P33 全面衝突〜後編〜
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自衛隊の大規模作戦開始から3時間、場所は変わって薄暗い上空8000m、C-5が四発のジェットエンジンを発動させ、優雅に飛んでいる。その機内、完全武装の上に空挺装備を担いだ兵士たちが、ただ無言で座席に座っていた。彼らの肩には鋭利な刃を持つ鎌を持った死神のワッペンが縫い付けられている。
陸上自衛隊、特殊作戦群SFGp、その中でも特に精鋭とされ、公には存在しないことになっているチーム9、通称「亡霊部隊」、その名の通り亡霊のような存在になっている究極の秘匿部隊である。
「あー、ハローハローこちらカーゴ1、ただいま帝都上空に接近中、サンタからのプレゼントは真夜中によく出る亡霊であります」
『こちら管制塔、了解した。司令部からの伝言だ、ゴーストに作戦行動開始を許可する。作戦名は聖杯戦争、目標は聖杯の確保、幸運を祈る。以上』
「了解、作戦開始、通信終了」
亡霊部隊、隊長の鈴宮高時1等陸佐は立ち上がると、部隊員達の方を向き直した。全員が黒のヘルメット、黒いバラクラバに暗視装置を付けているため、顔がまったく分からない。
「総員起立!」
鈴宮隊長の声で、一斉に立ち上がる。
「降下一分前」
「「「一分前!」」」
声を復唱し、1人が後部ハッチを開ける。
「装備確認、よし!パラシュート確認、よし!降下準備!」
後部ハッチから物資などが投下される。ランプが赤から青に変わる。それに続き、亡霊達が空から飛び降りる。
「降下!降下!」
地上に向けてひたすら落下する。一般人なら悲鳴を上げるかもしれないが、彼らは精鋭中の精鋭だ、声も出さずただ高度計を見つめる。
鈴宮が合図すると、隊員たちのパラシュートが開き、夜空に黒の花が咲きほこる。ゴースト隊員たちがパラシュート降下したのはイージニア帝国の帝都、そしてその帝都の中央に位置する政治中枢、王宮である。
すでに、帝都に潜入していた特殊作戦群チーム8が周囲の敵をあらかた無力化していたため、誰にも悟られずに王宮の南宮へと無事着地した。
それから彼らは一切言葉を口にしなかった。ただ、ハンドサインだけで連携を取り合っていた。
亡霊の武器は主にサイレンサー付きのMP7、そしてサイドアームにM1935と言う自衛隊ではあまり見られない装備をしている。普段はもっと重装備なのだが、なにぶん作戦が空挺降下なので、必要最低限の装備である。
総勢20名の亡霊は、二手に別れ始めた。αチームは聖杯の確保、βチームは敵勢力の無力化である。
「ん?」
王宮に侵入していた彼らの目の前、通路であくびをする衛兵がいた。隊員が後ろからゆっくり近づくと、口を押さえ喉を一突きする。そして、素早く横に書き切る。衛兵は自分がどうして殺されたかわからないまま、糸の切れた操り人形のように崩れ落ちる。
「うっ!どうし!?」
近くにいた衛兵が気づく前に、頭を撃ち抜く。そして、人間とは思えないほど早い動きで通路を駆ける。
*
「ほ、報告します!裏庭に正体不明の敵を確認!王宮に侵入しています!」
「な、なんだと!?」
王座に座り、机の上に広げられた戦略地図を眺めていたフィトュナス・ペルクナテスは、伝令の突然のニュースに耳を疑った。
「げ、現在!近衛衛兵が応戦中であります!しかし、相手は人ならぬもの、場内では苦戦を強いられています!」
「すぐさま隠し通路から逃げる!何としてでも時間を稼げ!」
フィトュナスをそう言うと、王座の真下にある隠し通路を開ける。そして、数名の護衛とともにその中へと消えて行く。次の瞬間、王座前の扉の角が四ヶ所爆発され、豪快に吹き飛ばされたあと、亡霊たちが中へと入ってきた。
「右クリア」
「左クリア」
「捕虜1名確保、おい、床に座れ」
伝令は抵抗するそぶりを見せず、亡霊たちの言うことを素直に聞いて床に座り込む。
「皇帝はどこだ?」
「皇帝なら今しがたあの地下通路へと続いているトンネルの中だよ」
1人がハンドサインでトンネルを指差す。
「こちらαチーム、聖杯はルート7へ移動した模様。HQ、命令を」
『ふむ、潜入していたチーム8からの情報だと、ルート7の先は二手に分かれている。一方をα、反対側をβが抑えろ、なんとしてでも聖杯を確保せよ』
「了解した、命令を遂行する」
その頃、地下通路を必死で駆けていたフィトュナスは、長い通路の移動に疲れ果てていた。
「はぁ、はぁ、出口はまだか!?」
「陛下!あと少しで海です!そこから船でナルガフ連邦へと亡命します!」
「て!敵襲!」
隠し通路のT字路、海へと脱出する通路の反対側から、ゴーストが突入して来た、フィトュナスは魔法使いの護衛を数名殿にし、自らと側近を連れて船着場へと逃亡する。
「いそげ!急ぐんだ!」
魔力を動力源にして動く中型の船に乗ると、海原へと脱出する。
「やっと逃げれた、私がいる限り、帝国は永久不滅だな」
「陛下、申し訳ありません」
「ん?どうした?」
フィトュナスが側近を見ると、彼の首元に刃物が添えられていた。周りを見ると、いつの間に現れたのか、亡霊たちが銃を向けて取り囲んでいた。
「フィトュナス・ペルクナテス皇帝陛下でございますね?」
「いかにも、儂がイージニア帝国皇帝、フィトュナス・ペルクナテスである。頭が高いぞ貴様ら、どこの犬だ?」
「我々は日本国、陸上自衛隊の特殊部隊でございます。我々は日本政府との度重なる交渉要請を拒否したあなたを連行するために派遣されました。陛下には我々にご同行願いたい、側近の首が繋がっている間に」
「くっ、儂は八方塞がりと言うわけか?」
「ご理解が早くて助かります」
上空にプロペラ音が鳴り響く。Vー22オスプレイの後継機として主に市街地作戦や離島作戦に投入される日米合作の巨大ティルトローター機V-25ナイトブレードが降下して来る。大きさはオスプレイの約2倍、対地対空ミサイルに30mmチェーンガンを装備している最強のティルトローター機である。
「こちらナイトブレード1-1無事かゴースト?対地支援は必要か?」
「こちらゴースト、心配ないナイトブレード1-1、こちらは聖杯を確保した。回収を頼む」
『了解、降下する』
「お迎えが来ました、陛下にはしっかりとお話を聞かせてもらいます」
ナイトブレードは夜空へと消えて行く。
20XX年、イージニア帝国崩壊。カラトナス・ペルクナテスを首相とした新政権を樹立、名をイージニア国とし、民主主義の新国家として日本の指導のもと再スタートをきった。
あと1話投稿すると新章突入になります
 




