表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
三田一族の意地を見よ  作者: 三田弾正
第肆章 帰国編
82/140

第捌拾貳話 妹出来ました

大変お待たせ致しました。

皆様、暖かいご声援とお見舞いありがとうございました。

書籍も無事出版され、応援大変ありがとうございました。

また、父の件もありがとうございました。

今現在恙なく過ごしております。

重ね重ねありがとうございました。


さて本文ですが今回も康秀のフラグクラッシャー振りを特とごらんあれ。

永禄元年(1558)六月二十一日


伊勢国いせのくに 桑名郡長嶋くわなぐん ながしま 三田康秀みた やすひで


「典厩殿じゃな、我にカリーを馳走するのじゃ」

「誰??」

まあ考えよう。長嶋へ着いた俺と長順殿、関東へ下向し本願寺末寺の纏め上げをする責任者として指名された坊官の下間頼廉殿は輪中地帯の真宗本山願証寺に挨拶の為に向かったんだが、見たこともない少女が突然乱入し混乱しているわけだ。

んーーー???誰だっけ?


「我を知らぬか?」

いやいや、山門着いていきなり会ったこともない少女にそう言われても、誰としか言えないだろうが……

その上、貧弱な胸を目一杯張って、年にそぐわない程のドヤ顔してるし……

「左様か、うむー……」


向こうも名乗らないし、けどどっかで見た気がするようなしないような、なんかモヤモヤした感じが……

んー、ここは願証寺だし、住職の証恵しょうえ殿の子供かな?けど娘って、いなかった気がするんだけど、歴史に書かれていないだけかも知れないし、カリーを知ってるって事は本願寺か公家の関係者だろうけど、三條家にはこんな子いなかったし、本当に誰なんだ?


「虎寿、虎寿よ、その様に惚けておらんで我を典厩殿に紹介せぬか」

虎寿って誰?

そう思ってキョロキョロすると、ん?

下間頼廉殿が目を見開いて驚愕の表情をしているって事は、虎寿って頼廉殿か?


「ああああまね様、何故此処へ?」

なるほど、少女の名前は雨音というわけだ、この時代では珍しい名前だよな。記憶の隅にあるのはアニメのヒロインの一人で宇宙警察官ぐらいだけど。


「何故此処にと言われれば簡単な事ぞ、兄上達だけがカリーを馳走になって留守をしていた我が食せぬとは不公平ではないか」

「その様な事で、石山から此方へ来たのですか」


頼廉殿の語気が凄く淡々とし始めたな、付き合いが短いから呆れているのか怒っているのかがよく判らないけど、責めている雰囲気はするよな。

「とと虎寿、そそのような事だけでは無いぞ」

雨音殿が冷や汗をかき始めたと言う事は、頼廉殿は静かな怒りモードな訳か、これからの付き合いの事も有るから、確り覚えておかないとだな。


「では舜様、確とお聞き致しますが何故この地に赴かれたのですか」

「それはな、兄上から頼まれてな、数十年ぶりに坂東で真宗の教義が復興する事になった、本来であれば兄上が坂東まで行き親鸞上人の坂東での足跡を参り信徒に説法をするのが正しき事なれど、なにぶん兄上は石山から動けぬ故に、親鸞上人の血を引き妹である我が、代理として下向する事になったのだ」


んー、聞いてみて、確かに理に適ってはいるんだが、整理してみよう。

真宗の代表と言えば顯如殿だよな、顯如殿を兄という訳だから、顯如殿の妹な訳か、けど待て、石山で会った顯如殿の妹は妙殿だったよな。あの時は嫁さんと同じ名前で驚いたけど、顯如殿の妹って彼女だけじゃないのか。それとも隠し子とかかな?


「舜様、その様な事で騙されるとでもお想いですか?」

「嘘ではないぞ嘘では」

「証拠がお有りですか?」

「証拠なら、ほれ、あれ、それでな……」


んー、言動がしどろもどろになって来たし完全に嘘っぽいな。

「少々お仕置きが必要の様でございますな」

おー、頼廉殿から静かな怒りのオーラが見える気がする。

て言うか、俺達完全に蚊帳の外なんだけど、長順殿も金次郎以下の面々も呆気に取られているんだけど……


千代女と美鈴の二人は確りと警戒しているか、流石に甲賀だな。千代女は未だに若侍の格好をして、千丸と名乗っているけど、百地屋敷で戦った時点で女だと判っていたから、後で美鈴にコッソリ聞いたら、何とあの有名な望月千代女本人だったわけで、知った時は驚いたのなんのって、あまりの驚きように美鈴が怪訝な表情をしたぐらいだからな。けど千代女が家に来たんじゃ、信玄どうするんだろう、歩き巫女発足フラグがバキバキに折れたんだけどな、それに典厩信繁の息子の嫁になるはずの千代女が近習になっている訳だし、美鈴から聞いたら、嫁に行くって言う話も無くなったそうだから、信玄に“甥御さんの嫁さんがいなくなりましたよ”とドヤ顔で言いたい気がするんだが本人前にしたら怖くて、色々漏らしそうで言えないよな。


おっと現実逃避している間に多少は話が進んだようだな。

「そうじゃ、虎寿、我を紹介しなければなるまい」

「舜様は直ぐに石山へお帰りになるのですから、無用にございますよ。それに拙僧の通称は源十郎でございますし、法名は了入でございます故、幼名で呼ぶことはご遠慮頂きたく」


雨音殿は頼廉殿に詰められてジリジリと山門へと追い詰められていき、とうとう動けなくなった。

「嫌じゃー、カリーを食べるのじゃ」

可哀想だが戦国の世に少女が彷徨いていたらもっと可哀想な目に遭うからな、帰されるのが安全と言う事だし、まあ、カリーなら明日の宴で振る舞うことにしているから、食べさせて明後日以降に帰すように頼廉殿を説得してあげるか、これも武士の情けでござるってか。


金吾きんご殿」(下間頼廉が右衛門尉うえもんじょうの為、唐名で金吾きんご或いは判官はんがんと言われていた)

俺が問いかけたら頼廉殿が心底申し訳なさそうな顔をして俺を含めた皆に頭を下げてきた。


「皆様、お恥ずかしい事なれど、このお方は宗主しゅうしゅ(顯如)様の妹君で舜様と申しますが、色々ございまして、本来であれば表にお出になられないお方なのですが……」

頼廉殿の奥歯に物が挟まるような歯切れの悪さはなんかあるな。


「金吾殿」

ん?山門から誰か出てきたぞ。

「藤右衛門殿、何故此処へ?」

二人とも右衛門尉を名乗っているのか、紛らわしいな。


「うむ、舜様のお護りでして」

そう言いながら、藤右衛門なる人物が懐から書状を出して頼廉殿に渡して、それを読んで行くうちに難しい顔をしはじめたな。


「藤右衛門殿、これは真か」

そう言われた藤右衛門が、無言で頷いた訳で、それを見た頼廉殿が溜息をついたぞ。

「金吾殿、そちらの方は?」


俺が問いかけると、頼廉殿が説明してくれた。

「またも申し訳ございません、この者は川那部藤右衛門と申しまして、外向きの仕事などをしている者でして、先だっての際には同族の攝津池田家に使いに行っておりまして、北條殿とは会えず仕舞いでして」

そう言われた、川那部藤右衛門が挨拶しはじめた。


「はじめまして、拙者は川那部藤右衛門頼宗と申します。この度は舜様の守護として妻共々坂東へ下向する事になりました。以後宜しく御願い致します」

こう言われたら、此方としても挨拶を返さないと失礼にあたるわけで、しかも長順殿より俺の方が上位に成っているので、俺から返礼と言う訳だ。


「これは、丁重なご挨拶誠に忝なく存じます。拙者は北條家家臣三田右馬権頭康秀と申します。此方こそ宜しく御願い致します」

そうこうしていると、焦れたのか雨音殿が話しはじめた。

「藤右衛門、我の守護で坂東へとはいかなる仕儀なのだ?」


その言葉に、藤右衛門殿がニコリとして話しはじめた。

「舜様、先ほど拙者が金吾殿に渡した書状は宗主様より、舜様の処遇に関しての書状でございました。宗主様も舜様のご性格を把握なさっていらっしゃいますし、舜様の事で皆が陰口を言う事を普段より“下らぬ迷信だ”とお考えで不憫にお想いでしたので、自由にさせてやれと我らを供としてお遣わす事に為されたのです」


そう言われた雨音殿がシュンとして「兄上」とポツリと呟いたけど、結構可愛い感じがするんですけど。

「皆様、更なる騒がせ誠に忝なく存じます。宗主様よりの文により舜様の関東下向は確定となり申した。これよりは拙僧と藤右衛門夫妻が舜様の面倒を見ますので宮様、霜台殿へ同行の許可をお手伝い頂きたく御願い致します」


頼廉殿と藤右衛門殿が頭を下げてきたので、此方としても断るわけにも行かないわ。

「頭をお上げください、顯如様の妹君なら私の義理の妹でもありますから、妹を邪険にする訳には行きませんから。雨音殿も何か不自由があれば遠慮無く言ってくださいね。妹を護るのが兄の役目ですから。」


「典厩殿、その様に甘やかされては困りますぞ」

頼廉殿が渋い顔で頸を振るんだが、何やら訳ありの子じゃ可哀想な気がするんだよ。

「金吾殿、まあまあ、何やら訳ありのようなご様子ではないですか」

「典厩殿、我は我は……」


そう言ったら、雨音殿が目に涙を浮かべながら飛びついてきた。

「何があったか言ってごらん」

よしよし、おっと思わず頭を撫でてしまった。


「典厩殿、我は我は、畜生腹なのじゃ」

泣きながら言う言葉に合点がいった。

昔から双子以上は畜生と同じで忌諱されてきたんだ、あの徳川家康の次男結城秀康も双子だったと言われて、片割れは母方の実家に引き取られたとか言われているから、庶民でも忌諱したぐらいなら、本願寺なら完全に隠すか、それを不憫に思った顯如殿がそれとなしに自由を与えてやろうとしたんだな。兄としての考えと、本願寺宗主としての板挟みだったんだろうな。


「その様な事を何の意味があろうか、皆がその様な事で雨音を虐げるなら護ってみせよう、今より雨音は我が妹ぞ」

義兄上あにうえ、義兄上と呼んで宜しいのですか?」

涙を流しながら上目遣いに縋るような姿にお兄さんは護ってあげるよ。


「そうだよ、雨音、私の事も長四郎と呼んでおくれ」

「はい、長四郎兄上、宜しく御願いします。一生懸命頑張ります」

健気や健気やな。妹ってこんなに可愛いものなのね。

「それじゃ、明日はカリーを作るから一緒に食べようね」

「はい、兄上」


この後、雨音と書くのではなく舜と書くのだと知ったのでありました。更に川那部藤右衛門頼宗夫妻は三歳の娘である数多あまたちゃんを連れて、小田原へ赴任とは気の毒と思ったわけだが、数多ちゃんも凄い可愛い子でした。これは引く手数多になるなと思ったり、けど松田とかが狙わないように気を付けて上げなきゃだな。何と言っても舜ちゃんのお兄さんになった訳ですからね。舜ちゃんのお守りなら家臣同然と言う訳だし。


さて、明日は、近辺から探し出した家臣候補と面談だから頑張らなきゃだ。何と言っても山内、堀尾、堀、奥田、平塚etcだからな。





永禄元年(1558)六月二十三日


伊勢国いせのくに 桑名郡長嶋くわなぐん ながしま あまね


わーいカリーも美味しかった。あんの顯如あにきめ!こんな美味しいものを自分らだけで喰ってるなんて不公平だわ、全くあねきは良い所へ嫁に行くのに、私が何で三河の田舎へしかも養女に成らなきゃなんないのよ!都築つづきとか何とかいってるけど土豪じゃん、それに水野は結構大きいらしいけど当主じゃなく弟で九男って何よ、完全に厄介払いじゃない!まあ話を持ってきたのが三河の本證寺空誓だったから、水野との付き合いに厄介者を利用できるから良いと思ったんだろうけど、その願いは敵わなかった訳よ。


最初に話を聞いた時はこれが御仏のお導きかと諦めていたけど、顯如あにきが仏心出してくれて坂東へ行くならと許可くれたお陰で、典厩殿おにいさんに囲って貰えたわ。これで今後は安泰だわ。典厩殿おにいさんはお金持ちの北條家の一族だし、甘ちゃんだから、涙見せて甘えまくれば守ってくれるから安心。後は奥さんに気に入られるようにして何れは……




永禄元年(1558)六月二十三日


伊勢国いせのくに 桑名郡長嶋くわなぐん ながしま 甲賀の美鈴みすず


「あーあー」

典厩殿ぼっちゃんも全く何をやってるんだか、あんな小娘の猿芝居に騙されるとはね、まあ敵対してないから良いんだけどね、千代女様も何処が良いんだか?

「まあ、私みたいな下忍にも優しいから良いんだけどね」


「そうよな、典厩様は我らのような者にも分け隔て無く接して下さる」

ハッいつの間に、この私が気づけないとは、流石は風魔か。

「二曲輪殿か」


「美鈴殿、心配は無用でござるよ。典厩様は我ら風魔が必ず御護り致しますから」

「全て想定済みというわけですか」

「左様」


敵わないわね、まあ良いわ、端から見ていると面白いし、千代女様がヤキモキするかも知れないから、此処は退散致しましょうかね。

「じゃあ後は任せますわ、私は千様のお守りがありますし」

「委細承知」


さて、千代女様をどうからかおうかな、旅の楽しみが増えたわね。



あの有名人が生まれないか、母親が違う状態で生まれるかも、なにぶんあの破天荒な性格は母親譲りだと思って書いた次第です。

また、三歳児が関東へ来ることであるフラグが消えましたが、康秀は舜と数多の生涯を知らないので気づきません。


小悪魔舜ちゃんでした。

美鈴さんは腹黒。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] GXPとはなつかしいw
[気になる点]  舜と雨音 表記をどちらかに統一してほしい [一言] 久しぶりの更新で頭から読み返してます。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ