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再会  作者: KARYU
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第二十話

 数日後。

 翠さんからの連絡を受けて、俺達は再び九重宅を訪れた。面子は前と同じ。

 あれから、翠さんは家族を説得したのだ。

 お父さんは、頑なに翠さんの説得に耳を貸さなかったみたいだが、お母さんは彼女の話を聞いて、賛同してくれたのだ。翠さんはお母さんのことを父には逆らえない人と言っていたが、このときばかりは強硬に翠さんを支持してくれたらしい。危うく離婚にまで発展しそうになったとお母さんに笑って言われて、俺はどんな顔をすればいいか判らなかったのだが。

 皆で遙ちゃんと対面する形で座る。

 遙ちゃんには、話がある、とだけしか伝えていない。だから、彼女はこれから何が起きるのか不安そうにしていた。

 「小笠原さん、いいよね?」

 小笠原さんは、遙ちゃんが自分で思い出さなければ許さないと宣言していた。だから、彼女の許しを代わりに請う。

 「事ここに至っては、是非も無いでしょう。──遙、この前の、私の発言を訂正します。この前は、遙が自分で思いださなければ許さないと言いましたが、あなたがただ思い出してくれさえすれば、私はあなたを許します」

 そのあたり、彼女も変に頑固だなと思った。

 遙ちゃんは、よく判っていない様子だったが、それでも頷いた。

 「──遙」

 翠さんが、彼女の傍に立つ。

 「あなたは先日、ナイフを持った暴漢に襲われたことを思い出した、そう言ったそうね?」

 「う、うん。……そうだよ?」

 まるで尋問の様な雰囲気に、彼女は萎縮している。

 「そして、柊君のことを、その犯人と勘違いしてしまった。そうよね?」

 「……うん……」

 彼女は俯いてしまう。

 「でも、それは間違いだと、私や小笠原さんから指摘されたことも覚えているわね?」

 彼女は黙って頷く。

 「そのことを、あれから考えてみた?」

 翠さんの問いに、彼女は申し訳なさそうに首を振った。

 「ああ、それを責めている訳じゃないのよ。私が言いたいのは、私は柊君がその犯人では無いことも、あの事件にどう関わっていたかも見ていたから知っているということなの」

 「……えっ」

 彼女は、当時翠さんも一緒に居たことを思い出していた筈。だけど、それについて、考えることを止めていた様子。

 「じゃあ、柊君は……?」

 そこで思考停止してしまうらしい。

 「では、話を変えます。あなた、川原直人君のこと、思い出せない?」

 「川原……君?」

 「そう、直人君のことよ。あなたが小学三年生になる直前まで、私と直人君と三人でよく遊んでいたことを」

 そう言われて、彼女の様子がおかしくなるのが判った。

 「なおと……くん……?」

 目が虚ろになっている。

 「そうよ……その、直人君と、私と、遙の三人で遊んでいて。そこに、ナイフを持った暴漢が──」

 「やめて!?」

 唐突に、彼女が叫んで翠さんの言葉を遮った。彼女は両手で自分の耳を塞ぐ。

 翠さんは、彼女の手を掴んで、無理やり隙間を空けた。

 「駄目よ。思い出して。あなたにナイフが向けられて。あなたにナイフが突き立てられようとしたとき──」

 「──なおとくんだめぇ!!」

 彼女が、か細く叫んだ。それは、ひょっとしたら、当時口から出そうとして出なかった言葉だったのかもしれない。

 「……だめ、なおとくんが……なおとくんがしんじゃうよう!!」

 幼げな口調で、嗚咽を上げながら彼女は必死に言葉にする。あの時、本当はそう言いたかったのだろう。当時はショックのあまり、彼女は一言も言葉を発することが出来なかったのだ。

 誰かが俺の背中を押した。

 楠田さんだった。俺の出番だ、と言いたいのだろう。

 俺は、翠さんの隣に屈んだ。

 「大丈夫だよ」

 遙ちゃんはビクッと肩を震わせた。

 「俺は、大丈夫だから。遙ちゃんが心配するようなことはもう無いから」

 できるだけ優しく、彼女に告げる。

 「ナイフで刺されてケガしちゃったけど、もう治ったから大丈夫なんだよ」

 「なおと……くん……なの?」

 彼女は恐る恐る顔を上げるが、そこにあるのが俺の顔だったので、驚いてまた俯いてしまう。

 「遙。柊君が、川原直人君だったのよ」

 暫し無言で。やがて、彼女はもう一度俺の顔を見た。

 「ほんとうに……なおとくんなの? なおとくんはしんじゃったんじゃないの?」

 俺はハッとして、翠さんの方を見た。彼女も、俺と同じことを思ったのか、俺の目を見て頷いた。

 遙ちゃんのトラウマは、俺が死んでしまったと思い込んでいたことだったのだ。俺があの事件以降、一度も姿を見せなかったから。

 「そうだよ。苗字は変わってしまったけど。俺が、直人だよ。確かに大きなケガをしてしまったけれど、今ではすっかり良くなったんだよ。直った傷跡を見てみるかい?」

 彼女は一瞬ビクッとしたが、それでも頷いた。見て、安心したいのだろう。

 俺はシャツを脱いで上半身裸になって、彼女に背中を向けた。

 「ほら、もう血なんて出ていないだろう? もうすっかり良くなったんだ。だから、遙ちゃんが心配するようなことは、もう何もないんだよ」

 後ろ向きに、彼女に語る。

 遙ちゃんは、俺の傷跡に、そっと手を触れた。

 「ほんとうに……なおとくんは……いきていたんだ」

 「ああ。そうだよ」

 暫くそのまま傷跡を撫でられていたが、背後から抱きつかれた。

 「──心配したんだからああああ!」

 そのまま、彼女は大声を上げて泣き出してしまった。

 「……ごめんね。遙ちゃんに心配掛けたくなかったから、ケガしてるところを見られたくなかったから、黙って居なくなってしまったんだ」

 「……直人君のバカァ……」

 

 それから暫く、そのまま遙ちゃんが泣き止むのを待った。

 彼女は泣きつかれて眠ってしまったのだが、俺から引き剥がそうとするとぐずってしまうので、俺にしがみ付いたままの状態で放置していた。

 「このまま、遙の記憶が安定すればいいのだけど」

 寝ている遙ちゃんの頭を撫でながら、お母さんが呟く。

 俺も、お母さんと同じ懸念を持っていた。今は、ちゃんと思い出してくれている様子だったが、本当に回復したのかは、俺には判らなかった。

 「柊から引き離したりしなけれりゃ大丈夫なんじゃない?」

 千賀さんが軽く請け負う。

 翠さんは頷いてそれに賛同した。

 「そういや、柊、退学届けはどうなった?」

 千賀さんの言葉に、翠さんとお母さんがハッと息を呑む。

 「ああ。あれさ、学校が受理するのに親の承諾が必要だったんだけど、うちの母は学校には暫く保留にしてくれって頼んでいたらしくて。まだ正式には受理されてなかったんだよ」

 「そっか。よかった……」

 千賀さんは安心したのか、にっこりと微笑んだ。

 俺はそれを見て、少し意地悪してみたくなった。

 「バラ色か?」

 「ぶはっ!」

 俺と千賀さんだけにしか判らない単語に、彼女は盛大に咽てしまった。


 ***


 九重姉妹の転校は無くなって。

 俺の退学届けも取り消して。

 遙ちゃんは、少し甘えん坊になったものの、記憶は安定していて。

 俺の体も、すっかり回復して、発作も起きなくて。

 あれから、遙ちゃんも含めた七人で何度か一緒に遊んだ。

 色々あったものの、すっかり充実した夏休みを送ることが出来た。

 もうすぐ二学期が始まる。楠田さんの素顔での夏休みデビューが控えていて、今はそれをどうフォローするか計画を練っているところだ。

 仲良くなった彼女らと、俺はどう向き合えばいいのか、自分でもよく判っていない。

 俺の高校生活は、まだ当分退屈することは無さそうだ。


お読みいただきありがとうございました。

この話はここまでとさせていただきます。


「弾幕(ハーレム成分)薄いよ、何やってんの!?」とか突っ込まれそうですが、ご容赦くださいm(__)m

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