P13 第1偵察隊
翌日、立川たちは第1偵察隊10名を連れて西へと向かう。車両は高機動車、73式大型トラック、15式装甲戦闘車の3台である。
「異世界ですねぇ」
「そだな」
「どうしたんですか隊長?元気ないですよ」
「何って?わかるだろが」
立川は後ろを振り向く、後部座席には小隊唯一の女性自衛官である原と、金髪の女性が乗っていた。
「魔女ですか?」
「なんでこいつが乗ってるんだよ?仮にでも敵国人で殺人犯だぞ?」
「仕方ないじゃないですか、彼女は翻訳の魔法を使えるらしいですし、実地試験を兼ねた同行なんですよ」
「俺が気にしてるのはそんな問題じゃない。魔法だ、こいつはいつでも俺たちを後ろから殺すことができる」
立川の一言で市川はハッと振り返る。すると、金髪の女性、サーシャはビクつく。その姿はシェパードに睨まれたチワワのようだった。
「ちょっと、サーシャがそんな事するはずないわよ」
「原、お前のその自信はどっから出て来るか説明しろ」
「隊長よりマシな頭でありますが?」
「狂ってないな?よし、平常運転だ。上はこいつに何をしたんだ?」
「可愛がったとは言ってましたわ」
原がニコニコと笑うと、サーシャは怯えて離れる。この女、部隊内では有名なドSである。何をしたのか想像に任せる。
「上は何をしてるんだよ……とりあえず自己紹介しよう、俺は立川圭一、この第1偵察隊の隊長を引き受けてる」
「俺は市原伸也、隊長の目付け役である陸曹長、よろしくね」
「サーシャ……サーシャ・エルバトロ・クラリス…………」
「サーシャさんか、何て呼べばいい?」
「エルバトロは家名だから……サーシャかクラリスで……」
「サーシャさん、念のために聞きますが、我々に危害を加える気はありませんか?」
「ないです……あなた達の武力を見ました。私一人どうあがいても、すぐに殺されるだけです……だから、あなた達に協力します」
「分かりました。それだけ聞ければ十分です」
再び前を向き直し、双眼鏡で周辺を観察する立川。ふと、北西に人影が見えた。
「生命体発見、10時方向」
近づくと、そこは畑だった。いたのは姉弟らしき2人の男女だった。2人は偵察隊の車列が近づくと、びっくりしたかのように身構える。
「俺が行く、サーシャさんも着いて来て下さい」
「は、はい……」
高機から降りた2人はゆっくりと姉弟に近づく。最初は緑の戦闘服を来た立川に警戒していたが、後から降りてきた金髪の女性を見ると、警戒の念を解いた。
「こんにちは、君たちは何をしているのかな?」
サーシャは、立川に翻訳魔法をかけたので難なくコミュニケーションをとれた。
「私たちは畑仕事をしてました。あなた達は何者ですか?」
「俺は日本国陸上自衛隊、第1戦闘団第1偵察隊の隊長、立川圭一2等陸尉だよ」
「私はエル、この子は弟のアルよ」
「初めましてエル、アル。私はイージニア帝国魔女のサーシャよ」
「魔女さん、このニホンジエータイという人たちは何者ですか?」
エルはサーシャに立川たちの身元について説明を受ける。
「時空の裂け目から来たんですか……」
「エルとアルの村の村長さんと話がしたいんだけど、構わないかな?」
「いいですよ、村長に伝えておきます」
エルとアルは先に村へと帰る。そのあとを自動車教習所並みのスピードで、第1偵察隊はトロトロ後を追う。




