彼の汗ばんだ首筋に、掌が融け混じる錯覚を覚えた。薄い皮膚を通して感じる筋肉と骨の硬さ。特に掌の中で性を主張する軟骨は、空気を嚥下しようとする本能の抵抗を伝えてくる。
正直、こんなに時間がかかるとは思っていなかった。十分に力は込めているのに、彼の生命活動は続いている。どころか、必死の抵抗が俺の腕や肩や胸に無数の爪痕を刻んでいた。
まだ、力が必要なんだろうか。だけどもう、疲れが出始めていた。時折漏れ聞こえる悲痛の呻きさえ、俺の意思を消沈させる。
開放して、冗談だよと笑えば、済むだろうか?
こんな結末など、考えてもみなかった。俺は彼を好きだったし、それは彼も同じだった。その範疇が世間体の許す一線を超えたものであっても、俺は、彼との時間を共有したいと思っていた。密やかな逢瀬と満たされた一瞬さえあれば、俺はそれで幸せだった。
ただ、彼がそれでは満足しなかった。形が欲しい、と彼は云った。
お互いに、ごく普通の家庭に育っていた。普通の環境で自己を育み、社会性を身につけてた。その中で芽生えた友情だけが、育ち方を違えただけ。誤りだとは思わないが、彼の望む『形』にはなり得ない。
ひとつだけ懺悔するものがあるとすれば、同じ望みを抱いた自分がいたことだろうか。あの頃の俺は、子供ではないが幼稚だった。世界は自分を中心に廻ると信じていたし、その自信にも満ちていた。
その頃の無邪気さを、弁解するつもりはない。その無責任を真に受けた、彼を責めるつもりもない。
鬱血して唇から突き出た彼の舌を、愛しい思いで口に含む。これが最後のキスになるなと思った瞬間、不意に涙が溢れてきた。その涙が、彼の頬に零れ落ちる。渾身の力を手に、指に集中した。
そして響く、空しいほどに鈍い音。
掌が受け止めたものは、あの頃の俺達が砕けた感触だ。 |