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超心理的青春
作:ryouka



その9 カードと1週間


 僕は授業が終わると、すぐに沖田先生の元に駆け寄った。
 「先生!これはどういうことなんですか?僕のだけ問題が違ってたんじゃないんですか?」
それしか考えられない。なぜ30ある問題で15問目から全くの見当違いの答えを書くんだ? 意味がわからない。僕はそんなボケてなんてない。
 だいたいそこまで難しい問題じゃなかったはずだ、テストの問題を思い出してみたけど、一番難しい問題が『クロマニヨンとアウストラロピテクスの違いはどこですか』位のレベルで、それに僕は答えた。「絵を描くか書かないか」だ。改めて、携帯で調べてみたけど正解だった。
 「薙くん、まぁ落ち着きなさい」にっこり微笑むその笑顔は園児をなだめる保母さんのそれとよく似ている。
 僕も園児と同レベルなのか、その顔を見ると黙るしかなかった。
 「今は心理的に不安定なようね、放課後もう1度きてくださいね」
 なんだよそれ、種明かしは放課後って事?そんなに待てない。
 と思いながらも、放課後は結構な速さで僕の足元に寄ってきた。
 職員室のドアを開けると、沖田先生は待ってましたといわんばかりの目でこちらを見つめる。誰かがドアを開けるたびにこんな目してたんだろうか?
 「あの、テストのことなんやけど」
 「このテストはそんな重要じゃないのよ。そんなことよりこのテストの方が大事よ」
 いきなり何言ってるんだ? しかも教師の発言とは思えないし。
 妙に力の入った言葉から、用意されたのは1〜25問まで書かれた問題用紙だ。さっきのテストより5問少ないのか。沖田先生は優しい、もう1度テストをさせてくれるのだから…。そう思ったのが間違いだった。
 先生はトランプによく似たカードを引き出しから取り出し自慢げな顔で、「ここにある25枚の『薫透けないカード』を今からよく切るから、その順番を当ててみて。カードの裏には数字が書いてあるから、問題用紙に薙くんが思い描く数字の順番を書いてよ。はい、スタート!」
そのなんだ『薫透けないカード』って? 変な名前だし、さっきのテスト関係ないし。
 でもおもしろそう。
 こういう未知なるパワー、第六感的なものは好きだ、せっかくだから全部当ててやる。
 僕は思いついた数字を問題用紙に書きなぐった・・・。

 「はぁー終わったぁ」
 「ご苦労様、よく集中がきれずにできたわ。みんな始めての頃は半分くらいでやる気なくしてたのに」
 僕も危うくシャーペンを置くところだったけど、みるみる数字が浮かぶから、置く暇がなかったんだ。てか僕以外の誰かもこのテストやったんだ。
 「では、結果発表」
 勢いよく先生がそう叫びにも近い大声を出し、先生が手に持つ、よく切られたであろうカードの一番上をめくった。少しドキドキする、これで当たったら25分の1だよな…結構すごいよな。
 「まず最初は8。どう薙くん?」
 「あー、違います、僕は6って書きました」ちょっと期待した僕がバカだった。
 「残念、まぁ全部合うことなんてめったにないからね」
 全然残念そうに見えず、どちらかといえば「落胆」に近い声色だ。
 それからも次々とカードをめくっていくけど、ことごとく外れていく、これでもか、ってほどに。
 「はい、2」
 「僕は9です」
 初めと違って少しずつテンション下がってきたな、沖田先生。俺が悪いのか?てかそんなバンバン当たったら気持ち悪いよ。
 「12問までいって正解0とは前代未聞よぉ、あたしでも1枚は当てるわ」
 こんなのに、「あたしでも」は関係ないだろ。誰がやっても一緒、運だろ、運。
 13問目にやっと一枚当てた僕だったけど、その後はまた、スカの連続で結局、「25分の1ねぇ・・・、まぁ1枚当たっただけましかな?」
 マシどうこうより、このテストにどういう意味があったのか僕は知りたいよ。
 「いずれわかるときがくるわ。・・・ヤギならわからないけど」
 わけのわからない言葉はさておき、とりあえず1週間このテストを続ければ、テストの点数の見直しを考えてくれるそうだ。先生の趣味に付き合ってテストの点が上がるなら、これ以上の好都合はない。
 職員室を出ると、前方から天照さんがこっちに向かってきた。職員室に用でもあるのかな?
昨日のこともあり、僕は気まずいのでUターンして、職員トイレに行くフリをした。あくまでさりげなく、彼女に気付かれないように、自分の中で最高のUターンを決めて、トイレに向かう。
 しかし彼女は職員室の入り口を素通りして、僕の方へ歩いてくる。俺に用なのか?
 落ち着いた雰囲気で穏やかに話しかけてきた。それは一国の姫が家来に話しかけるような感じでもあった。
 「何で避けるんですか?まぁこちらにしても避けてくれた方がうれしいけれど」
 バレバレだったか。それより矛盾したことを言う。まあ、この人は行動も奇怪だからな。
 「いや、避ける気はなかったんやけど、トイレ行きたくなってな」
 「まぁどちらでもいいけど」
 どうでもいいんなら言うな。
 「昨日のネコのことは誰にも言わないで下さい」
 「誰にも言う気はないよ、天照さんが死んだネコを棒で突っついたなんて・・・」
 僕は今朝のことを思い出す、というかあまりに嫌な出来事だったから脳が勝手に忘れさせようとしたのかもしれない、あんなこと忘れるはずがないのに。
 「あのネコに似たやつ、今日見かけたけど気のせいかな?」
 「さぁ、知らないわ。それよりキミは何か人と変わった体の部分はある?」
 いきなり何を聞くんだ? 
 「目が大きいとかかな?」
 「そういうことじゃなくて、大袈裟に言うと指が6本とか」
 そういうこと?何かあったけなぁ…、思い出した。
 「確か歯医者に行ったとき、歯が普通より2本少ないって言われた」
 「やっぱりね、ありがとう」
 なんて事務的な「ありがとう」なんだろう、感情の「か」の字もない。それにやっぱりってどういう意味だ。
 「歯が2本少ないこと聞いて意味あるんか?」
 「さぁ? …いずれキミにもわかるときがくるわ、あなたはあたしと同じオーラがするから」
 なんだそれ? 沖田先生と似たようなこと言いやがって、それにいつからお前はスピリチュアルな人になったんだよ。
 彼女はそれだけ言い残して、最小限の足音と最高速の徒歩で、僕の前からさっそうと消えた。一体何が言いたかったんだあの人は?
 それにしても、トイレの前まで来たらなんだか用を足したくなってきた。

 用を足しトイレから出ようとした瞬間、ガラスが割れるくらいの声が聞こえた。
 「私に触れるなっ!」
 思わず声の元へ走る。そうしたのはその声が彼女に似ていたからだろうか。職員室方向の最初の曲がり角を右に行くと、やっぱり彼女は居た。
 天照さんと制服を着崩した男がにらみ合っている。よく見ると男の頬が赤く腫れている。一体どうしたんだ?
 あの男は一体何したんだ? 僕がトイレに行っている間に、人の持つ怒の感情をあれほどまで引き出すのは簡単じゃないはずだ。
 男は情けない声で、くだらない青春ドラマのちょい役の如く、「おぼえてやがれ」と言って去って行った。
 あんなへぼい奴が不良だったら、不良の価値が下がる、と訳のわからないことを考えながら、激昂する天照さんへ近づいた。
 「どうしたんや?そんな怒って、変なことされたんか」
 「告白されただけです」
 酷く興奮しているようだ、体が震えている。
 「告白されただけであんな声出せへ」
 「あいつが私の肌に触れようとしたから」
 僕が全ての言葉を言い終える前に声をかぶせてきやがった、どれだけ興奮してるんだこいつは。
 「まぁおちつけよ」
 「わ…に……な」
 小声すぎて何を言ってるのかわからない。耳を近づけた瞬間。
 「私に近づくなっ」
 落雷のように響き渡る天照の声。鼓膜は破れる一歩手前で耐えてくれた。結局なんなんだあの女は?
 天照は昨日の見とれるようなフォームではなく、運動が苦手な女子のような走り方でその場を去っていった。それは変な走り方なのに速かった。

 それから1週間がたった
1週間のうち変わったことといえば、天照が死んだ黒猫をつついていた公園で、のら黒猫に餌付けしているくらいかな? それと5日間行われたカード当てが今日でやっと終わること。これはうれしい。
 僕は、「よくきったカードの順番当て」をやり続けたけど、結果は1枚正解のみ。あたらなすぎてイライラするだけだ。たしか1回だけ2枚成功があったっけ、あの時はうれしかったなぁ。
 そして最後のカード当てが終了した。結果は…1枚だ。
 「はぁー、今までありがとう。薙くんオカルト的なことあまり信じてないみたいね」
 「どうなんでしょうかね? 好きは好きやけど」
 「好きと信じるは違うわ」と沖田先生は不機嫌に答えた。
 どうやらテストの結果に満足行かなかったようだ、まさか社会のテストの約束なしにするってことはないよな。
 「那実くんとは違うみたいね」
 「那実がどうしたんですか?」
 「なーんでもないのよ、とりあえずお疲れ様、社会のテストの件は覚えてるから安心して」
 沖田先生はそういうと机に顔を引っ付けて、呼吸をする頻度でため息を吐き続けた。どれだけ不服だったんだ? なんか僕が悪いことしたみたいだ。

 放課後、校門近くで那実がいたので一緒に帰ることにした。
 「今日も天照さん黒猫にエサあげてるんかな?」
 「さぁな、それよりエサって言い方は良くないやろ」
 どうしてダメなんだ?動物に与える食事はエサって辞書にも書いてるぞ多分。
 「エサっていう響きは奴隷という言葉に似てる気がする」
 そうですか、勝手に言っといてください、君の戯言はもういいよ、那実くん。
 「だからヒトも動物な訳やん、なら黒猫にも食事って言うたほうがええやろ」
 もう一回言って。
 「だから『猫に食事あげてるんかな』が正しいんちゃうかなってことや」
 そうやって差別差別言ってる奴が一番差別してる気がするのは気のせいかな。そんな話しをしているうちに黒猫がいる公園に着いた。
 「誰かおるで」
 天照さんと違うの?
 「いや、ちゃんと見えへんけど男3人と女1人、それにうちの制服や」
 頭にふと、思いがよぎった。
 もしかしてあの時、天照に告白した不良が「おぼえてやがれ」を実践しにきたのかもしれない。そう思うと、駆け出さずにいられなかった。
 どうか勘違いでありますように。












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