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晦冥の底から 作者:歌瑞
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7 Desire



 フリップさんのお姉さんは、サニという名前なのだそうだ。
 結婚していて、二児の母。ザンツの中心街に、旦那さんと家族四人で住んでいるらしい。

 あれから寝込んでしまったわたしのために、ちょくちょく街のはじっこのフリップさんのお家───実家に帰ってきて、面倒をみてくれた。
 フリップさんは実家でひとり暮らし。
 空いている部屋はあるけれど、病人の看病が出来る甲斐性はないからね、とお姉さんは苦笑ってた。
 おなかがすいてふらふらだったのと、自分のいままでの根底をひっくりかえすようなおはなしを聞いて、ショックでわたしは三日もベッドの中でごろごろしていたけれど。

 もっとショックになる話をフリップさんから聞いて、わたしはもそもそとベッドから出ることにした。


 ───『彼』はわたしが寝込んだその日から、もうザンツを出てしまって、居なかったというのだ。


 フリップさんは引き止めたらしいんだけれど、わたしの体力回復には休養の時間が必要で、その間ここに留まっていても意味が無いと。
 彼の仕事をしに、行ってしまったんだって。


 ……置いていかれちゃった。そう思った。
 ものすごーくしょんぼりしてる自分にびっくりした。



 あの硬い喋り方からして、機械的で無駄をあまり好まなそうなヒトだから、だらだらしてるわたしなんかに付き合おうとは思わないんだろう。
 それでも、傍にいて欲しかったと、傍にいたかったと、思ってしまって。あのヒトがいてくれると安心できるから。


 彼は、中央府の、人間管理保護局、というところへ私を連れて行ってくれるつもりであるらしい。
 ……正直にいうと、そんな見知らぬところには行きたくなかった。
 わたしには帰る場所があったはずだ。
 自分の今までの記憶が嘘かもしれないなんて、思いたくない。
 けれど、この世界のどこにも故郷はもう無くて。
 人間が一人でふらふらしていたらすぐさらわれる、そういう場所で。
 特にここ、ザンツは砂漠のはしっこにある辺境の街で、根っこもない、治安が悪い土地なんだそうだ。
 だからこそわたしみたいな───犯罪に関わっている可能性のある人間が、近くにいたんじゃないかと。
 そうして、ザンツにいると、そういう悪いヒトに見つかってしまうかもしれないから。
 わたしは保護局へ行くべきだ、と。皆はそう思っているようだった。


 でも、家に帰れないなら、せめてここに、彼の傍にいたい。
 わたしはそんなふうに考えていたんだ。
 でもそれってすごく依存していて、わがままだ。
 自分の身ひとつ守れないのに。

 ここに来るまでずーっとお世話になって、助けてもらって、なのにまだ甘える気でいたのか。


 それを見透かされていたかのようで。
 情けなくなった。





 ───起きよう。
 体調はもうほとんど問題ない。

 きっと、お世話になったあのヒトたちと一緒にいられる時間は残り少ないんだろう。
 ごろごろうだうだしているより、ほんのちょっと、微々たることでも、恩返ししなきゃ。


 もそもそと起き上がって、着の身着のままだったわたしにお姉さんが借してくれた服を着る。
 ちょっとサイズが大きくて、服にうもれ気味っぽいけど。
 ……お姉さんの、子供の頃の服だって。
 うん、お姉さんも例に洩れず、でかいヒトでした。




 家主を探してうろついて、雑貨屋さんのカウンターに丸まったおおきな背中があるのを見つけた。
「フリップさん?」
「ぅおわ」

 そんなに驚かなくても。
 振り向いたフリップさんは今日もやっぱりコワイ顔だった。主に牙が。
「ミオ。やー慣れたと思ったけどけっこークるなー」
 ……やめてくださいそういうの。コワイから。

 フリップさんはなにやら細々とした機械のようなものを弄っていたようだった。カウンターの上に布が敷かれ、その上に工具や螺子っぽいのが散らばっている。
「もー起きていいの? だいじょーぶ?」
「はい、いろいろご迷惑おかけしました。平気です」
 頭を下げ、姿勢を正して言うと、なにやら興味深げにじろじろとみられた。
「懐かしいなー、姉ちゃんがガキん時の服だ。でかいのは姉ちゃんか、服か、どっちだろう」

「それって結局わたしがチビってことですよね!」
 ほかのヒトがでかすぎるんです!
 ぎぎぎ。地団駄踏みたいところをぐっと我慢したのに、フリップさんめ超小気味良さそうに笑い声をたてながら立ち上がった。わたしの頭を手のひらでぐしぐし、ぺんぺん。
 くそう!

「休憩しよー。茶ー付き合ってー」
 そのままぐーっと背筋をのばし、キッチンへ向かって歩く。
 歩幅もずいぶんと違うから、若干小走り気味で後を追った。



 ───で、さっそくじゃあご恩返しの第一歩で、お茶入れさせて欲しいって言ったらですね。
「オレんち踏み台ないよ」

 ………そうきたかっ!


 結局身長の都合でキッチンにも立てないわたしは、椅子に座って『お客様』ポジションにつくハメになった。
 これはヤバイ、どうしよう。
 身体的にも知識的にもいろいろ足りなさすぎて、ほんとうに出来ることがない気がする。
「ほい」
「あ、ありがとうございます」
 目の前に置かれたカップからは不思議な香りがした。
 ちょっと味の予測がつかない。
 おそるおそる口をつけた。 ……ほんのりあまくて、すっきりする後味。

「…あの、なにかお手伝いすることありませんか?」
「手伝い?」
「はい、掃除とかなら、わたしにもできると思うんですけど」
「別にいいよーのんびりしてて。それともヒマ? なんかして遊ぶ?」
 ことん、と首を傾げられた。
 あそんじゃったらなおダメではないかっ。

「お仕事したいんです」
「仕事、ねえ」
 んー、フリップさんはちょっと考える素振りを見せた。
「じゃあさー留守番頼んでいい? オレちょっと足りない部品買いに行きたいんだ。で、その間掃除もしててよ。軽ーくホウキでささっと!」
 やったあ!
「了解です!」


 よし、お仕事とホウキをゲットした!


「じゃ行ってくる。誰が来てもドアは開けんなよー」
 お茶を飲み終えたフリップさんはそう言って、軽いフットワークでするすると上着を被り、お金らしきものを掴み、外へと飛び出していった。

 わたしは小山羊ですか。
 そう思ったけれど、 ……小山羊かもしれない。
 うっかりドアを開けたらおいしく頂かれてしまうんだ、ここだと。

 こわいことだ。


 ぷるぷる首を振ってイヤな考えを追い出して、借りたホウキでさくさく床を掃く。
 ここは屋内でも靴を履いたまま生活する土地らしい。砂漠の近くだから砂だらけで、掃除のしがいはすごくある。
 そうして掃き清めつつ、なんとなくお店の棚を眺めてたら。

 ほとんどが箱に詰められていて中身が見えないか、わたしには用途不明のものばっかりだけど。
 ……雑貨屋って。

 銃の弾とか、しゅ、手榴弾っぽいのとか売ってるお店は。
 雑貨屋っていうんですか。

 すっごい無造作に箱の中でごろごろしてるー!
 よくみたらあのワイヤーっぽいぐるぐるの束って有刺鉄線!
 ゴーグルがあるけどその隣のはあからさまにガスマスク!

 物騒すぎる!


 とりわけ手榴弾にぞっとするものを感じて、じりじり後退る。
 ……怖いから、お店部分の掃除はあとにしよう。
 怯えてこそこそと、カウンターの跳ね上げ部分の下を潜ろうとした時だった。



 ばんっとお店のドアに何かが勢いよく叩きつけられ、怒号が向こうから響く。
「てめえフリップ! いつまで店閉めてやがんだよ!」

 ものすごくびっくりして、間抜けにも持ってたホウキを手から滑らせてしまった。
 かんっ、からん。
 あ───!


「…居んなら開けろ!」
 がん、がん、がん、
 ドアが震えるように軋んでいる。慌ててカウンターの陰に隠れた。

 蹴り破ろうとしてる───!?

 まさかそんなことしないよね、そう思ったのに。ばりっと砕ける音がした。
 複数の足音がお店の中へ入ってくる。
 すぐそば、カウンターの板一枚隔てたそこまで。
 心臓がすごい勢いでどくどくと脈打ち始めた。


「居ねえ」
 忌々しそうな舌打ち。
 カウンターの上にごとんと何かを置く重い音が落ちる。それから、お店の棚を荒らすように弄る音。
「勝手に持ってきゃいい」
「型でバレる。後が面倒になるぞ」
「…くそっ!」

 腹立ち紛れだったんだろう。
 わたしは、背中にしていたその板が、蹴られた衝撃に。

 悲鳴を、漏らして。








「こいつ、人間か!!」







「離して、離、してっ!」
 めいっぱい抵抗した。
 引っ張られた腕を引っ張り返して、思い切り蹴って、何度も蹴って。
「離して!」

 でも何の意味もなかった。
「おい黙らせろ」
「ここじゃヤバイ、場所移せ」

 あっという間に口を塞がれた。手も足も、わたしのものとはぜんぜん違う太い腕が何本も伸びてきて捕まえられた。痛い、動かない!

「ふっ、ぐ、うー!」
「はは、ははは! 何だこれ! これが人間か!」
「早くしろ!」
「すげーな、すげー欲しい。こんなモン隠してやがったんだな」
 血走って熱をもった視線が粘りつくようにわたしを見る。
 飢〈かつ〉えて飢〈かつ〉えてしかたがない、焦がれ求めたものが目の前にある喜び。






 ───狂喜とはこういうこと、なんだろうか。




ミオさんターボハムスターの巻。
(超速から回り自爆)

(´・ω・`)こんなおふざけあとがきで怒られないかちょっとふあん。
+注意+
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