第漆拾漆話 新たな同行者
お待たせしました、一段落中なので、UP致します。
今回は新キャラでます。
前回の忍者数が過多であるとのことで、調べた結果修正しました。
3/1、刀の戦いの下りを修正しました。
永禄元年五月後半
■伊賀国
康秀一行が百地屋敷に逗留して一週間が過ぎる頃には、北條家が百地丹波配下の伊賀衆を破格の高給で雇ったと言う話は風の噂や口づてに伊賀全体は元より甲賀まで辿り着いていた。その話しを聞いた藤林長門守配下の伊賀衆や、近江甲賀郡に於いて望月氏を筆頭としている甲賀五十三家と称される甲賀衆もその余りの高給に驚きを隠せなかった。
何と言っても下忍でも、なまじの武士を越える程の給金が与えられる事と、普段であれば依頼主から受け取った金の大半が上納金として上忍や中忍に巻き上げられ、その境遇から逃れように他の所へ行こうとすれば抜け忍として追っ手を差し向けられると言う生活から、一括で雇われれる為に上納金を北條家が用意してくれる事、更には技量に応じて働けば働くだけ給金が増えていくという、夢のような境遇が有る事を教えられた事で、今までは、この地に生まれたと言う事で仕方が無いと、待遇や生活の酷さを我慢してきた者達も目が覚め、次第に各々の権利を主張する様に成っていった。その流れは伊賀だけでは無く甲賀も巻き込んでいった。
そんな状態が続く中で北條家が『甲賀衆も雇いたい』との事で有ると北條家の代理人に就任した百地家から甲賀五十三家の当主達に使者が来ると、甲賀衆の中からも世の中の流れが変わってきたのを感じ始める者達が増えていった。
元々都に近い割りには閉鎖された甲賀郡から下界へ出て天下を見てみたいという風潮が生まれてきていた事から、丁度良い塩梅での北條側からの申し出は、給金や待遇に惹かれた者だけではなく、色々面白い事をしていると噂の流れている坂東を直接見て見たいと言う者の興味を大いに惹いていた。その結果、甲賀衆からも康秀に会いに来る者が出始めたのである。その為、当初の予定では一週間の滞在予定が更に五日ほど伸びる事に成った。
本来であれば甲賀衆は南近江守護である佐々木六角家と緩い状態での従属で有ったが、強制的な家臣というわけでもなく、逆に鈎の陣の様に甲賀衆が幾度となく六角家の危機を救ってきたという状態では、六角家も甲賀衆に強く出る事が出来ず、影響力という点では若干弱いもので有ったので、一部の甲賀衆が他国へ仕えるにしても強く言えない状態で有った。
結果的に、康秀達が直接面接した結果。百地丹波率いる南伊賀衆五百人程と、北伊賀衆ではあるが、藤林長門配下ではない独立していた者達五十人程と、その上、甲賀衆からも二百人程が北條家に仕える事と成り、北條家は戦国大名としては屈指の技量を持つ忍び衆を総計七百五十人程も雇える事と成った、此は氏康、幻庵、康秀も予想だにしなかった数であった。
この雇用で懸かった費用は十万貫程であったが、此は一貫で凡そ二石四斗七升(430kg)の米を買える事を考えれば、十万貫では米二十五万石を買う事が出来るという莫大な金額では有ったが、この時代の先端とも言うべき各種技量を持っている練達の者達である伊賀衆、甲賀衆を雇えるのであるから結果的には非常に安く済んだと考えていたし、康秀にしてみれば『忍者と言えば、グリーンベレーやスペツナズやMI6じゃないか、言ってみればラ○ボーやケ○シー・ライ○バックであり、ジェ○ムス・ボ○ドじゃん、それがこの値段なら安いって』と考えていた。
その為に康秀は氏康からの許可を受けた上で雇用した者達、全てに武士としての身分を与え、此から始まる彼等の労力に対する先払いの労いとした。この措置は忍びと言えば足軽以下でまるで犬畜生の様な酷い待遇を受け、四六時中胡乱な目で見られていた境遇から、北條家に仕えている限りは武士として名誉も誇りも持てる身になる事を意味し、それを知った伊賀衆、甲賀衆の喜びは普通の者達には想像出来ない程であった。
この契約の際に北條家の用意した年俸は下忍ですら十貫から五十貫、中忍、上忍は五百貫まで払われる上に技量や立場により十貫から百貫までの契約金と言える支度金まで出してくれると言う好条件を聞けば、今回、応募してきた以外で既に仕事をしていた、殆どの忍びは現行の契約が終わり手が空くと挙って北條家へと仕える為に百地丹波の元へ来ることと成った。この事が伊賀における百地丹波の地位向上に繋がり、今まで甲賀への窓口に成って居た藤林家の権勢が斜陽と成って行くことに成った。
この様な百地丹波の行いは、藤林長門にしてみれば、忌々しい事この上無かったが、それでも狭い伊賀で北伊賀衆と南伊賀衆が争う訳にも行かず、かといって藤林家が百地家の下風に経つ訳にも行かず悩んでいたが、南伊賀衆の好条件を知った配下の者達が騒ぎ出したことと、甲賀への影響力が日に日に衰えつつ有る現状に藤林長門も座している訳には行かなくなり、康秀達の帰国後一年経たないうちに雇い主の今川家に給金と待遇の向上を願ったが、北條ほどに忍びを重視しておらず、経済的にも余裕がない今川家からはけんもほろろに断られてしまい進退極まった所で、百地丹波よりの使者が共闘を提案してきた。長門にしてみれば最初は突っぱねようとしたが、一族全体や家来からも説得され、あくまで対等との念書を北條氏康から送られた事で手を組むことと成った。
これらのことが結果的には、数年後に有る大名が自らの手足とする為に、伊賀出身の家臣に命じて、家臣旧知の藤林長門を通して甲賀衆二百名を雇おうとした際、大名本人の余りのケチさ加減に一人頭、中忍に米五十俵(二十貫相当)、下忍に米十五俵(六貫相当)という北條家と雲泥の差の金額を提示した事で、給金と待遇面での折り合いが付かずに断念する嵌めになるとはこの時点で予想できる者は居なかった。只一人康秀だけは甲賀衆を二百名も雇うことが出来たと聞いた時に『やば、このままだと狸が雇う筈だった甲賀衆がこっち来たんじゃ無いか、そうすると狸の所には二百名もの数は来なくなるんじゃないか』と心の中で呟いただけであった。
永禄元年五月二十三日
■近江国甲賀郡~伊賀国阿拝郡
甲賀の郷を遙か後に見る峠道を飄々と進む少年らしき人物とお付きなのか少年を必死に引き留めようとしている二十代頃の女の姿が有った。
「千様、宜しいのですか?御屋形様がお探しでございます」
「構わぬ構わぬ、噂の北條の輩を見に行くだけだ」
「そうは言いましても、山賊でも出ましたら危険でございます」
どうやら北條家の噂を聞いた何処ぞの若様が屋敷を抜け出して見に行こうとしているのをお付きの侍女が必死に引き留めようとしているようであるが、若様は完全に行く気満々で有るが、侍女の方は仕方が無しに着いて来ているが事ある毎に帰るように訴えている様であった。
「なに私と美鈴がおれば山賊が出たとて簡単であろう」
「そうは言いましても名張までは遠うございます」
「何の、高々六里(40km)程、散歩には丁度良かろう」
完全に若様は聞く気を持たないようである。
「千様に万が一の事が御座いましたら・・・・・・」
「アハハハ美鈴は心配性よな。親父殿のことだ、既に多くの者を配備しておろうし、私が向かうことすら先方に知らせてあるだろうよ」
「そうは言いましても」
「まあ、良いじゃないか『彼を知り己を知れば百戦して殆うからず』と孫子も言っておろうが。それに美鈴も北條の事は非常に興味があろう」
そう言われた美鈴も確かにと答える。
「そうでございますね。我らの様な者達に破格の身分と待遇を与えるとは、驚愕しておりますが・・・・・・」
美鈴が歯切れの悪い答えに千は答えた。
「目的がハッキリしないと不気味でもあるわけだな」
「はい、それに伊賀衆を丸ごと雇うなど公方様でも為されませんから」
「フフフ、だからこそ、この私が直接会って性根を確かめるわけだ」
「しかし、その様な事は、配下の者に任せれば良かろうと思いますが」
美鈴の指摘に千は頭を振る。
「いや、何でも三田康秀とか言う奴は高々十六ながら公方から鬼丸をせしめたそうじゃないか、それも抜き身で振りかざされてもビクともしなかったとか、そんな奴なら私が直接会わんと面白くないじゃないか」
真面目な話かと思えば、三田康秀成る人物が千の興味を引いたと言う事かと、美鈴は顰めっ面になった。
「美鈴、そんな顔をしていたら眉間に皺が増えて嫁の貰い手が無く成るぞ」
からかわれた美鈴は「誰のせいだと思っているんですか!」とプクッと頬を脹らませる。
この主従は相当に親しい間柄のようである。
そんなこんなで、僅か一日で甲賀から伊賀を駆け抜けた二人は翌日の朝には百地屋敷を眼下に眺める山の尾根に到着していた。この様な場所に忍び込めば百地側から何らかの攻撃を受ける可能性が有るにも関わらず、平気で居られるのは、千が想像した通りに、父親が百地丹波に千が挨拶に行くと使いを出していたからであった。
尾根から百地屋敷を見ていた美鈴が誰かが出てきた事を見つけて報告する。
「千様、屋敷より伊賀衆とは思えぬ者が出て参りました」
そう言われた千は、喰っていた干し肉を囓ったまま屋敷を見始めた。
「ふーん、ほうー、太刀を片手に調練か、年の頃は十六ぐらいか、中々に長身だな」
「そうでございますね。丈が六尺(180cm)近いでしょう。千様とは大違いですね」
そう言われた千は丈が四尺三寸(130cm)程度しか無かった為、それを指摘されてむくれる。
「ふん、丈が幾らでかくたって、役に立たねば駄目だろう」
「はいはい、そうですね」
この様な事は慣れているのか美鈴は宥めるようにしているが顔は笑っていた。
「えーい、こうなれば、勝負を仕掛けてやる」
「千様、いきなりはお止めください」
「大丈夫だ、親父殿が知らせてあるって」
「そんな不確かな事で宜しいのですか」
ガンガン行こうとしている千に対して美鈴は必死に止めようとするが、それを無視して千は山を下りて行ってしまう。
その姿を見ながら、美鈴は今までのような穏和な表情からスーッと眼が細まって、鋭い表情に変わり誰も居ないはずの場所に呟いた。
「千様が模擬戦を行いますので、直ぐに丹波殿へお知らせし粗相の無いように」
その瞬間、木々が動いたかと思うと、数人の忍びが山を駆け下りていった。
その直後に美鈴は元のような穏和な顔に戻ると『千様、待ってくださいー』と言いながら千を追いかけていった。
■伊賀国名張郡百地屋敷
康秀は連日の面談と宴により鈍った体を鍛える為に日課の朝練を行おうと屋敷の裏へ向かい井戸から水を汲んで準備した後で、庭で鎗、刀などを使い練習を始めていた。暫くすると丹波が現れた。
「お早いですな典厩殿」
「丹波殿おはようございます」
普段は姿を現さない丹波が現れたのを疑問に思いながら康秀が挨拶を返す。
其処へ山の方から数本の棒手裏剣が投げ込まれてきた。小太郎達の扱きで練達していた康秀はそれを刀で逸らして身構えるが、手裏剣自体にそれほど勢いが無かった事や、丹波が悠々としている事を見て敵襲でないことを察し投げてきた人物を観察すると相手は背の低い未だ頬の赤い子供であるが、確りと忍び刀を構えながら此方の出方をうかがっている。
「ん?子供?」
康秀が呟くと、相手は顔を真っ赤にして怒り出す。
「子供ではない!私は甲賀上忍望月出雲守が一子千丸なり、三田典厩殿とお見受けする、いざ神妙に勝負致せ」
そう言われて、康秀は“望月と言えば有名な家じゃないか、文句でも言いに来たのか”と思い丹波に聞く。
「丹波殿、何しに来たんでしょうか?」
飄々としながら二人を見て居る丹波は考えるようなふりをしてから答えた。
「甲賀衆を誘惑するお主の実力を見に来たのであろう」
「はぁ」
「いざ勝負せよ」
康秀がやる気を出さないので、千は更に手裏剣を投げるが康秀は躱す。
「典厩殿、相手をしてやれ、ああ見えても十五で甲賀衆でも使い手じゃ」
「はぁ、十五ですか?ちっさ」
余りの背の低さについ呟く康秀。
「ちっさい言うな!!」
それを聞いた千は更に真っ赤になって攻撃してくるが、相変わらず当たらない。
騒ぎを聞きつけた者達が集まり始めると、丹波が宣言した。
「甲賀の望月殿のお子じゃ、典厩殿と試合を為さる」
そう言われた康秀も仕方なしと考え、まずは名乗りを上げる。
「仕方ない、北條左近衞権中将が臣、三田右馬権頭康秀」
「そう来なくっちゃ」
千は非常に嬉しそうである、何と言っても手加減していたとは言え自分が投げる手裏剣を悉く躱しているのだから。
早速勝負しようとしたのであるが、康秀が待ったをかける。
「済まぬが、支度してきて良いかな?」
康秀の言葉に千は『逃げるのか』と言うが、次の言葉で納得する。
「逃げるのでは無く、諸肌状態では動きが悪くなるので着替えてくる」
そう言った康秀は諸肌脱いで上半身裸であった。
「判った、判った。速くしろ」
千も流石に恥ずかしさからか、康秀から目を逸らしながら答えた。
屋敷へ入り暫くすると、康秀が着替えた状態で鉄刀を持って現れた。
それを見て丹波も頷く。
「望月の、殺し会いではないのであるから、刃を潰した此を使うがよい」
千は一瞬考え込んだが、美鈴が頷いたので丹波から刀を受け取り構える。
康秀と千は刀を向け対峙する。
ガンガンという音ととにも鍔迫り合いから大きく飛ぶ千が手裏剣を投げるが康秀は躱す。
その様な状態で投げ続けると、さほど持っていない手裏剣が品切れになるが、瞬間に煙り玉を投げ付け濛々とし視界が悪くなる。その瞬間に接近してクビを狙うが、康秀は腰に吊していた何かを千に叩きつけた。
「ハッハッハクション!!!」
粉を吸ってしまった千がクシャミを始め、動きが鈍ると更にもう一つの玉を顔面に投げつけた。
「いったーたたたた!!目が目が!!!」
煙が晴れると、立っている康秀と、地面で顔を押さえながらのたうち回る千の姿が有った。
「千様!」
見ていた美鈴が慌てて駆け寄り、丁度あった桶に手ぬぐいを湿らせると、顔を拭いていくが、余計に痛がる。
「みっ美鈴ぅぅ痛い痛い焼ける!!!」
痛がる千を見ながら、美鈴が鋭利な目で康秀を睨み付ける。
「おお怖、美人が台無しだ」
「千様に何をしたのですか!事によってはただでは置きません」
そう言われた康秀は、腰に付けた竹筒を持って千に近づくが美鈴が威嚇する。
「それは唐辛子だ、水で洗えば余計痛くなるぞ、油で洗えば大丈夫だ」
美鈴は丹波を見たが丹波が頷いたので、受け取った油で千の顔を拭くと次第に痛みが治まったのか落ち着いてきた。
暫くしてから、千が血行が良くなりすぎて真っ赤になった顔で康秀に詰め寄る。
「やい、真剣勝負にあんなもんを投げるなんて、お前それでも男か!」
そう言われてもという感じで康秀が答える。
「はぁ、お前も甲賀衆なら判るだろうが、この世界は一瞬の気のゆるみが死を呼ぶんだろうが、それぐらい判らないと早死にするぞ」
普段の康秀からは想像出来ない言動ではあるが、千丸がいいかげんな気持ちで突っかかって来たので思わず言ってしまったのである。
その言葉に、息を呑む千。
「ハハハハ、千、お主の負けよ」
何処からともなく聞こえた声に千がたらりと汗をかく。
「ちち父上・・・・・・」
バサッと言う音と共に、屋敷の屋根から筋肉隆々な男が下りてきた。
その姿を見た美鈴は直ぐさま跪くと頭を下げる。
「御屋形様」
「おう、出雲殿久しぶりよの」
「丹波殿、ご無沙汰しておる。この度は家の馬鹿者が迷惑かけた」
出雲は丹波に挨拶しながら子の不作法を詫びる。
「いやいや、典厩殿も良い運動になったであろう?」
いきなり振られた話であるが康秀も答える。
「確かに、良い運動になりました」
「千には灸を据えねば成らんな」
「父上、勘弁を」
出雲の言葉に千が震える。
「まあ、まあ、出雲殿、此方は三田殿よ」
挨拶を忘れていたと丹波が話す。
「おお、そうでしたな。拙者甲賀の望月出雲守頼盛と申す。この度はご迷惑をかけ申し訳ない」
挨拶された康秀も確りとした顔をして応対する。
「丁重なご挨拶忝なく存じます。拙者は三田右馬権頭康秀と申します」
ニヤリと笑い合う二人、以外と気が合ったようである。
「御二人とも、茶でも出しましょうぞ」
それを見ていた丹波が屋敷へ誘う。
「忝ない」
「判りました」
丹波に誘われて二人が屋敷へ向かおうとしている中、気配を消しまくっていた千が逃げようとするが、それに対して出雲が睨み命令する。
「千、暫し其処で反省しておれ」
ゲッと言う顔で有るが、後の事を考えれば留まらざるを得なくなる。
出雲は千に正座させると一緒に来て居た側近に命じて監視をさせたので、逃げ出すことが出来なかった。
屋敷では康秀、丹波、出雲の三人が膝をつき合わせて談判した結果、甲賀忍者二百名が北條配下と成る事が決まった瞬間であった。
その後の雑談の中で出雲はふと思いついたのか、始めからそうするつもりだったのか知らないが、徐に康秀に提案する。
「典厩殿」
「はい」
「典厩殿に御願いがありましてな」
康秀は二百人もの忍者を斡旋してくれた以上は叶えられるなら叶えようと話を聞く。
「なんでしょうか?」
「千の事ですが、あの性格では未だ未だ未熟故に甲賀ではなく坂東で修行させたいと思いましてな。典厩殿の御側へ置いて頂けませぬか?」
あれをかと思う康秀で有ったが、甲賀望月家の子であれば永代的に友好関係を結ぶには良いかと考えたが、此の安易な考えが康秀に取ってはえらい事になるとはこの時点では誰も知るよしもなかった。
「判りました、出雲殿の願いとあればお預かり致しましょう」
「忝ない」
康秀達が外へ出ると、正座させられていた千が涙目で訴えていた。
「親父殿、反省したのでもう良いですよね」
「駄目じゃ」
ガックリする千。
「千、お前は信濃本家の養子とする話が有ったが、此は白紙に致す」
始めて聞いたと言う顔で千が驚く。
「えっ、そんな話聞いた事もないぞ」
「それはそうじゃ、向こうも儂も未だに迷っておったのだからな」
「なんだよそれは」
ふて腐れた表情の千。
「しかし今回の事で、お前には無理だと判ったので、典厩殿の御側に仕えて修行せよ」
「えっ、此奴の所へかよ。冗談きついぜ」
「典厩殿は彼の風魔小太郎殿の弟子でもある。お前の為にも成るわ。それとも甲賀忍者は風魔に負けるとでも言うのか?」
そう言われると負けん気がある為、売り言葉に買い言葉で啖呵を切る。
「おう、そう言われたら我慢できない。おい側仕えしてやるから有り難く思いやがれ」
「未だ反省がたらん様じゃな」
「勘弁してください」
こうして、甲賀望月千丸が康秀の側仕えと成ったのである。
次回が恐らく九鬼水軍との話に成ると思います。
最初の物が胡椒と山椒の粉末で次が唐辛子パウダーでした。