第13羽 異能 ①カラス -2/4-
アパートを出た速水は小さな声で歌を歌っていた。
「からすがないたらかえりましょう。すずめはないてもだいじょうぶ…こしゅけい、まひわ、るりびたき…」
これは今は亡き速水の母が考えた変な子守歌で、元々英語の歌詞がついている。
速水はそれに日本語の歌詞を当てて、よく日本語で歌っていた。
「あとりのこえはー…」
今も速水は歌詞を日本語で歌う。
近距離ですれ違う人々は、ブツブツ言うキャップを被った青年を見て眉を潜め、ヒソヒソと話すか、遠巻きにした。
ある店の前を通りかかった時、音楽が聞こえて速水は舌打ちした。
「エリック!直ってないぞ!」
速水は突然立ち止まり、店の入り口に向かって日本語で言った。
「直るかもしれないって、嘘だったのか!!?騙したな!」
中の店員が目を丸くした。
そして速水は急に大声で泣き出した。
店員が、さすがに何かあったのか、と出てこようとするが、その前に速水はそっぽを向いて駆けて去った。
暫く。早足で、目を擦りながら歩いていると、カッコウの鳴き声が聞こえた。
「…あ、カッコウ。雨がふるのか」
速水は顔を上げた。
「洗濯物をいれないと――」
また違う鳥が鳴いた。
チクチク、チュン、ツツツ、ピーぴー、ちゅ?
「あははは!なんだっけ、こいつ!あ、こっちにもいるぞ!!」
鳥の声に誘われるまま、速水は街を徘徊した。
ちー?ちゅん、ふぃー、キー…、ヒュィオ…
こんなに沢山いるんだから、速水がおかしいのは仕方無い。
無理してまともな振りなんかしなくても、もういい。
うそをついて生きなくてもいい!
もう何だって良い!
これが自由か…。最高だな!
速水はいつに無いほどの笑みをたたえていた。
「―あははっ!アハハハッ!」
そして楽しげに、笑って彼は歩き出す。