捨てたロボット
甘口なホラーです
今から話すのは、僕が子供の頃に体験した少し不思議な話だ。話す前に断っておくと、この話は別に信じてくれてもくれなくても構わない。そもそも“不思議な話”と言っておいてなんだけど、冷静に考えれば実は不思議でも何でもない話かもしれないんだ。つまり、理屈で充分に説明はつくってこと。
じゃ、話し始めようか。
僕は小学校の低学年の頃、親にロボットを買ってもらったんだ。子供の遊び相手用の小さなヤツさ。ロイって名を付けた。僕はそれが嬉しくてしかたなかった。一緒に遊びに連れて行って、友達に自慢したりね。
ところが、買ってもらってから半年程が過ぎた辺りで、僕は別の新しいロボットが欲しくなってしまったんだ。切っ掛けは単純なんだけど、友達がもっと新しいロボットを買ってもらっていて、羨ましくなってしまったんだ。
ただ、いくらおねだりしても親はロボットを買ってくれなかった。まぁ、そりゃそうだろう。決して安くはないし、それに最新式じゃないってだけで、古くもなかったから。でも僕は、どうしても新しいロボットが欲しくってね。それでこんな事を考えたんだ。
“そうだ、ロイがなくなれば、お父さんとお母さんは新しいロボットを買ってくれるかもしれない”
いかにも幼い子供っぽい馬鹿な考えだけど、それで僕はロイを森の奥に捨てたんだ。電源を切った上で、崖の上から森に向かって放り投げた。ロイには情報端末から電源をオンにする機能が備わっていたから、電源を切るだけじゃなくんて、壊さないといけないと思ったんだ。
うん。そうだね。
子供ってのは案外、残酷なもんさ。まぁ、自分の事なんだけど。
ロイがなくなっても、親は新しいロボットを買ってくれなかったよ。それどころか、ロイをなくした事を叱られたな。まぁ、そりゃそうかもしれない。
それからしばらくして、僕はロイの事をすっかり忘れてしまった。あれほど欲しかった最新式のロボットにもこだわらなくなってね。ところがそんなある日に、子供達だけで森の奥に探検に行こうって話になったんだ。ロイを捨てた事を少しは思い出したけど、あまり気にしなかった。
しばらく遊ぶと、僕は他の友達からはぐれてしまった。しかも、既に森の奥深くだったから、帰り道が分からなくなってしまって。森の中で迷子だよ。怖かったな。やがて辺りは暗くなってきて、僕は心細くて堪らなくなった。
そのうちに、森の中は真っ暗になってしまった。街灯のない夜の森ってのは、本当に真っ暗なんだ。何にも見えない。それで僕は恐怖のあまり泣き出してしまった。お父さんの名前を呼んでも無駄。お母さんの名前を呼んでも無駄。友達の名前を呼んでも無駄。途方に暮れた僕は、そこでロイを思い出したんだな。ロイはこの森の何処かにいるはずだって。身勝手な話だけど、僕は自分が捨てたロイに助けを求めたんだ。
「ロイ、助けてー!」
って。
すると、それからしばらくして、本当にロイが現れたんだよ。暗闇に目が光ったと思って、よく見てみるとそれはロイだったんだ。僕は喜んだけど、それから直ぐに自分がロイを殺そうとした事を思い出して恐くなった。ロイが僕に復讐をするつもりだったら、どうしよう?ってそう思ったのだね。
ところがロイには、僕に危害を加えるつもりなんてこれっぽっちもなかったんだ。まぁ、ロボットだから当たり前なんだけど。
それからロイは、僕の手を引くと、そのまま森の出口まで連れて行ってくれた。ロイにはGPS機能があるから、森の出口も分かったのだろう。
明るい街灯と、コンクリートの道路を見た時は心からホッとしたな。ところが、そこでロイは動かなくなってしまったんだ。僕は電気が切れてしまったと考えた。もうその時の僕にはロイを捨てる事なんてできなかったから、道路を走って来た車になんとか止まってもらって、一緒にロイも乗せてと運転手さんにお願いしたんだ。ロイはとても汚れていたから、その運転手さんは嫌がってね。だから僕は、ロイが僕の命の恩人である事を説明したんだ。
「こんなに汚れているけど、ちゃんと動くんです。僕をここまで連れて来てくれた。今は電気が切れているけど」
ところが、それを聞くと運転手さんは変な顔をしてこう言うんだな。
「何を言っているんだ坊や? このロボットは壊れているじゃないか。そんな事ができるはずがないよ」
それで、試しに携帯用のバッテリーでロイに充電してもらったんだけど、本当にロイは動かなかったんだ。
つまり、ロイは故障したままで、僕を森の外にまで連れて来てくれた事になる。考えてみれば、電源を切ったはずのロイに、電源が入っていた事も不思議だよね。
先に断っておいたけど、この話には説明がちゃんとつく。森の外に出たところで、ロイは壊れてしまったのかもしれないし、電源が入っていたのは、親が情報端末から電源を入れていたのかもしれない。
ただ僕は、アニミズムだと馬鹿にされるかもしれない事を承知の上で、ロイには魂が宿っていて、それで僕を救ってくれたのだと信じたいんだ。
え? 今、そのロイはどうなっているかって?
もちろん、ちゃんと修理して、今でも一緒にいるよ。完全に動かなくなるまで、ロイはずっと僕の友達なんだ。