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三田一族の意地を見よ  作者: 三田弾正
第参章 京都編
66/140

第睦拾睦話  康秀の異能

お待たせしました。

大間違いしてました。沼田祐光じゃなく白井胤治でした。沼田は未だ細川藤孝の家臣でした。済みません。


本来なら六十三話の後に入る話です。ある程度来たら此を六十四話にして、順次話数を繰り下げます。


現代キリスト教を攻撃しているわけではありませんが、あの時代の考え方として、書いていますが、御不快な方はお読みにならない方が良いと思います。

永禄元年三月八日


■京 九條邸


「全く、長四郎の突拍子も無い考えは何処から出てくるのか、頭の中を見てみたい気がするよ」

氏政がついつい話す。

其処へ、突然襖が開き、先ほど聞いたばかりの声が聞こえてくる。


「典厩の知謀は何処からの物なのか?朕も知りたい物よ」

驚きながら襖を見ると、二条晴良が案内する形で、先ほど拝謁した方仁帝みちひとてい伏見宮邦輔親王ふしみのみや くにすけしんのう柳葉宮恭仁親王やなぎばのみや うやひとしんおうを引き連れていた。


慌てて平伏する氏堯、氏政、康秀。

「よい、皆今は忍びじゃ、典厩直言を許す」

「主上も仰っておられる、典厩説明致せ」


恭仁親王が康秀の説明するように命じる。

いきなりであったが、康秀にしてみれば、未来知識ですとか実は転生者ですとか言えない訳で、帝に拝謁すると決まってから万が一聞かれたらと散々考え抜いた末に作成しながらも使わなかった言い訳を答える。


「御意、臣は幼き頃より、良く夢を見ました。其処には本邦の先駆者達が臣に口々に喋りかけてくるのでございます。幼き頃は何やら判りませんでしたが。六歳の頃夢枕に恭しい方が現れこう言ったのでございます。予は水無瀬じゃ、“そなたに我が知識を授けよう。明日城下の市に来よ”


それを信じ翌朝城下の市に行くと、夢枕に立った御方が臣に見えたのでございますが、他の者には見えないらしく、誰も騒ぎもしません。そして御方は臣に手招きをするのでございます。そこで付いていくと社の方へ向かうのでございます。そして社に着くと突然一変の風が吹き終わるとその御方の姿はなく、代わりに神木の下に一人の僧が寝ておりました。


臣は驚きながら、僧の起きるのを待っておりました。四半時(30分)ほどで僧は目を覚まし臣を見ると語りはじめました。


“拙僧は沢庵と言う旅の者じゃ、ある日夢枕に水無瀬と仰る高貴な方が立って“勝沼へ行け、そして小童へこの知識を授けよ”と言われて目を覚ませば、今まで知らなかった多くの事と、多数の書籍を抱え込んでおった。此こそ神仏が拙僧に命じた性で有ろうと感じここへ来た途端、眠気に襲われてな其処でそなたが来ると水無瀬殿から教わったのじゃ、これも神仏の巡り合わせ、拙僧の知識の全てをそなたに授けよう”と言われたのでございます。


この様に暫く社に滞在した沢庵殿により知識と書籍を譲り受けたのでございます。それからというもの、時折夢の中に水無瀬様が現れては、教えを受けたのでございます。あるとき、水無瀬様に何故臣がと聞きました所、“相馬小次郎が知識を授けるならば、そなたが良いと言ったのでな”と仰ったのでございます」


康秀の話をジーッと聞いていた多くの者も一切茶々など入れることなく感じ入っている。現代でこんな事を言えば“厨二病なのか”とか“精神病院へ行け”と言われかねないが、この時代は未だ未だ迷信が大手を振って信じられていたが故に、整合性があり納得できる話で有った為、皆が信じてしまったのである。



「水無瀬様と言えば……」

「後鳥羽院の事ですな」

「なるほど、後鳥羽院は日の本の事をお考えであった」


「後鳥羽院の思し召しならば、典厩の言葉は真で有ろう」

余りの納得加減に、康秀自身が“エッ良いの?”と考えていたが、此処まで来たらやるしかないと腹を括る。


「さて典厩、宮から聞いたが、南蛮人の所業、真で有ろうや」

「はっ、柳葉宮様にお伝えしたように、南蛮人が日の本の民を奴隷として連れ出している事は真にございます。また彼等は他の國でも同じ様な事を行い、自らの野望のために、世界征服を企み動いている所存にございます」


康秀の話に主上を含めた皆が息を呑む。

「南蛮人は何故、そのような無体な事が出来るのか?」

「はっ、神より選ばれた民であるからと称しております」


「その神の教えとは如何なる物じゃ?」

「彼等の教えは、神とは唯一絶対な存在で有り、その他の神の存在を許しません」

「本朝の様な考えと違うという訳じゃな」


「はっ、彼等は今より千五百年ほど前にイエスという人物が創作した教えを信じ、他の教えを悉く悪魔の教えと称して弾圧してきております」

「独善的と言える訳じゃな」


「はっ、彼の教えは、南蛮人こそ神より選ばれた民であり、それ以外の民は全て奴隷にして良いと羅馬ローマ法王から許可を受けておりそれを大義名分にし他の民を征服し支配してきております」

「何たる傲慢何たる奢りよ」


康秀の話に主上も憤慨している。


「遠き東海の彼方に有る國は、南蛮人の王からの使節を名乗る者が皇帝との対談中に懐に隠した武器により皇帝を人質として拉致監禁し、國中の財宝を全て奪い取った上に、皇帝を神の名において異端者として弑逆し、全ての民を奴隷化したのでございます」


康秀の話に、一度聞いた事のある者達すら息を呑む。

「南蛮人とはその様な危険な者達なのか?」

「全ての南蛮人がそうではございませんが、神の名において全てが許されるなど考える輩が多いのも事実にございます」


「主上、此は本朝の危機と言えましょうぞ、南蛮人の良いようにしては、成らぬかと」

稙通が心配顔で主上に上申する。

「典厩、そなたは、どう致したらよいと思うか、思う所を述べてみよ」


「はっ、西國で奴隷狩りをしてる南蛮人を撲滅することは難しいかと、各地の大名共が南蛮の品々を手に入れる為に自ら民を売り払っております故」

「典厩、勅でそれを止めることは出来ぬか?」


「恐れ多き事なれど、彼の者達は、既に深くキリストの教えに浸かっております。彼の者達には主こそ主君でございますれば、例え勅命であろうとも無視するかと」

「典厩!」


流石に、この話は危険だと思った稙通が話を止めようとするが、主上が遮る。

「太閤、良い、朕が思う所を述べてみよと言っているのじゃ、典厩続けよ」

「はっ、あの者達の考えを変えるには、南蛮人の所業を諸國へ広め容易に騙されぬように仏教界の協力を得ることも必要かと愚考致します」


「なるほど、多くの者は、彼の教えは南蛮より来た仏教の一派と考えておりますからな」

恭仁親王が康秀の話に肉付けをしながら話す。

「うむ、宮と典厩の言やよし。些か問題はあろうが、叡山にも協力させようぞ、霜台には石山へ伝えよ」

「「御意」」


主上が言った以上、決まりである。この会談の後、康秀の纏めた南蛮人とキリスト教の悪行が各地の大小名へ征東大将軍恭仁親王名で出された。此は主上への過度の恨みなどを起こさせないために、恭仁親王自身が名乗り出た物であった。


康秀が監修し恭仁親王名で出された反耶蘇檄文は、帝の弟宮からである故に、勅命より軽く見られた事は確かで有るが、本願寺、比叡山、高野山などキリスト教を胡散臭く見てきた仏教界からは諸手を挙げて支持された。


そして高野聖などにより全國津々浦々へ届けられ宗派を問わず仏僧の説法などに流用されて行った。このため史実に比べて僅かであるが京洛や堺などでのイエズス会の活動は低下していく事に成る。その為、檄文を出した恭仁親王は宣教師により“大悪魔”と罵られることになる。


これらの影響により、堺では本来の歴史でキリシタンに成るはずであった、薬種問屋丹波屋の小西隆佐が入信せず、その息子行長も仏教徒として生涯を終えることになるが、此は遠い未来の話で有る。


この様な、反キリスト教運動も、この年足利義輝が帰洛し、三好及北條側への反発からキリスト教の布教許可を出した為に混乱し、その扱いを巡って、主上と公方は激しく対立することになる。しかし奢り固まった義輝は主上の不快感を無視し続けた。


更に西國では大友義鎮おおとも よししげ大友宗麟おおとも そうりん)や大村純忠おおむら すみただ達のように、後々になってもキリスト教の教えに妄信し神社仏閣を破壊し僧侶の虐殺をし民の強制改宗を行っていく。


そして、イエズス会へ領土の寄進(長崎)を行い、物資や珍しい品々を手に入れる為に日本人をポルトガル商人へ奴隷として売り飛ばす行為を行い続ける者は多数残ることになる。


さらに、九州の大小名共は、火薬一樽につき五十人の若い娘を宣教師と結託したポルトガル商人に売り払った。彼女たちは奴隷として澳門から世界各地へ売られていった。





永禄元年三月十一日


■京 池邸


北條家がいよいよ帰國する時期になった為、北條家一行が逗留している池邸に三好家一行を招待し会席が行われた。三好家、北條家共に意見の相違などがないために、ごく普通に会席が行われた。


その様な中で、会席の膳の奇抜さに三好家一行も目を見張っていた。特に精によいと言われた料理を事細かに気にしながら食べる松永久秀が印象的であり、その後に、どれが精に良い食材かと態々康秀に手紙を送って来て教えを請う程になった。


翌日、忍びだと言いながら、三好義賢が白井胤治しらい たねはるを連れ、茶を点てるためと称して茶室を借りにふらっと現れた。亭主として義賢が、客として氏堯、氏政、康秀、胤治が点てられた茶を頂く。茶を頂きながら、ごく普通な話を行う。


「霜台殿、昨日は真に忝なく」

「なんの」

その様な中、徐に胤治が氏堯に話しはじめた。


「霜台様、典厩殿は色々と人の事が判るそうですが、典厩殿が見られた御屋形様の症状をお教え頂きたいのですが」

「霜台殿、典厩殿、儂からも御願いしたい」

胤治に次いで、義賢も頼む。


「素人に毛が生えた程度で、さほど参考にならぬと思いますが」

一応康秀が断りを入れるが、氏堯が良いとばかりに話す。


「そなたの見立てで修理殿は如何であった?」

氏堯にそう言われた以上は答えないわけにはいかずに話しはじめる。


「修理様(三好長慶)は気の病気味でございます」

「やはりの」

「見るに、修理様は細かいことまで気になり、過ぎてしまったことも後悔なさる気質に見えます。それ故に必要以上に気を使ってしまい気が滅入るのでしょう」


「うむー、考えられることよ」

「このままでは、気の病で体まで弱ってしまいましょう」

「対策はあるかの?」


「出来れば、政務に就かせぬ事でしょうが」

「そうも行かぬな」

「では、食事で何とかするしかありません」


「食事でか」

「はい」

「どの様な物を?」


「どじょう、豆味噌、鰹節、蛸、烏賊、アワビ、胡麻、大蒜、牛蒡、大根などが気の病や体力増強に良い食材です」

「成るほど、早速兄者に勧めるとしよう」


義賢はウンウンと頷きながら懐紙に記帳していく。

氏堯、氏政、胤治は話を邪魔しないように、ただ聞いているだけである。


「所で、儂はどうじゃな?」

書き終えた所で、義賢が質問してくる。

「物外軒殿(義賢)に於いては、体調には何ら心配する所はございませんが、少々気になることがございます」


「ほうそれは?」

「今より五年後に石山より辰巳の方向にて危機が訪れると出ておりますので、努々お忘れ無きように」

康秀の話に、義賢は不機嫌さを見せずに、真剣に聞く。


「うむ、気を付けてみようぞ、他には無いかの?」

「孫次郎殿(三好義興)には、酒毒の卦が出ておりますので、酒をお控え為されますように。また左衛門督殿(十河一存)には、瘡(梅毒)の卦が見えます。お気を付けるとでございます」

「其処まで判るとは、典厩殿は、医術も使えるとはの」


康秀としても自分の力を見せる事になってしまうが、三好政権の長期化で織田信長の増長を止めるための策として行っている。


「小田原で習いました故、門前の小僧習わぬ経を読むと言う訳でございます」

「ははは、謙遜なさるな、孫次郎の酒好きには兄者も困っているのじゃからな」

「酒毒にございますが、軽い内ならば、鬱金で緩和できますが、重い場合は鬱金では効きません故、最低でも禁酒が肝要ですな」


ふむふむと、義賢は書き続ける。

「典厩殿、大変参考になった。所で弾正をどう見なさったかな?」

義賢は康秀に先ほど会った松永久秀の事を聞く。


「弾正殿は、曹孟徳の気質を持っておられますな」

「ほう、それは?」


「治世の能臣、乱世の奸雄ですな」

胤治が呟く。


「なるほどの」

「弾正殿は、何かにつけて、悪し様に言われますが、確りとした主君さえいれば、能臣として働くでありましょう」


「成るほどの、兄者の心次第と言う訳じゃな」

「そうなりましょう」


義賢は康秀の話に納得したのか、徐に腰の物を外すと渡してくる。

「此は、儂が使っている、光忠じゃが、儂より若いそなたの方が良く使えよう」

いきなりの話しに康秀も驚く。


「物外軒殿、拙者には過ぎたる物でございます」

「いやいや、帝より鎗を下賜される典厩殿よ、儂の腰刀を是非さして欲しいものよ」

笑いながら、義賢は渡してくる。この刀こそ、永禄五年久米田の戦いで義賢戦死時の愛刀であり、織田信長が草の根分けて探し出した名刀であった。


「長四郎、頂いておけ」

氏堯の言葉で、康秀も押し頂く。

「ははは、重畳重畳、典厩殿には末永く、教えて欲しいものよ」


そう言いながら、義賢は帰って行った。重そうに胤治が諸道具を背負っていったのがお忍びと言えなかったが。


将軍が正親町天皇からのキリスト教を禁止し宣教師を洛外追放にせよとの命令を無視したのは事実です。その直後に義輝は三好勢により殺害されてます。もしかして朝廷から何らかのアクションがあったかも?


相馬小次郎(平将門)の話をしてもスルー状態なほど、驚きに包まれています。

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