P30 それぞれの戦場 米軍編(後)
「如何なさいます?大統領。異世界での戦況を鑑みるに、戦力増強が望ましいと」
「カーニー補佐官、それは愚問と言うものだよ」
ホワイトハウス、大統領執務室。世界の中心とも言えるこの部屋の座席に座るのは、時の米大統領、クローム・ルシフス。クロームは執務室から外を見る。
「これが何を意味するか分かるかい?」
クロームが指差した先には、ホワイトハウスをグルリと囲んで、何百人いや、何千人という人々が、反戦デモを行っていた。
「戦争をやめろ!うんざりだ!」
「クロームは退陣しろ!」
「戦争反対!悲劇を繰り返すな!」
クロームはカーテンを閉めると、テーブルにあったコーヒーを飲む。そして、ため息をついて語り始めた。
「反戦デモはここだけのみならず、ロシアや日本、欧州でも頻繁に行われています」
「分かっているよ。事は急を要する、あの兵器を投入して一気にケリを付けたまえ。これ以上の戦力投入は難しい、ここで一気に片を付ける。分かったか、アイゼン国防長官?」
「分かりました。ならば、これより待機部隊にデフコン1を発令、コードネーム、QR-Xの出撃を許可します」
「頼むぞ」
執務室に集まっていた合衆国のトップたちは、再びコーヒーを飲んだ。そのコーヒーは、なぜか何時もより苦いと感じた。
*
米軍、エンゼルバッツ基地。今日未明、直通しているニューヨークからとあるコンテナが運び込まれて来た。
何十個ものコンテナがオスプレイに運搬され、最前線であるエンゼルバッツ王国王都まで運び込まれて来た。
「軍曹、荷物が届きました」
「よし、開閉しろ」
コンテナの扉がゆっくりと開けられて行く。そこから出て来たのは、フナムシの様な巨大な甲殻類だった。その甲羅には、40mmグレネードや20mmバルカン砲が砲台となって装備されていた。
「こいつは……」
「生物兵器、BOWだ」
「せ、生物兵器!?」
「まぁ見ていろ」
兵士の1人がコントローラーパネルを操作すると、BOWは目を赤色に輝かせ。あの海のゴキブリと呼ばれたフナムシのようにカサカサと敵陣へと突撃していく。
「うわっ!なんだあれは!?」
「虫だぁ!!」
陣を張っていたエンゼルバッツ軍の兵士たちは、BOWのバルカン砲による攻撃を受け、肉片と化していく。BOWは、元々の生物の名残りか、散らばった肉片を綺麗に食べていく。
「う、うえ……」
「なんだあれ……気持ち悪」
「遺伝子変換で巨大化、主人への忠誠、戦闘能力と防御能力を底上げした虫だ。こんなもの使うなんて、正直おかしいぜ」
「何をしてる!?全員出撃だ!」
BOWの後に続き、海兵隊の精鋭部隊が進軍を開始する。城の堀をAAV7が乗り越え、王都へと進む。BOWは高い城壁をよじ登り、上から40mmグレネードをばらまく。
エンゼルバッツ王国の王都は、グレネード弾や榴弾砲、爆撃により火の海となる。王族は城の地下から脱出しようとしたが、潜入していたCIAの情報をもとに先回りしていたデルタフォースに捕らえられ、アメリカ本国へと輸送される。
この日、異世界から一つの国が消滅し、新たな傀儡国家が誕生した。




