挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
ブックマークする場合はログインしてください。

コポォ短編集

【挿絵付き】吾輩は家猫である。

挿絵(By みてみん)

 吾輩は家猫である。

 名前はまだない。

 ヒメと呼ばれているが気に食わない。

 生意気そうな人間のオスと、その母らしきメスに誘拐されてしまったのだ。

 母は既におらぬが、兄弟姉妹と離れる事になった吾輩。

 今は怖さで何もわからぬ。

 鳴けども鳴けども皿にワケの分からぬ液体が増えるのみ。

 解せぬ。



 あの高い所に上りたいが、どう足掻いても上れぬ。

 なんとか上って、ここから逃げ出したい。

 ええい。吾輩に触れるな。抱えるな。持ち上げるな。

 おや? あの桃色の花はなんだ?

 綺麗な花だ。

 ふむ。しばし鳴くのをやめてやろう。

 そのまま吾輩を抱えておれ。



***



 吾輩は家猫である。

 名前はヒメらしい。

 気に食わないが仕方ない。

 吾輩はもうすでに大人だ。

 生意気そうな人間のオスは未だ子供だ。

 人間とはなんと下等なのだろうか。

 そんな下等な生き物には吾輩の『ぶらっしんぐ』が日課として課せられているのだ。

 前の針金のようなものは好かぬ。

 『しりこーん』とか言うやつはよい。

 うむ。苦しゅうない。

 今日もしっかりと『ぶらっしんぐ』するがよい。

 むぅ。気に食わん。

 吾輩は吾輩の為に建てられた5重の塔に向かうのだ。邪魔するでない。

 ほう。またあの桃色の花が咲いている。

 ふむ。仕方ない。眺めている間は撫でさせてやろう。



***



 吾輩は家猫である。

 名前はヒメだ。

 気に食わないが、もう諦めた。


 父親らしき男がうざい。

 生意気な息子と母と一緒にいる時は、吾輩の好ましい態度のくせに。

 吾輩と2人になった途端にまとわりついてくる。

 ええい、うざい。やめろと言うに。

 なぜかこの父、吾輩に引っかかれても叫びながらも喜んでおる。

 人間とはなんとも不思議な生態よの。

 ええい、やめろ吾輩をもつな。

 おや? またあの桃色の花が咲いている。

 ふむ。あの花は桜というのか。

 カリカリ程ではないが、ちゃんと言葉を覚えておこう。



***



 吾輩は家猫である。

 名前はヒメだ。

 生意気な息子が、人間のメスを吾輩の家に連れてきおった。

 吾輩、オスを窓越しにしか見れぬと言うのに、なんたる屈辱。

 ええい。うるさい人間のメスめ触れるでない。

 吾輩の爪を甘く見るな。

 いたい。

 なんという乱暴なメスか。

 人間は体が大きいということを知らぬのか?

 むぅ。生意気息子よ。そこまで怒らぬでもよい。

 痛いは痛いが、吾輩はこう見えても結構丈夫なのだ。

 なんともうるさい。

 吾輩はうるさいのは嫌いだ。

 折角桜が咲いているのに、今は見る気にもなれぬ。

 人間の来れぬ隅に避難じゃ避難。



***



 吾輩は家猫である。

 名前はヒメだ。

 さっさと指を貸すのだ。

 違う。この指ではない。

 これも違う。この指ではない。

 ええい。これも違う。だが仕方ない。

 最初の指で我慢しよう。

 ……この母の指は、吾輩の母を思い起こさせる。

 懐かしい母。

 ふむ。もうよい。

 ええい。もうよいと言うに。

 もう指はいらぬ。

 吾輩はまた塔から監視せねばならぬのだ。

 おお。もう桜が咲いている。

 うむ。この香りはたまらない。

挿絵(By みてみん)


***



 吾輩は家猫である。

 名前はヒメである。

 生意気な息子を最近見ない。

 『だいがく』と言うのは一体どこなのだろう。

 生意気息子がおらぬと夜寝る時が寒いではないか。

 布団だけだと暖かくないのである。

 おらぬと言うなら仕方がない。

 父の布団に入ることにしよう。

 だが落ち着かぬ。


 ほう。また桜が咲いている。

 相変わらずの良い香りだ。




***


 吾輩は家猫である。

 名前はヒメである。

 子はかすがいとはよく言ったモノである。

 父も母も二人の生活になってからは何やらギスギスしておる。

 吾輩がいるから大事には至っておらぬが、なにやら息苦しい。

 こんな気分の時は塔の上から外を監視するに限る。

 ふぅ。

 また桜が咲いている。

 桜よ。

 お主の力でこの二人をなんとかできんだろうか。



***



 吾輩は家猫である。

 名前はヒメである。

 御飯が山盛りだ。

 そしてヒマである。

 なにやら母が入院するらしい。

 その諸々で誰もいなくなるらしいのだ。

 山盛り御飯は嬉しいが、一度口をつけたご飯を何度もというのは気が滅入る。

 母よ、早く吾輩の為に帰ってこい。

 おお。桜が咲いている。

 この香りを嗅いでいれば、山盛り御飯も耐えられよう。



***



 吾輩は家猫である。

 名前はヒメである。

 母は無事に戻ってきた。

 前の母は大きな体だったように思うが、なにやら軽そうな体になっている。

 うむ。重く動きにくいよりは良い良い。

 どれ、抱かれてやろう。

 顎も存分に撫でるが好い。

 吾輩も後で指を吸わせてもらおう。

 おお。母の腕の中から見る桜もまた良い良い。

 しばらくは撫でさせておこう。



***



 吾輩は家猫である。

 名前はヒメである。

 生意気息子が戻ってきた。

 なにやら成人のオスになっている。

 人間は成長が遅いが、まぁそれも悪くない。

 ゆっくりと見守ることができるのだからな。

 今日は久しぶりに息子の布団で眠るとしよう。

 桜よ。

 この連中は揃っていてこその家族なのだな。



***


 吾輩は家猫である。

 名前はヒメである。

 最近生意気息子がイライラしておる。

 吾輩が最も活動的になれる夜にうるさいなどと叱責をもらった。

 昔はこんなことはなかったのに。

 『しゃかいじん』という物は恐ろしい物なのだな。

 吾輩は昔の息子の方が好きなのである。

 あぁ桜が咲いている。

 昔が良かったと思うのは罪なのだろうか。

挿絵(By みてみん)


***



 吾輩は家猫である。

 名前はヒメである。

 今日は生意気息子が、またメスを連れてきた。

 吾輩は昔ほど尖っておらぬからな。

 今度は抱きかかえられても爪はたてぬ。

 うるさいのはもう勘弁だからな。

 そういえばあのメスは、あれ以降に来てはおらぬな。

 このメスは違うメスのようだしの。

 ほう。目をそらすか。なかなか心地よい。

 どれ、ちょっと近づいてやろう。

 良い良い。

 抱えるのも許してやろう。

 おお。このメスの懐から見る桜はまた面白い。

 ただ、なんとかならぬかこのメスのニオイ。



***



 吾輩は家猫である。

 名前はヒメだ。

 あの二人になるとうざい父をパタリと見なくなった。

 最近は加減もわかってきたようで、そんなに悪い気もせぬのに。


 そうか。

 人もいなくなるのか。


 吾輩の母も吾輩の兄弟姉妹を置いていなくなった。

 これもまた自然の流れか。

 父の布団のニオイも嫌いではなかったのにな。


 桜よ。

 どうかいなくなった父が幸せであるように。



***



 吾輩は家猫である。

 名前はヒメである。

 最近我が家に息子とあのメスが一緒に暮らすようになった。

 吾輩に相手も用意せず、自分達だけ盛りおって。

 悔しいので今日も寝室に邪魔をしに行くのである。


 入れない。

 いつもは入れる吾輩のドアが開かない。

 むぅ。

 開かぬなら。開くまで鳴くのみ。

 ほら開いた。

 おお。カリカリをくれるというのか。

 それは良い。

 うむ。美味かった。

 よし塔にでものぼろう。

 おお。桜よ。

 吾輩もオスが欲しいぞ。



***



 吾輩は家猫である。

 名前はヒメだ。

 年の頃を考えるとどう考えてもヒメではないが、ヒメなのである。

 何やら最近うるさいのだ。

 吾輩が入りにくいようになっている部屋に騒音の元がいるのである。

 気になる。

 あの声が聞こえると、何やら気持ちが落ち着かないのだ。

 ええい。あれは腹が減っているのであろう。

 ええい違う。おむつではない!

 もどかしい。

 ようやく泣き止んだか。

 さて、塔で一服しよう。

 おぉ。やはり桜が咲いている。

 あの騒音が生まれてからは、この家も明るくなった。

 家族と言うのは減ったり増えたりするのだな。



***



 吾輩は家猫である。

 名前はヒメだ。

 最近の騒音の元はよく動く。

 みな嬉しそうで大変結構なことだ

 ただ、吾輩の塔を揺らすのは勘弁してほしい。

 あああ、桜が揺れて見える。

 やめろ。

 よしよし、吾輩の視線ひとつでやめるのは良い良い。

 これでようやく落ち着いて桜を眺める事ができる。


 あああ。



***



 吾輩はヒメである。

 家猫である。

 最近はあまり動く気がしない。

 息子は相変わらず、吾輩におもちゃをいくつも買ってくる。

 だが相手をしてやれぬ。

 騒音の相手をしてやるが良い。


 吾輩はこうして外の桜を眺め、声を聴くだけでいい。

 なぁ。桜よ。

 思えば何度見てきただろうか。

 相変わらず美しい花が咲く。



***




 吾輩はヒメである。


 体はもう動かない。


 なにやら毛布とタオルが暖かい。

 目は開く。

 だが、声は出ぬ。


 試してみる。

 が、やはり出ぬ。


 母よ息子。それにその妻よ。

 そんな顔をしなくていい。


 ただ、

 できる事なら

 もう一度抱きしめてほしい。



 おお、生意気息子の腕は大きくなった。

 立派な雄だ。



 その立派な雄が吾輩を抱き

 なぜ震える。


 そして、なぜ泣くのだろうか。


 母も

 妻も

 なぜ吾輩に触れ

 泣くのだろうか。


 吾輩は十分に生きた。

 怪我もなく、食うに困らず。

 時折遊び、おおいに寝た。


 優しい人間に囲まれ

 幸せだった。



 吾輩はもうすぐいなくなる。

 それは自然な事だ。

 流石に少し寂しいが。



 寂しい。



 そうか。



 息子たちも同じ気持ちなのか。



 桜よ。桜。

 もう見納めだ。


 吾輩は、あの桜の隣で眠りたい。

 毎年咲き、家族が必ず顔を見せる

 あの桜の隣で。


 もし魂があるのであれば

 桜に宿り見守り続けたい。



 吾輩は家猫である。

 猫であるが、ヒメである。

 そして


 家族である。


挿絵(By みてみん)


Special Thanks

イラストレータ
Tamo 様
http://www.pixiv.net/member.php?id=3870930

評価や感想は作者の原動力となります。
読了後の評価にご協力をお願いします。 ⇒評価システムについて

文法・文章評価


物語(ストーリー)評価
※評価するにはログインしてください。
感想を書く場合はログインしてください。
お薦めレビューを書く場合はログインしてください。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ