超心理的青春(22/40)縦書き表示RDF


2月21日に三月さんの設定を少し変えました。
21日以前に読まれた方は申し訳ないですが、もう一度確認してください。
超心理的青春
作:ryouka



その22 ノンフィクション


 僕は考えた。
 このまま、三月さんに自分は那実じゃないです、薙なんです。と伝えるかどうか。上手にいけば、彼女に恥をかかすこともなく、変な空気になることもなくその場を後にできる。
 でも、嘘をついたところで、その先の先に何があるのだろう。
 何もないに決まってる。
 いつもこうやって嘘をついてごまかすのは僕の悪い癖だ。確かにその方が楽だろうけど、人は楽に流されるだろうけど、そういう当たり前はもうやめようかな? 高校生になったきっかけとして。そしてこれが新生伊佐薙の第一声だ。精一杯作り笑いして言ってやる。
 「僕は那実と違いますよ、薙です。名前も顔も紛らわしくてすいません」
 僕は、彼女が当たり前のように驚いた顔をするのだろうと思ったけれど、実際は違った。
 「那実さんが言っていたこととは違うみたいね」
 へっ? 僕は恥ずかしくも、おどけたような声を出してしまった。けれど決して本当におどけたわけではない、ただ彼女が感情表現するだろうことを、自分がしてしまって驚いただけだ。
 「何もそんなに驚くことはないのでは? 薙さんのことは那実さんから伺ったことがありますよ、楽な方へ楽な方へ逃げたがる性格だと」と彼女は微笑を含めて言った。
 さっきの新生伊佐薙の第一声は撤退だ。まさに正直者が馬鹿をみるだ。それにしても那実の奴、言ってくれるな。お前も人のこと言えないだろ、この学校の推薦だってほとんど即決だったじゃないか。それに三月美代さんだっ? 初対面の人にそんなこと言うなんて感じ悪い人だ、愛想笑いもそこまでにしろよな。
 「実際は違いましたね、本当に逃げる性格なら『どうも』で済ませてしまえばいいはずですから。薙さんは苦しみから逃げない良い心の持ち主です」手で口を押さえているけれど、わかる。今度は本当に笑った。
 前言撤回。
 三月美代さん、あなたは感じの良い人だ。いや、良すぎる人だ。
 僕はあなたの期待に応えるため、これからも嘘をつかない人生を目指します。
 「薙さんも今から学校へ?」
 「えぇ、何故だかそういうことになっちゃいました」
 本当はバス停へ行って駅に直行して大仙公園というパターンだったのに。
 「三月さんもこれから学校へ?」
 「そうよ、人がせっかく総長の散歩を楽しんでいたのに呼び出されてしまったの」
 そしてイレギュラーな登場人物。いったいあの幻想はどうなってるんだ?
 結局先輩はジュースを買わないで自販機を後にした。
 
 そして何も話さないまま学校についてしまった。
 僕には他人に話題を提供する余裕なんてなかった。この現実が一体どうなっているのか、それだけで頭がいっぱいだったからだ。三月さんも微笑を浮かべたまま口を開かないし、どうやら口数の少ないおしとやかな性格のようだ。まぁ雰囲気でなんとなくわかったけれど。
 僕は校門をくぐった瞬間、大事なことを思い出した、いやそれほど大事でもないか。
 さっきのジュース代を渡しそびれたこと。それと、
 「三月さん、あなた僕を騙しましたね」
 「騙す?」正面を向いたまま質問を返す。
 「僕が那実じゃないってことに気づいてたのに、三月さんは気づかないフリしたじゃないですか」僕は百二十円を彼女に差し出す。
 「あら、それはごめんなさい。気にしていたのね」彼女は小銭を僕の手のひらからとり、「それではこれが賠償金でいいかしら?」彼女は口を閉じながら笑い、僕の手のひらにもう一度置いた。
 「そういうことなら、ありがたくいただきます」僕は百二十円を握り締めた。
 あなたのその笑顔と込みならお釣りが出るくらいです。 
 なんてエセ二枚目のようなことは死んでも言えないので、心の中にとどめておく。
 そのやり取りを終えると、三月さんは少し表情を曇らせ零すように言った。
 「でもせっかくの日曜に呼び出しだなんて、あたし達はついてないですね」
 「そうですよね」
 そうですよ。
 そうですか?
 そうなの?
 この場面では「え〜っ」と叫ぶべきなのだろうけど、生憎驚きすぎて声は出なかった。
 さてはまた、騙そうとしているんだ、と彼女を疑い、僕は携帯電話で曜日を確認した。
 「日曜日だ」
 ということは、昨日起こった最悪の出来事はすべてノンフィクションであり、実在する人物、その他団体とは一切関係あります、ってことか。
 笑えないよ。
 僕の超能力で見た幻影じゃなかったてことか。
 「何が超能力なの?」
 「い、いや、ただの独り言です」とっさに僕は答える。
 あまりに衝撃的過ぎて思わず声に出してしまった。危ない危ない。
 
 もう考えることはなくなったけれど、僕はまた三月さんと話すこともなくただ彼女の左斜め後ろをついて歩いた。どうやら彼女は黙って歩くことにそれほど抵抗がないようだ。
 やっとの思いもせずにたどり着いた職員室は、休日のおかげか、いつもより静けさを増していてどこか僕の心を嫌な気分にさせた。
 嫌いな場所が静かだと余計気色が悪い。
 沖田先生は職員室にはいないようなので、とりあえず隣の教室、いわば超能力者の集う場所へ行くことにした。
 三月さんは、それでは、と言って足音も立てず階段を登っていった。何だ、沖田先生に呼び出されていたわけではなかったのか。
 ちょっとした落胆を抱え、教室のドアを開けるとクラッカーのような騒がしい声がした。
 「薙くん遅いよぉ、まぁ別に良いけど、先生の言うことは聞いてくださいね」大して思ってもいないような言い方で沖田先生は注意した。
 「すみません、新たなる超能力者に出会いまして」
 「一体誰のことだろ? ハヤハヤかな?」
 「いやハヤハヤではなくて、三月さんです」にしても、ハヤハヤ何て絶対呼ばれたくないな、たとえ名前に由来したあだ名だろうと。
 こんな良く晴れた日曜日に一体何のようなんですか? と聞こうとしたが、言うまでもなく向こうから言ってくれた。
 思っても、望んでもいないことを。
 「まぁハヤハヤでも何でもいいっか。それじゃ、今から君達伊佐兄弟のお引越しするから、がんばりましょう」
 もう一度聞いても良いですか、誰の引越し?
 「ついでにコノカっちも」
 どうやら僕はどこかに引越しをするらしい、本人の了承もなく。 












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