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三田一族の意地を見よ  作者: 三田弾正
第肆章 帰国編
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第漆拾参話 武器改革と農業改革

大変お待たせしました。

現在纏め中で更新が滞り申し訳ございません。



永禄元年(1558)五月一日


■相模國足柄下郡箱根


小田原城から西に十七里(11km)程にある底倉温泉に湯治と称して北條氏康、北條氏照が訪れていた。無論、夏に向かいつつある季節に態々湯治に来たのは、氏康の体調が悪いという訳でもなく、親子水入らずで話す事もあると言う事と称して居たのである。留守状態の小田原には幻庵と綱成が残り関東各地に目を光らせていた。


底倉温泉で湯に浸かりながら、氏康は氏照と話をしていた。

「平三郎、後一月もすればそなたの嫁御も皆と共に小田原へ着く」

「はい」


「この繋がりにより当家と摂家は益々近くなり、家格も安定するであろう」

「宮様下向により更に盤石になるでしょう」

「うむ、しかしな、その様な事も気にせずに攻めてきそうな輩がおるのも真実よ」


氏康の話を聴く氏照の脳裏にはある家が浮かんでいた。

「里見の事にございましょうか?」

息子の答えにまあ及第点かと考えた氏康は答えを言う。


「うむ、里見の節操の無さは類を知らぬからな、実堯、義堯以来、当家は何度謀られた事か、努々あの者達を信じる事は出来ぬ、しかし当家が公方様(古河公方)より関東管領職を受けている以上、形だけとは言え頭を下げてくる者を邪険にする訳にも行かぬのが悩み所よ」


氏康が苦虫を噛み潰したような顔をしながら話すのを聴いて氏照は関東管領職を手に入れて良い事だけではないのだと、つまりは権力を得ればそれだけ苦労も背負い込むのだと考えるようになった。


「お爺様も父上も苦労なさってきたのですね」

「そうよ、あ奴等など早急にでも滅ぼしたいのだが、そう簡単にいかぬわい」

「成るほど、その為にも今回の事でございますか?」


氏照も只単に湯治などへ来るはずが無いと判っており、最近底倉から早川渓谷沿いに桟道が密かに作られその道を通れば僅か二里(1.2km)程度で風魔衆が結界を張り孤児達を訓練している強羅に着くのであるからその関係かと想像していた。


「そうよ、明日は小太郎と共に強羅あそこへ行くことに成る」

強羅あそこでございますな」

阿吽の呼吸で親子は隠語で頷き合う。


翌朝、早々に小太郎が現れると、桟道を四半時(30分)歩き強羅へ着くと風魔屋敷に案内される。

「御本城様、むさ苦しい所にございますがご容赦を」

小太郎が頭を下げるが、氏康はにこやかに応じる。

「なんの小太郎、気にすることは無いぞ、我々は常在戦場の心よ」

「はっ」


挨拶が終わると、早速氏康が首尾を聞き始める。

「さて、小太郎、長四郎の指示した物はどの様な感じか?」

「父上、長四郎の指示とは如何様な事でしょうか?」


「長四郎が、京へ向かう前に幾つかの物の製造を頼んでいったのだ」

「なんと、その様な事を」

氏康の話を聞いて康秀が京へ行く前に多数の開発を指示していた事を氏照も知る事になった。


「そうよ、さて小太郎続けよ」

「はっ、まずは爆雷玉でございますが、長四郎様の手順書を元に種々配合を変えた結果、理想的な配合を見つけることが出来ました」

「そうで有るか」


小太郎が屋敷の裏にある練兵場へ二人を案内する。

「此方にございます」

小太郎が目配せすると、小太郎配下の風魔が三方に載せた二寸程(6cm)と五寸程(15cm)の丸い玉を持ってくる。


「これが、爆雷玉か」

「はっ、取りあえずは試作品でございますが、今の所不発はほぼありません」

「ふむ、では早速見せて貰おう」


氏康の言葉に、小太郎が“やれ”と命じると、風魔が二寸爆雷玉を持って地面へと叩きつける。爆雷玉が地面にぶつかった瞬間、眩い閃光と爆音が上がる。それに氏照が驚くが氏康は冷静に観察していた。煙が収まると地面にある程度の穴が空いていた。


続いて中央の石などを包むための幅広い部分と、その両端の振り回して速い回転速度を得るための細長いひも状の部分からなる投石機に五寸爆雷玉を包みブンブンと廻し続け、速度が乗った状態で片方の紐を手から放すと、爆雷玉は勢いよく的へ向かい直撃と同時に大爆発を起こしす。


氏康も氏照もその威力に感心する。

「うむ、これは見事な物よ。小太郎よこれを戦で使える様に致せ」

「はっ、現在の所は虚仮威し程度にしか使えませんが、長四郎様の手順書にある、鋼、包丁鉄、鉛玉などを効率よく詰めた物も試験しております故、近日中にはお見せできるようになるかと、しかし問題も生じております」


「問題とは何か?」

「はっ爆雷玉は海賊衆が使っているという焙烙玉と違い火薬に金剛砂を混ぜた物でございます故、導火線を使わずに雨の中でも水中でも爆破させることができますが衝撃に弱いために、爆雷玉同士が当たるだけでも爆発することがございます。それに関して何とかしませんと、運ぶ途中で爆発する可能性が高こうございます」


小太郎の説明に唸る氏康。

「うむー、そうか、それは問題があるの、折角雨や水の中でも使える様になっているのであるから、大変とは思うがやはり長四郎に任せねば成らぬか」

「はっ、これ以上はお恥ずかしながら、長四郎様のお知恵をお借りするしか有りません」


「判った、爆雷玉に関しては長四郎に任せるとして、何れ使用することを考え、武田の投石衆に対して我が北條でも投石衆として兵を育てねば成らぬな。小太郎よ乱波に向かぬ者達を爆雷玉を打つ投石衆として育てよ」

「はっ、早急に選別致します」


「爆雷玉は今後の課題として、金剛砂を使った蓋口薬はどの様な状態だ?」

「蓋口薬に関しましては、鉄炮の改良も必要でございました故、やっとお目にかける事が出来る物が完成致しました」


小太郎が再度風魔に指図すると、鉄砲を持った者が現れる。彼は身分を偽って堺にて鉄砲鍛冶の修行をしてきた者であった。


小太郎が間接的に氏康に説明しようとするが、氏康は射手に直接説明するように命じる。

「小太郎、間接的に話すより直言で聴いた方が判るであろう、その者直言を許す」

「御本城様、直言をお許し頂き忝のうございます」


直言を許された風魔が感動し頭を深く下げ挨拶し終わると、氏康に対して真剣に説明を始める。

「まず鉄炮にございますが、三田様の手順書を元に致しまして三田様御考案の松葉型弾き撥條バネを付けました所、火縄が瞬時に落下し飛ぶ鳥なども狙うことが出来る様になりました。今までの鉄炮では火縄がゆっくりと落ちるために動く物などを狙うことが難しゅうございましたが、これにより戦場でも充分に使う事が可能と思われます」


「放ってみよ」

氏康の言葉に鉄炮風魔が鉄炮を的に向けて引き金を引くと今までの鉄炮とは比べものにならない速度で火鋏が落下し、鉄炮から轟音と共に弾が発射された。

「見事な早さだ、これならば戦場でも活躍は出来る。流石は長四郎の考えと言えよう。しかしそれを形にしたそなたの功績も大きい、ようやった」

「御意」

賞められた風魔が喜色の色を見せる。


「今回の件、それだけではあるまい」

「御意、続きましては、鉄炮の火縄に代わりまして蓋口薬にて発火させるために、弾き撥條に繋ぐ火鋏に代わりまして撃鉄なる物をはめ込みました。これは鳥の頭のような形をしておりまして、嘴側を手前に、火皿側に頭部を向けてあります。そして多少大きくした火皿に蓋口薬を置き撃鉄を起こします」


そう言って発射準備を終えた男が庭におかれた的へ向かって射撃姿勢を取る。

「放ってみよ」

氏康の声に応じて射手が引き金を引くと、松葉弾き撥條が勢いよく弾け撃鉄が火皿内の蓋口薬に落下すると“バン”という音と共に弾丸が発射され的に見事に命中する。


氏康がその瞬発性は火縄と同じだが、火縄のように発火の瞬間に周り一面に火の粉を飛ばしまくり、近くの鉄炮火薬が誘爆する事が多々有ったため、鉄炮は離して使わねば成らなかったのであるが、実験で至近に置いた剥き出しの火薬に火が付くこともなく、蓋火薬はその様な事が無い事を実感する事に成った。


「見事な事だ、これならば、鉄炮を密集して使う事も出来る。更に早合や弾薬莢を使えば発射速度も更に速くできよう」

「御意、今のところ早合は完成の域にありますが、弾薬莢は炮口が放てば放つほどに次第に火薬滓がこびり付くため、同じ太さの弾薬莢を込めることが難しくなっていきます。対策としては、幾つか放つたびに弾薬莢を少しずつ小さくしていくか、清掃を幾度となくするしか有りません」


「うむ、今のところはそれも保留という訳だな」

「御意」


鉄炮鍛冶風魔がすまなそうに頭を下げる。

「よい、此だけの事を出来た時点でそなたが非凡である証拠、小太郎、この者に家禄百貫を与える故、この者を中心として鉄炮鍛冶を育てるのだ。無論雑賀衆の鉄炮鍛冶が来た際には雑賀衆の技を教わることも致せ。松葉型弾き撥條や蓋口薬が外に漏れぬようにする為だ」


「御意にございます。風魔結界にて他國へ漏れぬように致しましょう」

「御意、必ずや技を手に入れてみせます」

「期待しておるぞ」

「「御意」」


こうして鉄炮鍛冶が退去すると、続いて違う人物が呼ばれた。

「御本城様、龍勢ロケットの匠にございます」

小太郎に紹介された男が頭を下げる。


今回も直言を許す氏康。

「御本城様、三田様直伝の龍勢でございますが、梅雨時に製造せねば成らぬのが悩みの種と言えます」

「やはり水気が無いと危険か」

「はっ、煙硝は少しの事で爆発する為、乾燥した時期には最低でも焼酎で湿らせながら行うしか有りませんが、その塩梅が非常に難しゅうございます」


「で首尾は?」

「はっ、既に幾度となく放っておりますが、真っ直ぐ飛ばすには竹などで長い尾を付けねばなりません」

発射台に添え付けられた龍勢には直径三寸(9cm)長さ五間(9m)程の真竹製の尾が付けられていた。

「なるほど、長いの、あれではとても携帯は出来ぬ訳だな」


「御意、今のところは、あの様に発射台に添え付けて放つしかございません」

「長四郎が、指摘した金属筒から放つ方法はやはり駄目か」

氏康の質問にばつが悪そうな顔になる龍勢職人。


「金属筒自体は黄銅で作れましたが、龍勢自体が放たれた後で、姿勢がフラフラし思った通りの場所へは到達致しません。しかも放つたびに軌道が変わりますので、修正すら出来ぬ状態です」

「うむ、やはりこれも長四郎頼みか」


「父上、長四郎は帰って来ても苦労致すようですな」

ずっと黙って聞いていた氏照が心底気の毒そうに話したのが印象に残った強羅行きであった。





永禄元年(1558)五月四日


■相模國足柄下郡 酒勾郷


強羅から帰った氏康は数日後に康秀の所領酒勾郷に幻庵、妙姫と共に訪れていた。

「御本城様、久野様、お方様、よくお越しくださいました」

三人に留守居役の野口刑部少輔秀政が挨拶する。


「刑部、留守居御苦労」

「刑部、御苦労な事じゃな」

「刑部、何時も御苦労様です」


それぞれからの労いに刑部は頭を下げる。

「ありがたき幸せでございます」


挨拶の後、早速刑部は康秀が残して行った指導書を元に実験していた事案の説明をする。

「御本城様、まずは、牛糞、馬糞、鶏糞でございますが、指導書通りに発酵させ、田畑に鋤込んだ結果、何もしない田畑に比べ作物も大きく成り収穫量も大いに増えました」


「うむ、それは良きことだ」

「御意、更に稲刈り後に田に生やしたレンゲ草を春に鋤込んだ田でも鋤込んでいない田に比べ収穫量も増えましたが、そうなりますと麦の裏作が出来ないという弊害もございます」

「成るほど、レンゲ草は食べることは出来ぬからな」


「そうじゃな。幾らレンゲ草が良いと言っても裏作が出来ないのでは流行らぬの」

幻庵の言う通りに農民はその日の糧のために態々食べられない物を作る訳がなかった。

「その辺を、何とかせねばならぬな」


氏康と幻庵が頷いた後、次の話がはじまる。

「御本城様、浮き草の件でございますが、予想以上に素晴らしい物でございました」

「ほう、それほどか?」


「長四郎様の指導書通りに池に浮き草を育てましたが、驚くべき早さで池一杯になりました。それを乾燥させ裁断した物を牛馬鶏に与えた結果、大豆を与えている物と何ら変わらない育ち具合でございました。更に同じ面積と時間で大豆の六倍もの浮き草が取れました。その為に六倍とは言えませんが、三倍ほどの牛馬鶏新たに育てることが出来ました」


「成るほど、そうなれば、大豆を味噌醤油納豆などに加工する量を増やすことが出来るな」

「御意、味噌醤油納豆なども増産しております」

「それは楽しみじゃな」

幻庵がにこやかに話す。


続いても肥料の話で有った。

「硫加(硫酸カリウム)の方でございますが、蒔いた田畑の作物は今までと比べて更に成長が良くなり実りも遙かに良くなっております」

「それは楽しみだ、硫加であれば幾らでも掘り出すことが出来る」


「骨粉の状態ですが、此方も収穫量の増大が認められます」

「うむうむ、それは重畳」


康秀が提案し仕様を残して行った肥料の数々が思った以上の成果を上げている事に氏康も嬉しそうな顔をする。

「色々して見ましたが、肥料はそれぞれに得手不得手があるようですので、長四郎様の御帰國後には肥料同士を混ぜるなどをする予定と成っております」


「うむ、長四郎には此処でも苦労をかけるが妙よすまぬな」

氏康の言葉に妙は応える。

「長四郎様も御大変ですが、私や祐さんで盛り立てる所存にございます」


結局の所、帰國しても過労が決まっている康秀であった。


爆雷玉は癇癪玉ですね。あれは黒色火薬に金剛砂混ぜた物ですから、蓋口薬はキャップ火薬或いは紙火薬ですね。これで火縄からおさらばできるのです。けど製造方法は秘密にして、風魔だけが供給できるようにする訳です。


鉄炮の弾きバネが付いたのは本能寺の変後だという話もありますので、北條家の発明と成るかと、龍勢はロケット花火のでかい奴です。康秀の魔改造品はロケットランチャーですね。けどジャイロ効果が難しいので中々完成しないんですよね。


化学肥料が遂に開発。西伊豆黄金崎で取れる明礬を加熱すれば、熱分解して硫酸カリュウムと酸化アルミニュームになるんですよね。酸化アルミニュームは耐熱材の材料になるので耐火煉瓦作りに使われます。河津に耐火煉瓦の材料の粘土が取れますので、実験炉ぐらいは出来ているかもしれないんですよ。

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