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三田一族の意地を見よ  作者: 三田弾正
第伍章 坂東怒濤編
94/140

第玖拾肆話 帰ったら帰ったでピンチ到来?

大変お待たせしました。

三巻作業のため更新が滞っていましたが、第一回目の目鼻が立ったために更新再開です。

三月は再度、修正をはじめるので更新が鈍化します。



永禄元(1558)年閏六月十三日


■相模国西郡箱根湯本 三田康秀


三島で一泊の後、今度は箱根で温泉なんだが、目と鼻の先で泊まるって蛇の生殺し状態じゃないか、直ぐすっ飛んで帰りたいのに、今夜は長旅の疲れを癒やすようにとまた泊まり。そんなの良いんじゃ、家に帰った方がよほど疲れが取れると言うんじゃい!


ジタバタしても仕方が無いと言う事で諦めた。そして宴の前に、体を清めようという口実で、温泉に入っているんだ。本来なら家族総出で混浴露天風呂につかるのが良いのに、湯気が上がる岩湯船に男ばかり五人だから風情も何もありゃしないんだ。そのうえ温泉に浸かっている人物が問題だよな。


「左中将殿、この湯はよいですね。疲れが消えるようです」

「親王殿下、箱根の湯は切り傷、節々の痛み、冷えなどに効きます」

「なるほど、都に近い湯は有馬ですから、小田原から近い場所にあるとは羨ましい限りですね」


「この箱根は七湯とも八湯とも言われて主に八個所に湯が沸いております」

「八個所も、それは素晴らしい事です。院や主上にも入って貰いたいものです」

「はっ、何れ船にて湯をお送りする事も出来るやも知れません」


んー、親王殿下と氏康殿の話をジッと湯につかりながら聞くのって辛いんだよな。

氏堯殿は涼しい顔をしているんだが、氏政なんか既に真っ赤だぞ。

これじゃ我慢比べだ。ドンだけ入れば良いのやら。


散々温泉につかった結果だが、政治向きの話は殆ど無かった。つまり単なる裸と裸の付き合いだっただけ。


確かにさ、俺たちみたいに何ヶ月も付き合いがあるならある程度気心も知れているから大丈夫なんだろうけど、親王殿下と氏康殿にして見れば初顔合わせだから世間話でお互いを探ろうとしていたんだろうな。


結局、氏政がダウンして温泉我慢大会は終了。


その後、氏政が起き上がるのを待ってから宴に突入したんだが、明日は帰れると言う事で、うちらは静かなんだが、公家衆は温泉に酒でも入っていたのかと思うぐらいのどんちゃん騒ぎ。


まあ、良いんだけどね。公家衆は小田原で暫く待機した後で、二月の里見勢の襲来から急ピッチで再建が行われている鎌倉へ行くわけだから、不安もあるんだろうな。


都にいた時にはよく判らなかった二月の里見勢の鎌倉襲撃事件の全容が判ったが、俺の作った早期警戒網と緊急連絡網が見事に働いて奇襲のつもりが待ちかまえていたという状態だったらしい。


そのうえ、松田康郷殿、所謂赤鬼殿があの里見家にその人有りと言われるほど有名な正木大膳殿を討ち取ったって言うんだから素晴らしい。


康郷殿は松田家の中でも俺に好意的だからな、付き合いもあるし、帰ったらお祝いを届ける事にしよう。何が良いかだが……そうだ、都で手に入れた長谷部国重が良いかもしれないな。まあ帰ってから考えよう。


しかし、こっちに比べて女湯は楽しそうだよな、笑い声がここまで聞こえてくるし。


永禄元(1558)年閏六月十三日


■相模国西郡箱根湯本 


「いやー、極楽極楽」

「千代女様、婆臭いですよ」

「だよね」


「えい、仕方が無いであろう、甲賀には温泉などは無かったのだから」

「つまりは珍しいと」

「そうとも言う」


「まあ、確かに自然に渾々とお湯が湧いているんですから不思議ですよね」

「凜、そう思うであろう?」

「ええ、尾張にも温泉はありませんでしたし」


「ん? 舜は驚かないのか?」

舜は貧弱な胸を目一杯はって『えっへん』と答える。


「妾は、有馬の湯に行っておったのでな、珍しくは無いのじゃ」

「ぐぬぬ、そうで有ったか」

「有馬の谷の兵衛は定宿ぞ」


「流石は、本願寺の御子ですね」

「隠れ子じゃが、その辺は贅沢をさせて貰ったからの」

「色々あったんだね」


「まあ、双子の片割れは忌み子と言うからの、本来であれば始末されてしまうが、父上、母上、兄上のお陰でこうして坂東へ来ることも出来たのでな、兄上には感謝なのじゃ」

「確かに、顕如様はご立派なお方でしたね」


舜の話に、馬揃えでの給仕で唯一話した凜が頷く。

「であろう、妾自慢の兄上じゃ、無論典厩殿も自慢の兄上になったのじゃ」

「ほう、典厩殿には我も色々あるのでな」


千代女と舜がニヤリとしながら視線を飛ばし合う。

「あわわわ、千代女様と舜様が一触即発でしゅ……また噛んじゃった」

それまで大人しく湯につかっていた小柄な少女が噛みながら慌てている。


さと様、お二人は何時もこうですから、お気になさらずに、サラッと流すのが宜しいかと存じます」

「えっでも」

「まあ、二人ともじゃれ合っているんですから、ねっ」


美鈴と凜に言われて里は戸惑う、何と言っても自分が場違いだと判っているから、里は三好実休宿老加治玄蕃の末娘で三田康秀の非凡さに期待した実休からのか細い糸として康秀宿老になる事がほぼ決まっている同族の加治兵庫介に嫁いできたのである。


その為、最初の頃は陪臣の娘で陪臣の妻になるのであるからと遠慮していたのを後から来た千代女や舜が引っ張り込んだのである。だが千代女は甲賀望月家の姫で有り、舜は本願寺の末娘である。それだけ身分の差を感じているので未だに引き気味だったのであった。


「そうじゃぞ、里よ、此処にいる我らは皆が皆、何だかんだで典厩殿に世話になるわけじゃ、それならば今の内に打ち解けておかんと、最後の機会だからの」

「そうですね。千代女さんと美鈴さんはいざ知らず、私は金次郎様の里さんは兵庫介様の妻、舜様は典厩様の義妹になられる訳ですから、今後とも仲良くしていかないとですね」


「ちょっ、我を無視か! 我も何れは典厩殿をギャフンと言わせてやるのだからな、のう美鈴」

「はいはい、そうですね、乙女の印をつかって驚かして上げましょうね」

美鈴が千代女をあやすように喋るので皆から笑いが生じた。


暫くすると、美鈴が用があると先にあがり、代わりに部下の香澄や彩華などが入って来たが、楽しい笑いが続いていた。


永禄元(1558)年閏六月十三日


■相模国西郡箱根湯本


「止めましょうよ」

「なんの、今ならあの我が侭でけしからん乳や太股の湯女たちが入っているんだぞ」

「見つかったらどうするのですか」


「そこはそれ『警護の最中であった』と言い逃れすれば良い」

「そんな事、野口様、加治様には通用しませんよ」

「大丈夫だ、御屋形様、御主君は親王殿下と一緒だし、凜ちゃんたちも別の場所だ。幾ら俺でも危ない橋は渡らないさ」


そんな事を言いながら、温泉で働く芸子たちが宴の支度前に湯につかっていると知った藤橋満五郎は同好の士と共に、崖をゆっくり降りて行く。


「ほれ見ろ」

崖の中腹にある段差についた満五郎が腹ばいで下を覗けば、眼下にはキャピキャピ騒ぐ素っ裸の芸子の姿が見えた。


「おーっ、凄いです」

「だろう、地勢を調べるのは大切だからな」

「それにしても、あの子は凄いな」


「いや、あの子の方が、胸が凄いですよ」

「あの尻は最高じゃ無いか」

出歯亀し続ける二人だが、不意に風が吹いた。


「ウッ」

一緒に来た中間の長助の呻き声が聞こえたが、満五郎は気にせずに覗き続ける。

”ポンポン”と肩を叩かれるがお構いなしに手を払う。

「長助、なんだ、良い所なんだよ」


なんども叩かれて五月蠅いとばかりに長助の方に顔を向けると、そこには長助が伸びており、よく見るとムンズと仁王立ちの美鈴の姿が有った。

「みっ美鈴さん……これは、あのそのですね……」


無言で、汚物でも見るかのような目で冷たく美鈴は見つめる。

「えーと、誤解なんですよ、誤解、賊の進入が為されないように、あのですね……」

その言葉を聞いて、ニコリとした美鈴を見て、ホッとした満五郎は愛想笑いをし始める。


「そんな言い訳、通用するわけがないでしょうが!」

鋭い目で満五郎を見るとはっ倒したのである。

「ぐふぇー」

「美鈴さん美鈴さんと口説いてきたくせに、この体たらく、愛想が尽きましたので、今後話しかけないで下さい」


その後、康秀と千代女の許可を受けた美鈴は満五郎と長助をグルグル巻きにさせたうえで、一晩木から吊してお仕置きした。


美鈴は吊された満五郎を見ながら、ポツリと言った。

「やっぱ、身持ちの悪い男は駄目だね。これは早急にお嬢様と長四郎様の仲を進展させて、越卒分おっそわけして貰わないと、そうなれば、ウフフフ、まだまだ若いんだしいけるわ! 善は急げよ、早急にお嬢様と相談しないと駄目だわ」


既に二十四歳、焦りはじめた美鈴であった。


永禄元(1558)年閏六月十三日


■相模国西郡小田原


その頃の小田原では、三田屋敷から夜陰に乗じて外出しようとする影が一つ。

「さて、遠乗りと称すればバレまい」

「祐姉さん、夜陰に乗じてどちらへ行かれるつもりですか?」


「ゲッ、妙か、いやな雪隠に行こうかと」

「へー、祐姉さんは、遠乗りの支度をして何処の雪隠へ行くんですか?」

「いやな、あのな……」


妙が縁側をポンポン叩きここへ座れと示唆する。

「祐姉さん、私だって、長四郎様だって我慢しているんですから、抜け駆けは駄目ですよ」

「うぬぬ、あの山の向こうに長四郎殿だんながいると言うのに……」


「ねっ!」

「判ったよ、今日は諦めるさ」

「そうですね、それが肝要ですよ。明日になれば嫌でも一緒に住むことになるんですから、時なんか幾らでも出来ますよ」

「そうだな」

「ええ」


「早く明日になーれ」

「何だ妙も待ち遠しいんじゃないか」

「当たり前ですよ」


永禄元(1558)年閏六月十四日


■相模国西郡箱根板橋  


「よっしゃー! いよいよ小田原だー! 妙、祐子さん、沙代まってろよー!」

「殿様がまた上の空でブツクサと……」

金次郎は生暖かい目で康秀を見ながら小平太に話す。


「小平太、仕方が無いって、一年越えの帰宅だからな」

「そう言えば、金次郎様は平然としていますね?」

小平太の質問に金次郎では無く兵庫介がにこやかな笑顔で答えた。


「そりゃ、そうだろう。金次郎は凜ちゃんがいるんだから」

「そう言うお前もだろうが、ええ兵庫介」

金次郎と兵庫介が惚気ながら話す。


「小田原へ着いたら祝言だからな、金次郎は大変なんじゃないか?」

「まあ、御屋形様を始めとして宿老殿たちにも挨拶しなきゃならないらしいからな」

「いやいや、俺は一族の娘で良かったよ」


「そうは言っても、三好実休殿の宿老の娘だろう」

「まあ、確かにそうだけどな、陪臣の娘だからそこまで厳しくないさ」

「違いないな」


「ともあれ、小田原は直ぐ其処だ」

「やっと帰って来たぞ」


永禄元(1558)年閏六月十四日


■相模国西郡箱根 三田康秀


さっきの呟きを聞かれはしたが、金次郎を筆頭に何時ものことと思っているんだよな。


それにしても、金次郎と兵庫介は良いんだがな、満五郎よ、昨夜は驚いたぞ、お前が風呂を覗いたって聞いてな。美鈴が捕まえた事と、覗いたのが湯女の風呂姿だったから、報告したら氏康殿、氏堯殿も苦笑いで、もの凄く恥ずかしいんだが、その程度で腹を切らすのは気の毒だし嫌なので、俺が頭下げた結果、暫く謹慎させると言う事で手打ちにしたからな。


湯女には、覗きプレイとして俺が金払って示談にしたから事なきを得ただけで、普通なら犯罪だからな。

全く早いうちに身を固めさせないと駄目だな、どっかに旦那を尻にひくような女傑はいないんだろうか?

あー、諏訪部定勝のかみさんみたいな人が良いんだがいないよな。


まあ、あと少しで小田原だから、帰ってから考えよう。だって妙に直虎さんに沙代に早く会いたいんだよ。


ヨッシャー! 早川口を越えれば一里で箱根口だ!

沿道には既に多くの民が集まって来ていて感無量だ。

見えた箱根口の門だ!

 

遂に遂に遂に帰って来たぞー!

「長四郎、待て」

氏政が『待てと』言っているがそんなの関係無い! 箱根口から城を横断すれば直ぐに屋敷だから。


「待てと言うのだ」

今度は、氏堯殿が怖い顔で……

「家へ行かなきゃですから」


「だから、親王殿下の下向なんだから小田原街中を行進してから大手門から入城だ」

「えーっ」

「元々お前が提案したんだろうが」


「あっ!」

「忘れていたとは言わせんぞ」

そう言えば、出発前の相談で征東将軍の凄さを見せる為の催しを考えたんだった。ここで祟るか。

「まあ、会いたいのも判るが今少しの辛抱だ。良いな」


「はい」

氏堯殿に言われたんじゃ仕方が無いし、確かにパフォーマンスは肝要だからな。仕方が無いあと少しの辛抱じゃ!


大手門にまでの沿道は城下の人全員が出てきたんじゃないかと言うほど人が出ていて凄い歓迎ムード。

そのせいで、公家衆や寺社衆のテンションが上がりまくりだ。


遂に大手門へ到着した!

まだ我慢、我慢、我慢!


氏康殿が親王殿下を迎え入れて城へゴー!

これで今日はお役御免だ!帰るぞ!

「新九郎、後は任せた!」


「せっかちだな。長四郎、妙は二の丸屋敷で待っているぞ」

「それを早く言ってくれ!」

取りあえず、千代女や舜ちゃんは、金次郎が案内して二の丸屋敷へ迎えるように言ったから、あとは混雑する城内を抜け道を使いながら屋敷へゴー!


屋敷の前には妙と、祐子さんと、祐子さんが抱いた赤ん坊があれが沙代か、パパだぞ!

「貴方」

「よっ元気だったか!」

「妙! 祐子さん! 沙代! ただいま!」

「貴方お帰りなさい」

「無事で何よりだぜ」


俺は、妙を抱きかかえてキスの嵐をしまくった。

回りには、刑部をはじめとする家臣団や、追いついてきた金次郎、千代女、舜ちゃんたちがいっぱいいる中で……


それに気がついたのは、妙を抱擁し、祐子さんの胸に顔を埋め、沙代に高い高いをした後だった……

一生言われそうな恥かしい事をした。


ともかく、小田原へ帰ってきたぞ!




やっと小田原で妙ちゃんと抱擁できました。今夜は眠れない?


感想返しは、後日行いますので暫しお待ち下さい。


イタリアも後日更新予定です、暫しお待ち下さい。

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