表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
三田一族の意地を見よ  作者: 三田弾正
第肆章 帰国編
78/140

第漆拾捌話 暗殺回避への布石

お待たせしました。


今回は短めです。海賊まで行けませんでした済みませんです。


前回の刀の戦いの下りを修正しました。


此から所要で出かけるので前回の感想の返信は後で行いますのでご了承ください。

永禄元年五月二十四日


■伊賀国名張


ひょんな事から望月千丸を預かるはめに成った康秀は、一旦里へ支度に帰る千丸を待つ間に、伊賀衆、甲賀衆の役割分担を決めるべく、百地丹波、望月出雲両人と話し合いを行っていた。両人の前には康秀が現代知識で思い出しながら書きだした地図が置かれていた。尤も康秀の覚えていた限りのもので有った為に、現代の地図には似ているが、些か変なところは多々有ったので些か曖昧なものになっていたが、行基図などと比べると遙かに緻密で有りそれを見た両人も驚く。


「ほう、此程の図をお作りとは、北條殿も相当なお方ですな」

「左様、我らも仕事柄、図を作らせておりますが、此程の物は初めて見ますな」

「ですな、行基図と此では全く比べものになりませんな」


康秀にしても地図は軍事目的にも機密の高い部類ではあるが、彼等の信頼を得る以上は出せるカードは出しておこうと考えて敢えて最高機密に近い地図を出してきたのである。


そんな中、地図を見ながら喧々諤々していた二人が踵を返して康秀に真剣な表情で話す。

「典厩殿、此程の秘図を我らに見せる程に我らを信じておられるのか」

「無論でございます。一度信を置いた以上は出来うる限りの事をするのが人としての性でございます」


その答えを聞いて、三人で顔を合わせながら次第に笑いが起こる。

「ハハハハ、典厩殿は我ら胡乱な者達を信じると仰る」

「まっこと、正直すぎますな」

「いやはや、お恥ずかしい限り」


一通り笑いが収まると、康秀が改めて役割分担を発表する。

「まず、伊賀衆ですが、五百五十人の内、五十人を京の池家の家人として務めさせます。これは池家が畿内における北條の根拠地と成るからです。更に京と堺には商家や宿を隠れ蓑に五十名ずつを配置します。彼等は商人として畿内の情勢を探って貰います」

「成る程、伊賀衆には丁度良い仕事ですな」

康秀の話に丹波が頷く。


「続いて、二百名は普段は伊賀に在国しながら三河、尾張、美濃、伊勢、志摩、紀伊、飛騨など東側からの情報収集と一乗院門跡覚慶様の影守を、残りの二百名は各地の大名小名の動向を探って貰いたい。特にこれらの者達には練達の者を付けて頂きたい」

そう言いながら康秀が出した紙束を読み耽る。暫くしてから顔を上げて質問する。


「毛利や大友は判りますが、宇喜多や長宗我部、龍造寺など弱小勢力ですが?それほど気にすることでもないと思うのですが?」

確かにこの時期には弱小でも今後大きく飛躍する大名であるが、そんな事は康秀しか判らないのである。


「確かに、そうだが、堺にて噂を聞いたが、何れ侮りがたい存在になるかも知れないと虫の知らせが来たとしか言えないんだ」

「成る程、典厩殿の菅公の冴えですな」

「いやいやそれは言いすぎだ」

康秀自身、丹波がからかっているのが判るが、お茶を濁すには良いかと思い反応する。


「すると肥前の少弐資元しょうに すけもとの三男や備中の三村家親みむら いえちかに付けと言うのも何かお考えがあるわけですな」

「まあ虫の知らせか」

まさか族滅や暗殺から逃れさせる為とは言えない康秀であった。


「成る程、伊賀衆はこの様な配置と言う事ですが、甲賀衆は如何なる仕儀に?」

今度は出雲が話を振ってくる。

「うむ、甲賀衆は薬が得意と聞く」

「そうでございますな」

「其処で、特に薬に詳しい者達は私と共に坂東で新たな薬の開発をして欲しい。更に毒、解毒、医術に詳しい者と体術に優れた者を幾人ずつか、覚慶様、三好長慶殿、三好義賢殿、十河一存殿、三好義興殿、毛利隆元殿、斎藤義龍殿らに付けて欲しい」


康秀の指摘に出雲は暗殺をするのかという顔をするが、康秀は手を振って否定する。

「彼の方々を我らが暗殺などしても仕方が無い逆よ」

「逆と言いますと、まさか害そうとする者が居るのですか?」


驚いた表情の出雲と丹波に対して康秀は頷いてから二人に近寄るように手招きする。

「此はまだ憶測なれど、長慶殿は天文二十年に二度に渡り刺客を向けられている」

「確かに、それはそうですが」

丹波も出雲も言いにくそうにしている。


「そうよ、一度目はいざ知らず二度目の刺客は大樹様の御家中の中でも近臣の進士賢光だ、その上大樹方の三好政勝と香西元成が事件翌日に丹波宇津に侵入している。更には岳父の遊佐長教殿も刺客によって害されている。どう見ても都合が良すぎはしないかと愚考した次第だが・・・・・・」


康秀の指摘に対して確かにそう言う事が有ったと考える二人であるが、三好家は判るが他の者達が何故という疑問を生じさせる。

「典厩殿、確かに大樹様の暗躍はありそうですが、三好家は判りますが他の者達は?」

「ましてや、覚慶様は弟御ではないですか?」


「兄弟というのは尤も近親憎悪の対象なのですよ、その弟が不倶戴天の敵、三好と友好的な北條にベッタリだとしたら、地位を奪うのかと疑心暗鬼に成るでしょうし、元々源氏は『源氏の共食い』で有名ですからね、尊氏殿と直義殿、義詮殿と直冬殿、義持殿と義嗣殿、義教殿と持氏殿、等々数えたらきりがないですから」


「それで護衛というわけですな」

「そうです」

「しかし、覚慶様は判りましたが、他の方々は大樹と何の関係も無いように思えますが?」


そう言われた康秀が不敵に笑う。

「彼らは、大樹の味方の敵なのですよ」

「味方と言いますと?」


「斎藤の敵は尾張の織田、毛利の敵は出雲の尼子、彼らは全て大樹に味方する存在です。その上両者とも不倶戴天同士で例え大樹が仲介しても和睦は成りますまい。さすれば両者共にどちらかが消え去るまで延々と戦い続けるでしょうから、大樹に取っては甚だ都合が悪い。であるなら手っ取り早く始末してしてしまえと考えても可笑しくありませんから」


「そ、それは・・・・・・」

「しかし幾ら何でもそれは・・・・・・」

丹波も出雲もそれ以上の言葉が出てこない。つまり康秀は将軍自らが嘗ての義教、義政、義尚などと同様に上意討ちをする気であると考えていると、指摘しているのである。


「大樹の考えは昔から変わりませんぞ、美濃の乱で土岐が明徳の乱で山名が応永の乱で大内が只他の者より権勢が大きくなっただけで理不尽にも言いがかりを付けられ討伐されているのですから、元々そういう血統なのでしょうな」

涼しい顔で大胆にも将軍家批判をする康秀の態度にさしもの二人も冷や汗を垂らす。

諸般の事情を良く知る二人してみれば、北條が大樹をほぼ無視して帝を立てる事を決めたのもこの事があるからかとほぼ同時に思い浮かんだ。


康秀の話によりシーンと成った座敷では緊張感だけが見え隠れしていたが、当の康秀は全く動揺していない様に見えた。


そんな中、暫し押し黙っていた出雲が考えが纏まったのか話しをし始めた。

「実は、望月の里と伊賀の間に和田と言う里があるのですが、其処の嫡男が大樹様にお仕えしておりまして、今は和田わだ弾正忠だんじょうちゅう惟政これまさと名乗っております。仕えて以来、暫く帰って来ていなかったのですが、何故か半年程前に急に帰って来たかと思うや否や、数人の者達を雇っていったのです。まあ金の問題で大半は手練れと言えぬ者でしたが、一人だけ種子島の手練れを連れて行き申した」


出雲の言う甲賀出身で鉄炮の手練れと聞いた康秀の脳裏に一人の人物が浮かび上がった。

「その者は何と言うのでしょうか?」

杉谷善住坊すぎたに ぜんじゅぼうと申します」

康秀は頭の中で思わず『ビンゴ!!』と叫んでいた。


「杉谷というと望月の至近だと記憶していますが」

康秀が驚く心を隠しながら冷静に質問した。


「よくご存じで、望月の東尾根の向こうに杉谷という里がありまして、其処を治めているのが杉谷家なのです。当代の三男坊は早くから僧籍に入っていたのですが、読経を読むより種子島を使う事の方が好きでして、日々鍛錬した結果、今では甲賀一の種子島名人になりました。和田の嫡男が態々大樹様の御内書まで携えて雇っていきましたが、あれは若しやして・・・・・・」


話を聞いている丹波も身震いしそうだがジッと我慢し話をすることで心を落ち着かせる。

「それででございますか、用心に越したことはないと?」

「念には念を入れよと申しますから、杞憂であれば此幸いですから」


「判り申した、他の者にはこの事は伝えませんな」

出雲の言葉に丹波も康秀も頷く。

「無論です。下手をすれば甲賀衆や伊賀衆の同士討ちすら起こりかねませんから、万が一の際には穏便にお帰り頂くしか有りませんな」

「確かに」


この様な話が三人だけで行われ、各々の役割分担が決まった。





永禄元年五月二十五日


■近江国甲賀郡


甲賀へ帰った千丸は家に帰るなり旅の支度をし始めた。親が一度言った以上はあの件は反古に出来ない事で有ると判っていたからであるし、最初は頭に来ていた康秀の事も、なんだか面白そうだと考えるに至ったからである。尤もその切っ掛けは美鈴の一言からであったが。


「チッ、今考えると勢いに負けて側に居る事を承認したが、なんかムカムカする!此なら本家の養子の方が良いんじゃないか?」

「千様、御屋形様の仰ったことよくよく考えれば、本家の話の下りは武田から押し付けられる養子の相手として千様を嫁がせる為の養子でしょうから、自由が無く成りますよ」


そう言われれば、そうかと千は思う。

「そうか、武田は本家を乗っ取る気満々か、そうなると態の良い人質となる訳だな、しかも実子じゃないから何時でも切れる存在な訳で、向こう(信濃望月本家)にすれば捨て駒として丁度良い訳だ」

元々頭の回転が速い千で有るからうがった考えをすれば其処に行き着く。


「その様な可能性も考えた上で御屋形様は迷っていらしたのであろうと愚考する次第です」

「其処で、丁度良い感じで彼奴が来た訳か」

「ええ、しかも察するに典厩殿は千様の事をおなごとは気づいておりません」


「そうなのか?」

「そうです、女の感ですが、間違い無いかと」

「そんなに魅力がないか・・・・・・」

千は自分の幼児体型を見ながらポツリと言う。


「ええそれはもう、とても姫には思えませんね。どう見てもそこいらに居る悪ガキにしか思えません」

ニヤニヤしながら美鈴が言い切るが、千は怒ることもしない。その辺は乳兄弟である以上、非公式の場では気の置けない仲なのであった。

「うー」


「唸っていても仕方が有りませんよ。どうせなら典厩殿の勘違いを利用してギャフンと言わせて上げればいいのですから」

美鈴が人の悪い笑みを浮かべて千に耳打ちすると、次第に千の表情もにやついた物になり最後には二人して笑い始めていた。

「美鈴、お前も大概だな」

「フフフ」

「まあ小田原へ行った時が楽しみだ」

「頑張りなさいませ、千代女様」

「ああ」





五月二十九日になり、いよいよ出立の時と成ると、当初の予定と違い、千丸と美鈴だけではなく、流石に上忍の家系であるが故に、お付きとして数人の手練れと侍女と言う事にしている忍びが付くことになりそれらの取り纏めとして甲賀でも手練れの鵜飼孫六が参加することと成った。


更に千丸の親しい遊び仲間数人が見習いとして参加する事になり、その中に瀧孫平次と言う少年が居る事は康秀も知っていたが、その人物が史実で意外な人物に成る事をこの時点では知るよしもなかった。


今回は丹波、出雲に裏切られたらやばい話でした。


千丸=千代女でした。

鵜飼さんは家康が雇うはずの忍者です。

瀧孫平次=中村一氏という話に。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ