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三田一族の意地を見よ  作者: 三田弾正
第肆章 帰国編
88/140

第捌拾捌話 意外な事実

大変お待たせしました。書籍化作業で中々進みませんでした。


今回は、なんとなくボヤッとした感じになってしまっています。


直親が右馬頭と言って権を言ってないのは仕様ですので誤字じゃ無いです。

永禄元(1558)年閏六月七日


遠江国とおとうみのくに引佐郡いなさぐん 井伊谷  井伊直親いい なおちか


「旦那様、お帰りなさいませ」

「くっ、面白う無いわ!」

「ひっ!」


一々怯えた様な顔をしおってからに、苛つくわ!

「蘭!、何故怯える!」

「そ、その様な事は、ございません……」


大体この女が、子を産まぬからあんな板東の田舎武者に爺どもが媚びへつらうのだ!俺こそが井伊の惣領なのに、祐とあの男の子に家を継がせるなど、はらわたが煮えくりかえる思いぞ!

ぬー、酒でも飲まねば気が晴れぬわ。


「酒じゃ、酒を持て!」

「旦那様、御祖父おじいさま御義父上おちちうえや宿老との評定がお有りなのでは?」

「その様なものに出ても、どうせ変わりばえのしない話ばかり、それに小野の顔を見るのも反吐が出るわ!」


「しかし……」

「諄い!」


「けれど、旦那様、あまり飲み過ぎては、お体に……」

「五月蠅い!お前は、言われたようにすれば良いのだ!」

生まず女の癖に一々気が触るわ!えぃい、こんな女に絆されて妻にしたが失敗だったわ、信濃で心細かったからの気の迷いよ!おしむらくは、再会した時、無理矢理にでも祐を手込めにしておれば今頃は……さすれば小野とて何も言えない状態で有ったのに……


「旦那様、酒の御用意が出来ました」

「遅いわ!」

「申し訳ございません」

その顔よ、蘭も蘭だが、侍女どもまで怯えおってから一々気に触るわ!


酒を飲んでも気が晴れぬわ、そうよな。この様な辛気くさい女などは捨て置いて、玉の元にでも行くか。

「旦那様、御出掛けでございますか?」

チッ、うざいわ。

「お前に言う筋では無い!」

「旦那様、いつお帰りですか?」

「諄い!」


三田康秀か、何が右馬助じゃ、あの様な板東の田舎武者に井伊の家督は継がせん!



永禄元(1558)年閏六月七日


遠江国とおとうみのくに佐野郡さのぐん懸川かけがわ 三田康秀


浜松、いや曳馬を出て、天龍川を無事に渡り終えると後は一気に懸川へ、しかし直虎さんに俺の子がか、感無量というか、歴史が変わったというか、何と言うかだよな。直虎さんは二十四か、巷じゃ行き遅れなんかと言われるんだが、あのエロエロワガママボディーを見たら、幾らでも逝けるんだが、んー自分の子を産んでくれたと言う事で、益々愛おしいと言うか、頑張っちゃうよ。もちろん妙も大好きだよ!


「殿様、殿様、ニヤニヤしているけど、何かあったのですか?」

えっ、やばっ顔に出てたか、小平太たち小姓衆が不思議な顔で、金次郎たちが呆れた顔で見ているし。

「いや、つい我が子のことを考えていたんだ」


よっしこう言えば何とか成るはずだ。

「なるほど、殿様は初めての子供だもんね」

よしよし、小平太たちは誤魔化されたな、けど金次郎はジト目で見ているな、判っているんだろうな。付き合い長いし、けどまあ言わないのが金次郎の良い所なんだよな。


懸川では朝比奈泰朝あさひな やすともに会ったんだが、史実ではこいつは崩壊する今川家を見捨てずに氏真を懸川城に迎え入れて籠城して最後まで今川家に忠節を尽くしたんだよな。実際に会ってみると噂通りの人物なんだが、何と言うか、忠義のやり方を間違えているというか、考えすぎというか、酒宴でも何かにつけて、俺と井伊家との関係を聞いてくるし、夜は夜で部屋まで押しかけてきて夜中まで話を聞かされたんだが、凄くしつこかった……



『三田殿は、井伊家の御息女を側室に為さったとか』

『はい、色々ありまして、その様な仕儀に』

『なるほど、あの家は、先代様(今川氏親)の御代に最後まで抵抗し屈服した後も直満、直義は謀反を企んだが故、御屋形様が誅しました。その息子の直親も些か素行が優れぬようでして、本来であれば信濃守殿(直盛)に男児が生まれれば良かったのですが、生憎と三田殿のご側室の祐殿しかお子がいませんでしたからな。御屋形様も今川一門の血をひく祐殿の婿ならばと、直親を世継ぎにするを渋々ながら認めたのでございますが、事も有ろうに直親が祐殿以外の妻を迎えたことで、我としては不快に感じておるのですよ』


何と言うか、今川ラブって感じなんだが、その考えが捻くれすぎていて、明後日の方向へいっている感じだった。

『なるほど』


『気の毒なのは、祐殿でしたが、三田殿が見事に祐殿に命中為されて、お子が出来ましたからな。これほど愉快なことはございませんぞ。何と言っても直親の馬鹿さ加減が際立ちましたからな、そもそも謀反人の子になどに家督を継がれては、いつなんどき嘗ての様に謀反を企むやもしれませんからな、その様な事が有れば、御屋形様より遠江の護りを承っている朝比奈の名折れ。その為の井伊家へ今川一門からの入籍でございましたが、直親めは判らんのです』


『ふむふむ』

絡み酒に近いから、真面目に聞いているようにしておかないと駄目だったんだ。


『ここは、三田殿が小田原へお帰りになったら、バンバン祐殿とおやりなさってお子を十人でも二十人でもお作りになられて、直親の代わりに家督を継がせるが良いですぞ。祐殿のお子ならばご隠居(井伊直平)も信濃守殿(直盛)も新野殿(祐の伯父)も小野を含めた家臣団も納得するでしょう。無論、御屋形様も拙者も賛成致す所存。是非とも三田殿のお子に井伊の惣領をお継がせなさいませ。いやー目出度い目出度い』


この頃になると酔いが回ってきたのか、話が支離滅裂というか完全な願望で話しかけて来ていたわけだし、バンバン背中を叩いてくるし。

結局の所、朝比奈殿が言いたいことは、井伊家は南北時には南朝に、今川家の遠江奪還時には、斯波家側に付いて散々楯突いてきた。その為に井伊家は信頼できない、更に謀反人の子である井伊直親は信頼できない、態々直盛殿の嫁に今川一門の新野親矩殿の妹を嫁に出したのに女しか生まれなかった。それならば断腸の思いで祐さんと直親殿が夫婦になるならと許すつもりが壊れたから、危険だと言う訳で、俺が祐さんとの間に子供を作っちゃったので、今回は女だが次回以降は男が生まれるまで頑張れと言う訳だ……なんかプレッシャーが掛かりまくりだわ。


そう思っていたら、翌朝には何も無かったかのように親王様を見送るんだからある意味不気味に見えたよ。



永禄元(1558)年閏六月九日


駿河国安倍郡するがのくに あべぐん宇津ノ谷峠うつのやとうげ


「親王殿下、あれが府中でございます」

「見事な街ですね」

いよいよ駿河府中を眼下に見る宇津ノ谷峠に到着、今川方からも迎えが来て狭い山道がごった返している状態に、もう少し考えて使者送ってこいと言いたいが、まあ仕方が無い。迎えに来たのは関口親永殿で有名な築山殿の親父さんだ。


普通なら直宮で征東大将軍で親王殿下たるお方に当主が挨拶に来ないのはおかしいと言えるんだが、”府中にて歓待の支度をしております"からと言われればそうかと言うしか無い。まあ実際の所は格下だとも思っていた北條家が見事に上洛して朝廷から官位を授かり、征東大将軍の下向までなし得たから複雑な思いなんだろう。


「三田殿、何を難しそうな顔を為さっておるのですかな?」

「いえ、なんでも」

「判り申しますよ。まあ御屋形様も拗ねておいでなのですよ」


「えーと……」

「まあ、そう言う訳ですので、気になさらぬ事ですよ」

わー、ぶっちゃけた。流石は今川一門と言えるよな。今話しているのは、新野親矩殿で、直虎さんの実の伯父さんなんだよな。新野殿は、懸川から南東へ二十二里(14km)ほどの新野の舟ケ谷城主で今川家の分家でもある。


そこで、懸川を出立する朝に城まで来て宇津ノ谷峠まで案内してくれたわけだ。これで一応成りとも今川一門が親王殿下のお供になったと言うアリバイみたいなものだって、平気で俺に言ってくるわけだから、もう身内感覚なんだろうな。


そういえば、史実で新野殿は、謀反の咎で朝比奈殿に誅殺された直親殿の遺児直政を匿って、そのうえ最後まで井伊家の為に戦って、曳馬で討ち死にしたんだよな。反骨精神が隆々とあるのかな?それより関口殿が来たら新野殿はさっさと俺の所へ来たけど、案内はいいのかな?


「新野殿、親王殿下は?」

俺の質問に新野殿がニヤリとしながら答えてくれた。

「それがしの、役目もここで終わりですからな。何と言っても当家より格が高い今川一門たる刑部少輔殿が案内に来たのですから、肩の荷が下りた気がしますな」


んー、かなりの自由人だな。

「なるほど」

「やっと、これで三田殿とジックリと話す事が出来ますな」

えっ、新野殿との付き合いって、直虎さん関係しか無いんだけど。


「えーと」

「いや、別にとって喰おうという訳ではないですから」

「はい」


「それがしは、三田殿に礼を言いたいのですよ」

「それは」

「祐の事でしてな、あれは我が姪なのですが、家の事で大分無理をしておりまして、それがしから見ても相当無理をしているのが判っていたのですが、あの性格の為に、我を張って弱音を吐きませんでしたし、不幸な事が続き、婚期も逃していたのです。所が三田殿と致した後、自浄寺で会ったのですが、吹っ切れたか、憂いも無い爽やかな笑顔でしてな」


直虎さんも悩んでいたんだな。

「それに、北條殿のお陰を持って、祐が三田殿の側になる事を許された上に、この度は子まで生まれましたから。それにお恥ずかしながら、直親は夫婦仲が悪いようでしてな」


そう言えば、この前や去年の酒宴でも直親殿は凄く不機嫌そうだったし、夫婦仲が悪いのが原因か、けどこれじゃ直政生まれないんじゃ?それとも側室の子供なのかな?

「何故そこまで?」

「内情にこれほど詳しい事ですが、実は、我が妻は奥山の出でして、直親の妻も奥山の出なのですよ、そこから妻同士が相談しましてな」


「なるほど、そう言う訳ですか」

奥さんネットワークなら情報が流れるのが早いよな、小田原でもそうだったし。

「それに、直親は内緒で彼方此方に側女を囲っているのですが、未だに誰も子を成しません、そこで、ご隠居も信濃殿もそれがしも、井伊の血脈が絶えるの座しているわけにはならぬと、何とかして祐と直親を夫婦にしようと”泥酔させてから事をさせよう“など色々話し合っていた所で、あの事ですから」


うわー、俺が直平殿、直盛殿、親矩殿の計略を潰したのか!

「新野殿、祐殿の事では、あの様な仕儀に成りまして真に申し訳ない」


「いやいや、とんでもない、却って好都合と言いますか、井伊家としては万々歳なのですから、三田殿は北條殿の婿君ですが、”井伊家の婿としても宜しく御願いしたい“とご隠居も信濃殿からも言付けを頼まれておりますからな」

朝比奈殿と同じ様に肩をバンバン叩かれるんだが、今川家ってこう言う家だったっけ?


「祐殿との事は自分としても驚きでしたが、祐殿との事は真面目に育もうと思います」

取りあえずは、こう言っておかないと駄目だよな。しかし井伊家、新野家、朝比奈家とも俺+直虎さん=男の子を待っているのが判るんだけど……


しかし、直親殿って多淫なのか?確か、直政は直親殿の子供だし直政以外にもあと一人か二人いたはずだしから、いずれ跡継ぎが出来るんだし、種無しな事は無いだろうから杞憂に終わるんだけどな。


書籍化第二巻の加筆、修正が終了しました。現在編集者が誤字脱字諸々の検査を行っております。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 北條と今川をこういう角度で描いた物語を初めて読みました。大変新鮮で微笑ましいです。ありがとうございます。 [一言] ただまだ先を読んでないのでわかりませんが、織田家のファンというわけでもな…
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