第13羽 異能 プロローグ
六歳の速水朔は、久しぶりに家に戻ってきた。
運転手の佐藤さんと一緒に。
速水は、車の中でそわそわしていた。
ずっと楽しみだった。
初めての入院はつらかったが…頑張ったと思う。
今は、とにかく早く会いたい。
――新しい家族に、早く会いたい!
佐藤さんはなぜか余り喋らなかったが、速水はそのことについて良く喋った。
だが、家に上がってもあるはずの姿が無い。
「…お母さん?」
速水は姿を探した。祖母もいない。どこへ?買い物に出かけたのだろうか。
「…!」
速水は仏間に佇む父親の背中を見つけた。
速水が退院したから、来てくれたのだろう。
「ねえ、お父さん、お母さんは?―まだ病院?ばあちゃんは…」
速水はキョロキョロした。
速水の後ろには佐藤さんが付いてきていて、こちらを向いた父はまず佐藤さんと頷き合い、彼を退出させた。
父は仏壇と床の間を背に座った。
机の上にはくたびれた新聞がある。
「智恵さんは買い物だ。…まず言うことがあるだろう」
智恵というのは速水の祖母だ。
速水は父の向かいに正座して、そしてただいま戻りました、と言った。
「それで、ねえ!お父さん!お母さんと、赤ちゃんは?僕の妹はどこ!」
速水は無邪気に笑った。
「朔、…母さんは、死んだ」
父はハッキリそう言った。
「え?お父さん?」
速水は聞き返した。
「…赤ん坊も…助からなかった」
父が泣いたのを見たのは、初めてだった。