P32 全面衝突〜中編〜
「起きろぉ曹長」
目の前に昔はやったヒーローのソフビ人形がちらつかされる。
陸上自衛隊主力戦車、10式戦車の砲塔の上で居眠りしていたのは、富士教導団の機甲部隊に所属する伊達清次陸曹長。本来なら敵地に向かうまで仮眠していたつもりだが、どうやら伊達達の乗る10式の車長は寝かせてくれないらしい。
「あと5分で戦闘地域だ、気合入れていくぞ」
「まだ5分ありますよ3尉。こちとら昨日から寝不足で死にそうなんです」
「おいおい、全ての部隊の教師たる教導団隊員が寝不足?なまってるなぁ、返ったら腕立て500ね」
「うげっ、殺生な……」
上司の神蔵由人3等陸尉は、ケラケラ笑いながらハッチを閉めて車内に戻る。周りを見渡す、何両もの10式戦車に加え、陸自の装甲車の96式装輪装甲車やAAV7、15式装甲戦闘車などが多数連なっていた。
『こちら指揮車、全車に告ぐ。我が部隊はあと5分でバイラム高原に到着する。我々の目的は、帝都奪取を任務とする普通科部隊の安全な輸送、及び敵勢力の排除だ。輸送車には傷跡一つつけるな』
「聞こえたか曹長、そこから降りてきて砲手席につけ」
伊達はM2重機関銃が備え付けられた砲塔上部から中へと入り、砲手席へとつく。そしてモニター越しに外の様子を確認する。
「いた、1時方向に敵、距離800」
『全車停止、隊列を組み直せ。C4Iシステムを作動、戦術データリンク開始』
すると、伊達の覗くモニターの右上に、周辺の地図と敵の所在が記される。これは、上空から偵察しているUAVからの情報を、システムを搭載している車両が共用しているのだ。これにより、どの車両が敵と接触しても、他の車両に敵の情報がそのまま伝えることができる。
『逆V字隊列で微速前進、砲手は砲撃用意』
「いそげ伊達、遅れるな」
「了解、APFSDS弾装填完了。3尉、初弾命中ですよね?」
「そうだ、一撃必殺百発百中、目標を発見次第全力で叩き潰せ、サーチアンドデストロイだ!」
伊達は旧帝国軍の地竜と呼ばれるドラゴンに照準を合わせると、躊躇なくトリガーを引く。主砲から発射された砲弾は、一直線に地竜に向けて飛翔する。そして、地竜の堅固な鱗を貫き、爆散させた。
「初弾命中!」
「おいおい、機動力も防御力もT-72みたいなやつだな、俺たちの敵じゃねぇよ」
「敵弾、来ます!」
ドシンと車体が揺れる、しかしどこも異常が見られない。どうやら地竜から放たれた火球は10式の装甲には通用しなかったようだ。
「やってくれたなおい?トカゲ野郎」
神蔵3尉の額に青筋が浮かぶ。
「踏み潰せぇ!!」
伊達の10式は瀕死状態の地竜に乗り上げ、キャタピラを左右逆に回転させ、ぐちょぐちょに踏み潰して行く。
「3尉!11時方向より新手!オーガです!?」
緑の巨人、オーガが走ってくる。すると、オーガが手に持っていた棍棒を放りつけてくる。棍棒は側面を向けていた2号車のキャタピラに直撃する。なんと、棍棒が爆発したから驚きだ。
「2号車が!」
『こちら2号車、キャタピラがやられた。修理が完了するまで援護を!』
『全車聞こえたな?2号車が行動不能だ、4・5号車は2号車の支援、俺の1号車と3号車は遊撃だ』
「こちら2号車、了解」
各車両がそれぞれの持ち場へとつく。そして、全車が一斉に空へスモークを撃ち放った。
「サーマルビジョンに切り替えろ」
「了解」
何も見えなかったモニターが熱源探知式へと切り替わる。オーガの形をした熱源体が真っ白の煙の中でも丸見えだった。
「いいな、こっからは一方的なワンサイドゲームだ。遠慮はいらない、蹴散らせ」
徹甲弾を装填し、砲身をオーガへと向ける。撃ち放たれた徹甲弾は、オーガの腹部を直撃し、大きな風穴を開けて無力化した。伊達は次々とオーガを処分し、ついに最後の一体を駆逐する。
「こちら3号車、敵対勢力の排除を確認」
『こちら1号車、2号車はオオトリが回収に来る、これより港町ハイゼンへ向かう』
伊達たちは大爆発の起きた港町、ハイゼンへと進行する。




