機関砲で攻撃する。たちまち空は天使とラプターの空戦となってしまった。それも、天使は数で圧倒する戦法をとってきた、しかし、速度で勝るラプターも負けてはいない。
「新たな敵を発見!」
地平線の向こう、何やら巨大な物体と無数の物体が迫っているのが見えた。白い、狼のような生物と、某アニメ映画で圧倒的力を見せた巨人兵に酷似していた。狼は速度が速く、見る見るうちに陣地に迫って来た。
「撃て!とにかく撃って撃って撃ちまくれ!」
M16A4と03式自動歩槍が火を吹く、弾丸は正確に神狼と呼称される白い狼に着弾し、その数を減らしていくが、なにぶん数が多過ぎる。中国軍の99式戦車も応戦するが、それでも埒が明かない。
「航空支援を要請しろ!」
戦闘航空管制員(CCT)の隊員が基地に航空支援を要請する。数分後、スクランブル発進して来た3機のA-10サンダーボルトが、機銃掃射を敢行してくれた。神狼は跡形もなく吹き飛び、消え去った。
しかし、事態はそれだけでは終わらなかった。巨人兵が迫って来る、大きな口を開き、サンダーボルトの攻撃を物ともせず米中陣地に向けて怪光線を放って来た。その位置にあった陣地は跡形もなく吹き飛び、第一防衛ラインはほぼ壊滅状態に陥った。
上空で空戦を繰り広げていたラプターも、奮戦するが数で圧倒され、次々に撃墜されていく。矢が当たったぐらいでは落ちないが、当たりどころが悪かった、すべてエンジン部に当たっていたのだから。
「ようするに、この言い訳だらけの報告書によると?たった一体の巨人兵にIPKF米中連合部隊が壊滅、人員500名、車両150両、火砲20門、航空機10機、本部にどう説明する気だ?」
「申し訳ございません大佐、 地上部隊のみならず航空部隊にまで損害を出してしまったのは、情報部の失態です。どうやら、神は神なりに我々の弱点を研究したようです」
アメリカ軍所属の情報官、ブラックバーン大尉の報告を聞き、ため息をつきながら報告書を読むヨハン・レファネンス大将は、各方面軍司令官と大隊長たちと机を囲んで座っていた。
「被害箇所がすべてエンジン、コックピットにも被弾?どう言うことだ?」
「おそらく、前の神使に航空機の弱点を見抜かれていたのかと」
「あいつか、なるほど」
「大将、どうされます?」
少し考えたヨハンは、ふむと頷くと。
「なら、こちらから打って出ようじゃないか。やつに攻撃させず、守りに徹せさせばいい」
「では、どうすれば?」
「戦力の再編成を行う。それと、研究本部に電話してくれ、あれを使うと」
「あれですか……」
「目には目を、歯には歯を、すごい敵がいるなら同じようなやつをぶつければいい」
情報官が固定電話の受話器を取ると、とある番号へとかける。電話がかかった相手はアラスカの機密研究所。ここには米日独露の四国が共同研究、開発していた新兵器が格納されていた。
超大型人造陸戦兵器、通称『ヴァイブ』その初号機である救世主は、電話を受けた直後に、アラスカに人工的に開けた門をくぐり、強大な敵の待つ戦場の最前線へと向かった。
日本、種子島宇宙センターの特別室。2人の白人男性が特殊服を着て特殊な器具を操っていた。2人は近未来的なフォームの服を身につけ、関節部分を連動させるための装置をつけて動いている。
『ジャック准尉、バーンズ少尉、緊急出動の要請です』
彼らの名はジャック・バレンタイン米空軍准尉、バーンズ・バレンタイン米海軍少尉である。2人は兄弟で、今回の戦争にはヴァイブの操縦者である『脳』として参加する予定だ。
ヴァイブとは、2人が一つの世界を共有して動くもの。つまり、二人三脚で竹馬を動かすと言う至難の技が要求される。もちろん、誰にでも出来る事ではなく、親族や恋人など、息の合うペアでしか操縦出来ない。
「いいか、ジャック?訓練通りやればいい」
「分かってるよ兄貴」
2人はユニフォームから軍服に着替え直すと、迎えのティルトローター機V-25ナイトブレードに乗り込み東京へ、そこから自衛隊渋谷基地を経由して最前線であるイルアムナ平原へ向かう。




