P18 キツネの尋問
そうです、皆さんに人気の魔女サーシャは、こいつのせいで日本に利用されています。
自衛隊渋谷駐屯地内にある渋谷駅は、あの事件以来、列車が停車しない存在しない駅となった。そんな駅の地下、渋谷地下街の最下層では重々しい雰囲気が漂っていた。
何人もの陸自警務隊の監視の目の先、先日の事件で逮捕されたイージニア帝国異世界派遣軍総司令、ハッサムは今、取り調べを受けていた。
「蛮族どもが……帝国軍精鋭部隊の指揮官であるワシを捕まえて調子に乗りおって」
「その蛮族とやらに滅ぼされ、捕まった精鋭部隊の指揮官とやらに聞きます。調子に乗ってるのはどっちでしょうね〜」
ハッサムの目の前でそう皮肉るのは、自衛隊情報本部、統合幕僚会議事務局第2幕僚室所属の榊原煌2等陸尉である。開いてるか閉まってるのか分からないぐらいの狐目で、長身が特徴的な男で、あだ名が『キツネの煌』だ。
その由来は、どんな相手に対しても冷静に、時には相手の弱みに漬け込んで情報を聞き出すエキスパートだからだ。
「早くワシを国へ帰せ」
「あれ?聞こえませんでしたか、あなたは今現在日本の支配下にいます。当然、ここはあなたの国ではありません」
「そんな事はどうでもいい、早く帰せと言っているのだ」
「帰す理由が見当たりませんねぇ〜、あなたには我が国に攻め込んだ経緯と、帝国の兵力を細か〜く説明して貰わないといけませんからねぇ。答えて頂けなければ、痛〜いお仕置きがありますよ?」
すると、ハッサムの後ろから目出し帽を被った陸自隊員が現れ、彼の右腕にメスを突き刺す。苦痛の悲鳴が部屋に響き、警務隊員たちは思わず目を逸らしてしまう。
「どうですか?喋る気になりましたか?」
「やはり貴様らは蛮族だ!やることが下等だ!」
「足りないみたいだねぇ、もういっちょ行ってみよう」
再びメスが突き刺さられ、ハッサムは痛みに観念したかのように榊原を見る。それを見た榊原は「落ちたぞ」と言って先ほどの目出し帽の陸自隊員に止血剤と痛み止めを注入させる。
榊原はこれに似た拷問で、サーシャの精神をグタグタになるまで追い込んだ。そのやり方は、目の前で電動ドリルを木の板に貫通させ、次は彼女の手の平の上で動かすというやり方だ。拷問は最低の行為と呼ばれているが、案外戦場では一番多く行われている手っ取り早い尋問方法だ。
「では、まずはこれから聞きましょうか?なぜ、あなた達は我が国……いや、この世界に攻めてきたのですか?」
「はぁ……はぁ……神の意志だ……」
「ん?神の意志?おたくは何か変な宗教でもやってるんですか?」
「し、信じてくれ……これは本当だ。ワシらが信仰する神は、ワシらの世界に飽き、異世界に侵攻させるために時空の裂け目を作った……」
「ほぅ、それは非常に興味深い。で、そのバ神どもはどこにおいでですか?」
「て、天空だ、神は天空に存在する神界に住んでいる……天空には、神界に入ることができる門がある」
「その門はどこにありますか?」
「空に浮いている島だ、そこに神界への扉が存在する」
「なるほどね……ん?」
「榊原情報官、これを」
榊原に渡されたのは一枚の写真だった。それを見た榊原はニヤリと笑う。
「まさか、お前ら神を相手にする気じゃないだろうな!やめておけ!国ごと滅ぼされるぞ!」
「まさかぁ、まずはあなた達の国ですよ」
そう言って榊原は写真を置いて立ち去る。その写真には、空に浮かぶ巨大な島と、撮影現場の位置が書かれていた。
日本いや、世界への侵略をそそのかしたのは……




