P20 耳長族
「榊原くん、君はこいつらをどう見るかね?」
「どうって須藤1佐、これは何処からどう見てもエルフじゃないですか?」
「エルフねぇ……」
「1佐、仮にでもここは異世界です。我々の常識は通用しませんよ?」
「だったな」
執務室に転がる死体を見つめるのは、第一戦闘団の団長である須藤1佐と、キツネの煌、榊原情報官である。榊原は、エルフが基地を襲撃したという情報を聞き、駆けつけてきた。
「生き残りはいますか?」
「本当に奇跡だ。外に急所を外れて苦しんでいる奴がいた……まさか榊原くん、そいつから情報を聞き出すとか」
「言いますよ、案内してください」
須藤はため息を着くと、基地の医務室へと榊原を案内する。入り口にいた警務隊員に危険物を持っていないかチェックされ、入室する。
そこには、輝くような金髪を肩まで伸ばした美しい女性エルフが、看護師からの介護を受けながら食事をとっていた。
「これはこれは、美しい妖精さんがえらいツラしてますねぇ」
榊原のその言葉に、女エルフは拳を叩きつける。おぼんが揺れ、スープがこぼれる。
「今のは酷いんじゃないですか!?」
反論したのは意外にも、エルフを介護していた看護師だった。
「部外者は出てくださいねぇ、あんたには用はないですから〜」
「そういうことだ、すまないが出て行ってくれないか?」
看護師は明らかに不機嫌になりながら退室する。残ったのは、須藤と榊原とエルフの3人である。
「私は榊原って言います。おたくの名前はなんでしょうか?」
「…………だ」
「聞こえませんね?えぇ?負け犬ですって?」
榊原がそう言うと、エルフはそばにあった食事用のナイフを取り、榊原に思いっきり刺そうとした。
「これはこうやって使うんですよ?」
榊原は刺して来た右手を抑えると、ナイフを取り上げ、手の指と指の間の板を突き刺す。
「くっ!?」
「はっきり言いましょうね?お名前は?」
「……リィールだ」
「リィールさんね……、んじゃ簡単に聞きますが、今から答えてもらう質問にきっちりと答えてもらわない場合、我々はエルフを敵対生命体と判断し、見つけ次第殺すか捕虜にします」
「な、なんだと!?」
「逆に、協力してくれれば何も危害は加えません。どうですか?良い案でしょう?」
エルフは設定上、プライドが高いと描かれている。その上、同胞を大切にすると聞いた榊原は、上手く彼女を釣る。
「分かった……いいだろう」
「じゃあ早速ですが、あなたは何で基地を襲撃したんですか?」
「帝国兵に命令されたんだ」
「ほう?」
「私の村には帝国軍が駐屯している。彼らは同胞を人質に取り、私たちを無理やり戦わせている」
榊原はなるほどねぇと頷く。
「ようは、エルフの村を救ってほしいと?」
「そうだ」
「なるほどねぇ……須藤1佐」
「なんだね?」
「部下をお借りしたい、第1偵察隊を私の指揮下に置いて下さい」
須藤にそう言った榊原の顔は、今年で1番不気味だっただろう。




