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お年玉

作者: 遠山海月

十年ぶりの帰省か。


両親が年いってからようやく授かった子供だからだろうか、やたらと優しく育てられた。

中学を出て寮のある都会の高校へ進学したのもその鬱陶しさから逃れるためだったのかもしれない。

この前会ったのは高3の正月、親父の葬式のときだったっけ。

本当はそのときこっちへ戻ってくれば良かったのかもしれないけど、ようやく決まった就職口を棒にするのは嫌だったし、寮も出ていよいよ一人で自由な暮らしができることへの憧れもあってそのまま都会暮らしを続け、なんやかんやで結局実家に帰ることがなかった。


あれから十年、今年こうして帰省するのも、ほんと、どういう風の吹きまわしだろう、自分でも不思議だ。


まぁ、その間も手紙や電話でやりとりもあったし、今日帰ることを事前に知らせてあるから、急な再会に腰を抜かすことも旅行で留守なんてこともないはずだ。


それにしても久し振りの地元はちっとも変っちゃいない。

懐かしさに駅から実家までの道のりを、本屋だ公園だ図書館だと、いちいち立ち止まっては記憶を辿っているうちにすっかり夕方になってしまった。


「遅かったじゃない、こんな時間までどこいってたの」

母は少し怒ったような口調と心配顔で迎えてくれた。

さして驚くでもなく感動するでもない再会にちょっと拍子抜けしたが、この表情、この口調は・・・

昔よく聞いた声、目にした顔だ。

子どもの頃、遊びに夢中で暗くなるまで遊んで帰ってきては毎日言われたセリフ。


それにしても・・・母さん、こんなに小さかったっけ? こんなに白髪あったっけ?

十年の歳月が母をすっかりか弱い老人へと変えていた。


「正月だっていっても、食えるもんがねぇなんて言って、あんたちっともおせち食べないからねぇ。唯一よくつまんでた栗きんとん、たくさん作っといたよ」

・・・って皿一杯に栗きんとんだされても、、、

俺だってもう大人だから、酒の肴に地味なおせちの品だって食べれますって。


「そうそう、忘れないうちに渡しとくよ。はい」

そう言って母が差しだしたのはポチ袋だった。

「えっ、いや、いいよ、っていうかむしろ俺が・・・」

戸惑う俺に母は笑いながら言った。

「あんたももう春には高校を卒業して社会人なんだから、お年玉も今年で終わりだよ」


え? 母さん?・・・


年老いて皺の刻まれた母の深く弛んだ目の奥で昔と変わらぬ優しい瞳が俺を見つめている。







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