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第10羽 追徴 ①サロン  /12月24日 -4/4-

適当に白熱したゲームを楽しんだレオンと速水は、遊戯室を出た。


「さて、もう目的は果たした。後は適当にぶらついて、何か食って、ホテルに帰ろう。周りはダンサーばかりだし、知り合いとか作っても良いぞ」

レオンが言った。

「任せる」

速水は言った。


「…お前、具合でも悪いのか?」

「いや。ここは海が近いから、カモメが…」

鳴いている、と言おうとして速水は口をつぐんだ。

受付で渡されたバッジは、録音機になっているらしい。

それに音楽もうるさいが…。

…無駄な事を言う必要は無い。


「…海が見える所はあるかな」

速水はそう言った。

「暗いから、どうだろうな…バルコニーにでも行くか?」

「一人で良い。レオンは頑張れ」

速水は言って、ボディーガードを一人連れてレオンと別れた。


大広間にさっさと戻る。

ワルツが流れている

要するに、誘われないようにするにはフロアに近づかなければ良いのだ。

じろじろ見られている気がするが…きっと気のせいだ。

万が一声を掛けられたら、『しばらく一人で休みたいので』…これで行こう。


広間の端を通り、適当な窓から外に出る。

海は闇が深くてよく見えない。


速水は正直、退屈だった。やっぱりレオンに任せた方が良い。

今頃レオンは多分、奥の広間の、年配のご婦人達に囲まれているのだろう。

彼女達は、いかにも興味津々という顔をしていた。遊戯室の者達も、ゲームの間中ずっとこちらを伺っていた。


「何か食べるか?」

振り返って仲間に聞く。夕飯はホテルで軽く食べてきた。

「いや。俺は良い。お前のガードだしな。構うな」


そう言われたので速水は外を眺めた。




レオンが小一時間ほど後、ようやく切り上げ広間に戻った所、速水が営業スマイルで女性と踊っていた。


「ありがとう。ルイーズ。……レオン、疲れた」

柔らかな拍手の中、パートナーに声を掛け。…戻るなり速水はレオンに言った。


「お疲れだな」

速水のダンスはかなり様になっていたが、本人的には堅苦しくて苦手らしい。


「ホテルに帰ろう」「ああ」

レオンは笑って言った。レオンも疲れたし、お互い様だ。

バッジを返し、速水達は建物を後にした。



ホテルに着いて、速水は上着をベッドに放った。

ポーズとして連れて来たボディーガード二人と、運転手達は別の部屋だ。


断る度に別の女性が来たのには辟易した。皆、反ネットワーク活動家で、『ジャック』と話したがっていた。


「ふう。あとは連絡待ちだな」

レオンがタイを緩め言った。上手くすれば、そのうち元締めに会えるらしい。

「エンペラーだっけ?俺は良いから、レオンが会いに行けよ」

速水もタイを緩める。

正直、場違いな気がして仕方無かった。ああ言うのは大人の社交場だろう。

速水はまだ十代だ。

──そう言えば、来年で二十歳か。一応選挙行かないとな。


適当な、いつもの部屋着に着替える。


「率直な感想をくれ。どう思った?」

「すごい退屈だった。あと曲がうっとうしい。ワルツは踊りにくい」

速水はベッドの縁に腰掛け言った。


「悪かったな。まあでも顔見せは大切だ。俺たちは反ネットワークですって、地下から出たトコで宣伝しておかないと」

レオンも速水に向かい合い、自分のベットの縁に腰を下ろす。


車中で聞いたが、他に『サロン』…これはフランス語。レオンは実際にはソサイエティと言っている。直訳すると社交界。──は、ここサンフランシスコ以外にも、ブラジル、イギリス、フランス、オーストラリア、中国、ロシアにあるらしい。


「っていうか…頭悪いんじゃ無いか?あんなトコに堂々出入りしてたら、ネットワークに向けて宣伝してるような物だろ」

『私達は、反ネットワークを掲げています』…これじゃやりにくくなるだけだ。


「まあ、その通りなんだが。…ネットワークがあまりにでかすぎて、ややこしい事になってんだよ…何か飲むか…」


そして、レオンはコーラを飲みながら説明を始めた。


「──この世界の公的機関は、なぜかネットワークに対して静観を決め込んでる。噂じゃ、GANの進めてる…何かの『計画』が関係してるらしいが…、その計画が何かは謎。政府、警察、王室、あげく国連やバチカンまでもが、ネットワークの裏での乱行に目をつぶってる。お前等仕事しろ!…って話だ」

レオンは忌々しそうに言った。


聞きながら、速水は机で携帯を充電しようと立ち上がる。

「…本当にそうだな。税金がもったい無い」

速水は同意した。


「『サロン』のおかげで、ネットワークの殺人とか誘拐とかがサッパリ表沙汰にならない。…これはどの国も同じらしい。むしろ、『裏ネットワーク』とでも言うか。こっちが正しい、オフィシャルな物のハズなのに、後ろ暗いから皆コソコソしてるのさ」


「へぇ。終わってるな…」

言いながら、速水は冷蔵庫から水を取り出した。


「ああ。…唯一様子が違うのは、スイスと…チベット?いやウイグル…?らへんだったか。それとお前の国──日本」

レオンは続ける。


「──日本?」

速水はレオンを振り返った。

「あそこはコロコロ支配者が変わるし、極端に飽きっぽいらしくて、…かと思えば皇帝がいたりして、あっと言う間にサロンが廃れたんだってよ」

「あー…、なるほど」

日本人として、その様子は安易に想像が付いた。


「政府権力なんて、あの国じゃお飾り。引き継ぎが出来ないとか何とか。──まあ、それはこの合衆国でも一緒だが、あそこまで酷くは無いと思う」


レオン曰く、この国の歴代大統領は一応、皆をそれなりに纏めている、との事。

だがアメリカは各州の権限が強くて、やたらもめ事が起きる。


狭いし、大したこと無いし。けど微妙に凄くて、微妙にズルイ国。

レオンは日本をそう評した。


「…そう言うわけで、日本では表ネットワークはともかく、裏ネットワークの力が極端に弱い。と言うかある意味無法地帯。それで活動の拠点には丁度いいって、反既存体制派のダンサーは結構、日本に行きたがるんだよ。だからジャックもそっちに行ったんだろう」


「なるほど」

速水は腑に落ちた。

なぜジャックが日本に来たのかと思っていたが、そういう理由だったのか。


「あともう一つと言うか、…──これは別に良いか?大した事でも無いし」

レオンは顎に手を当てた。


「?何だ?」

速水は尋ねた。

「まあ、話すが。豆知識?みたいなモンだ…。裏ネットワークから日本が外れたもう一つの私的な理由は、──宗教だ。ネットワークはヤーウェ勢が中心だしな。無神論者ばかりで、日本は信用できないって」

「ああ…なるほど。けどそれで対立してたら、他はどうなるんだ?仏教とか、イスラム教とか、すごく面倒だろ」

速水は言った。


それに日本を無神論者の国というのはどうだろう。仏教はともかく、確かに神道は日本限定でマイナーかもしれないが…。多神教とか、そう言った所も沢山あるだろう…。イスラム圏とキリスト圏は仲が依然良くない気がする。


「お前、意外に勉強してるな」

レオンは感心したようだった。

が、小学校で習う内容だ。速水は肩をすくめた。


レオンは続ける。

「それが、そっちは一応、『利益のためにガマンしましょう』って事でケリがついてんだよ。…ケリを付けたのは、そもそも裏ネットワークを作ったネットワークの創始者から分かれた奴らだった、ってオチが付くがな」


「…やな世界だな」

速水は溜息を付いた。

…だからやり方がネットワークっぽいのか。


「とにかく、裏ネットワークが国家、警察権力を牛耳ってるから、幹部とか、絶対逮捕出来ないんだ。ここの説得無しにGANを潰そうとすれば、逆に難癖付けて庇いやがる。『今はその時では無い』ってな。…つくづく、腐った世の中だ」


「実質、保護してるって事か…」

速水は両手をベッドについて、言った。天井を仰ぐ。

母体が一緒とは、面倒な話だ。


「だが、この国の『エンペラー』。こいつの協力を取り付けられれば、大分話は変わってくる」

「…どう変わるんだ?」

速水はやや面倒そうに体勢を戻した。顔に掛かった髪を整える。


「各国が動く。三十年前、それで前ジョーカーが逮捕されて幹部もごっそり変わった、『らしい』って親父が言ってた。──結果はどうあれ、『エンペラー』には革命を起こす権力があるんだ」

レオンは言った。


だがな…その革命が上手く行ったとは思えない。特にダンサー達にとってはそうだ。

そろそろ眠そうな声でレオンは言った。


「エリックも言ってたな…。ネットワークはトップの、ジョーカーの権力が大きい組織…。もう見えない国相手、みたいな物か…もうこんな時間か」


ようやく話が一段落し、速水は壁の時計に目をやった。

午前二時を回るところだった。


「まあ、返事待ちならどうしようも無いな。明日帰るし、そろそろ寝るか」

速水は風呂へ行こうとした。

「──ああ。と、言いたい所だが…」

レオンが起き上がった。荷物をあさる。


「まだ何かあるのか?」


レオンがくたびれた紙袋から、紙束を取り出す。

「実は…年明けまで俺たちは帰れない。招待状はアレだけじゃない。年末は目白押し。つまり、明日も、明後日も…、ああ、七日が最後だな。…見るか?」

暗い顔をしてそう言った。


「はぁ!?」

速水は思わず声を上げた。


「おまえ──騙したのか!!!?」

「…悪いっ!!ホンッっト悪いが、頼む!もう少し付き合ってくれ!!お前言ったら絶対来なかっただろ!!殴るなよ!ぐっ」

レオンは申し訳無さそうに両手をあわせた。もちろんボコボコに殴っておいた。


「来るんじゃ無かった…」

その後速水は項垂れた。


〈おわり〉

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