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三田一族の意地を見よ  作者: 三田弾正
第参章 京都編
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第睦拾肆話 腹黒妙ちゃん

お待たせしました。

リクエストに応えて、久々に妙ちゃんの登場ですけど、無いようにガッカリしないでくださいね。


一応この話の前に帝ともっと突っ込んだ話をする真六十四話を製作していたのですが、先にこの話が出来たので変更しました。真六十四話は六十五話に致しますので、時間が若干前後しますがご了承ください。


謙信フアンの方、あくまで私の私感で書いてますので、その辺はご了承ください。

永禄元年三月二十五日


■相模國南足柄郡小田原


小田原城下に梅が咲き乱れる中、城内の三田康秀屋敷では、氏康夫人の瑞姫たまひめ、氏政夫人で武田信玄長女の梅姫うめひめ、康成夫人で氏康次女の麻姫まあひめ、四女で水面下で武蔵國むさしのくに岩付城主いわつきじょうしゅ太田おおた美濃守みののかみ資正すけまさ嫡男の資房すけふさと婚姻の話が出ている林姫きみひめ、五女で古河公方こがくぼう足利あしかが義氏よしうじと婚約している光姫あきひめ、大道寺政繁夫人の勝姫かつひめ達が集まっていた。


屋敷の大広間には康秀から送られて来た京で流行りはじめている物や馬揃えで披露された物などが所狭しと置かれていた。


「皆様、今日はお日柄も良く、夫三田長四郎康秀が考案し、帝へ御照覧致しました料理の数々をお楽しみください」

康秀夫人妙姫がにこやかに挨拶しながら料理の数々を勧める。


「まずは、“ゆば刺身と生ウニそしてゆばどうふ”でございます」

出された器も青磁の綺麗な物で皆が目を見張りながら、上品に食べながらも美味しさが顔に出る。


「続いて、お好み焼き、タコ焼き、大判焼きなどの焼き物です」

次ぎ次ぎに料理が振る舞われる。

「寒天の梅酒漬けです」

皆、透明で斬新な食感の今で言うゼリーのような物に舌鼓をうつ。


「花梨、梅、蜜柑、柚子、木天蓼、通草などなどを漬けた果実酒です」


酒が入るとめいめいに自分の夫や家族の話をし始める。

「長四郎殿は、“もう懲りた”とお言いになって若い身空を側女も置かずに居るそうですから」

「新九郎様は、梅様が恋しくて側女を置いていないそうですけどね」

「ある意味、長順殿のお相手が見つからないと幻庵殿が嘆いていましたけどね」


そんな中、康秀が南蛮人の服装から閃いて改良したという給仕服を着た侍女が現れ盛り上がる。何と言っても、ゴシックロリータタイプ服、英国メイド服、A○B風服などなど多数が送られて来たのであるから、此は斬新すぎて驚きの連続になった。


この宴に参加した梅姫の乳母は早速、御屋形である武田晴信の元へ、逐次連絡をいれたのであるが、余りの斬新さに“三田康秀は意味不明であり、料理にて帝に取り入った。変な服を作る。商人のように金儲けをする”などと更に変な噂が流れる事になり、晴信にして見れば興味のない人物に映る事になる。


逆に殆どの手柄を氏堯、氏政に被せたために、必要以上に二者が警戒されるようになっていく。





皆が満足して帰った後、妙姫と祐姫が二人だけで祝杯を上げていた。

「プファー、いやまさか妙があれほどの腹芸が出来るとは思わなかったよ」

祐が盃を空けながらしみじみと妙を見ながら関心した風に喋る。


「フフフ、こう見えても北條左近衞権中将の娘であり宗瑞公(北條早雲)の曾孫ですよ、それに幻庵老の薫陶も受けてますからね」

口元を扇で隠しながら普段のオットリした妙と段違いの鋭い目をしながら答える。


この姿を何度か見ている祐も溜息を吐きながら流石だと納得する。

「妙はたいした者だねさ、私じゃ直情過ぎて其処まで演技する事なんぞ無理だからね」

祐の言葉を賞め言葉と感じたのか、妙はニコリと笑う。


「うふふふ、梅姉様の周りは武田の間者だらけですからね、あの乳母とて怪しいものですよ」

「それでも、母親や妹たちまで騙すのはやり過ぎなんじゃないかい?」

祐の質問に妙は扇をパチンと畳んでクルクルと回しはじめる。


「うふふ、孫九郎殿(北條康成)に嫁いだ姉様はいざ知らず、母は今川の出ですから侍女に間諜が居る可能性が高いです。それに妹は太田資房と古河公方に嫁ぐのですよ、必要以上に長四郎様の正確な情報が四散するのは避けるべきですからね」

「まあ、確かにそうだけどね」


「それに武田晴信殿は誠意という言葉を母親の腹の中に忘れてきた御方、長四郎様の非凡さが知れ渡れば、何かしらの動きを見せてくるでしょう」

「拉致か、誘惑か、暗殺かって所か」


「ええ、恐らくは、父(氏康)も大叔父(幻庵)も叔父(綱成)もその事を危惧しているのですよ、先だって、長四郎様から父に、武田晴信が信濃伊奈郡代しなの いなぐんだい秋山あきやま膳右衛門尉ぜんえもん秋山虎繁あきやま とらしげ、軍記物だと信友)を介して織田信長と音信していると言う緊急の文がありまして、風魔に調べさせたましたけど、紛れもない事実でしたからね」


真剣な表情で秘密を平気で話してくれる程、信頼があるのかと祐は感動していた。

「いいのか、俺も井伊の娘だぞ」

妙は祐にニコリとしながら言う。


「ええ、長四郎様の妻である限りは祐姉さんは味方ですからね」

「判った、俺も次郎法師と呼ばれた漢女おとこだ、石にかじりついても長四郎とは別れんぞ」

「ええ、そうですよ」


「しかし、織田と言えば今川の宿敵だ、それを知りながら音信するとは、喧嘩売ってるとしか思えんぞ」

「今川は那古野城を盗られたのですものね。この事を知ったら治部大夫殿(今川義元)は怒るでしょうし、お婆様(寿桂尼じゅけいに)が怒髪天を衝く事請け合いですね」


そう話す妙の顔は笑っているように見えるが、目が完全に笑っていない。


「まあ確かに、そうなると伊那口を止める形のうち(井伊家)が凄い迷惑なんだけどな」

「ええ、其処で今の時点で、武田と織田の繋がりを知らせて、三国間の同盟に罅を入れるより、来年早々に治部大夫殿が織田攻めをするまでは、隠しておこうと決まりましたから」


「なるほど、織田が潰れたあとで、武田を強請るネタにするわけだ」

「ええ、散々人を騙しまくるあの男にはいい気味だと思いますよ」

「怖いな、家のような所じゃ考えつかないや」


「うふふふ、父上、幻庵老にして見られれば、長四郎様が色々考えてくれるから楽しくて堪らないそうですよ」

「確かに、俺も長四郎には何か感じる事が有ったからこそ、子まで出来たわけだからな」


「ええ、けど紗代姫は私の子でもありますからね」

「そうだな、紗代は幸せだな」

「ええ、良い夫に良い母、そして良き家族ですからね」


「長四郎も4月末には帰国かな」

「そうですね、出来るだけ早く帰ってきて欲しいですね」

「そうだな」


しみじみ二人で話しながら、ふと妙が思い出したかのように話し出す。

「そう言えば、長四郎様の案で、関東管領に色々して里見と長尾との間に不信感を仕込んでいるそうですよ」

「怖い事だな」


「怖い事ですけど、私達が長四郎様を支えて上げなければ、なりませんからね」

「ああ、長四郎だけに背負わすわけには行かないからな」


ガッシリと手を組む二人の嫁であった。

「長四郎様を盛り立てる為に、一人はみんなのために!」

「「みんなは一人のために!」」


ある意味、長四郎が生前の記憶を元に書いて市井で売られている小説に毒されている二人であった。








永禄元年三月某日


越後国えちごのくに頸城郡くびきぐん春日山城かすがやまじょう


越後では守護代であるが実質的守護と言える状態の長尾景虎ながお かげとらが、京都雑掌(室町幕府時代の守護大名などが、京都に赴任させた外交官的存在)である神余かなまり隼人佑はやとのすけ親綱ちかつなから上洛後の北條の動きについて連絡が来たが、その内容に苛ついていた。


「ええい、伊勢の輩、公方様を蔑ろにして、帝に拝謁するとは何たる不敬、何たる傲慢!」

景虎が手紙を引き裂くように力を入れて額に青筋を立てた。


「御屋形様、起きてしまった事を何時までも悔やんでも仕方が有りますまい」

宿老の直江神五郎景綱が景虎を宥める。


「神五郎、それだけではないぞ奴等は事も有ろうに帝を誑かし、征東大将軍なる物をでっち上げたのじゃぞ!此ほど公方様を馬鹿にした行為があるか!」

「しかし、曲がりなりにも帝がお認めになった官位でございますれば」


「フン、隼人佑が関白様よりお聞きした事に依れば、今回の件は関白位を争っている九條が伊勢の輩と共謀して恐れ多くも帝を騙し奉って勅許を出させたそうだ」


景虎が手紙を渡す。

「なるほど、それらならば、公方様をお助けし、太閤殿と伊勢の企みを潰すが肝要でございます。御屋形様、暫し我慢為されませ」


「神五郎、そうは言うても、偽勅は元より、國主の家系でもなく、他國の兇徒たる伊勢風情が、左近衛権中将、相模守、伊豆守、武蔵守じゃぞ、それに山内上杉家代々の弾正少弼を氏康の弟如きが手に入れるなども、許せるわけが無かろう!」


益々苛つく景虎、酒の飲み過ぎか、肴に梅干しばかり食っているので塩分の取りすぎで血圧が高くなっている為なのか元々の性格なのか、はたまた、北條の嫌がらせ的な京都での行動が勘に触るのか、この所、頓に怒りっぽくなっていた。


「公方様さえ帰洛あそばせば、先方の企みなど幾らでも打破できましょう」

景綱が落ち着かせるように宥める。

「そうか、そうじゃな、儂が関東管領職を継ぎ、公方様が一声お掛けになれば、今は時勢で伊勢の輩などに頭を下げている、関東諸将も雪崩を打って予の旗下に参じようぞ」


やっと機嫌が良くなって来た景虎をみて景綱はホッとしていた。

「真に、そうなりますな」


「そうじゃ、管領(上杉憲政うえすぎ のりまさ)はどうしている?」

景虎はいきなり話題を変える。この辺も長い付き合いの主従であれば直ぐさま頭を切り換えて答える。

「管領様なれば、御舘にて無聊を嘆いておられるとか」


「フン、態々高い金までかけて飼っているのだから、信濃守(上野國こうずけくに箕輪城主みのわじょうしゅ長野業正ながの なりまさ、この頃は上杉を見限って独自の勢力圏を築こうと画策していた)や下総守(武蔵國むさしのくに忍城主おしじょうしゅ成田長泰なりた ながやす、北條家に臣従していた)等旧臣共に、内応の文でも出せば良いものを」


「御屋形様、それは酷というものでございましょう、それほどの人望があれば、態々越後まで逃げてくる事は有りますまい」

「ハハハハ、それもそうじゃな」


「所で、この所越後に他國の間者が入り込んでいると言うが真か?」

景虎が長尾家の暗部を預かる景綱に念押しで聞く。

「御屋形様、手の者からでございますが、管領様に接触を図ろうとしているとの事でございます」


「うむ、管領に接触とは、伊勢の輩め何を企んで居るのだ」

「管領様が他者と会うときには播磨守(大石綱元おおいし つなもと)左衛門五郎(倉賀野尚行くらがの なおゆき、両名とも上杉憲政家臣であるが、早い内から見限って長尾景虎に内応して憲政の行動を逐一報告していた)が付いておりますから話は筒抜けにございます」

「そうか、それで最近の話は?」


「頻りに関東を懐かしがっている様で、上野からくる行商人を呼んでは、関東の話を聞いているとの事」

「フン、年寄りが望郷の念に囚われはじめたか、又ぞろ“関東へ出陣せよ”と叫んで五月蠅くなるの」


「その行商人共は間者では無いのだな?」

「播磨守、左衛門五郎だけではなく草にも調べさせましたが、単なる行商人でございますな」

「ふむ、ならば良いわ、儂としては早々にでも、上洛し公方様より関東管領就任の許可を受けねばならぬのに、三好の輩のせいで、公方様は未だに朽木谷よ、六角殿(六角義賢ろっかく よしかた)も大概だらしがないの」


「仕方が有りますまい。三好は畿内を押さえております。それに六角殿だけでは如何とも出来ぬでしょう」

「うむ、やはり儂が行かねば成らぬか」

そう言いながら盃で梅干し片手に酒をチビチビと飲む景虎であった。

覚えていないかも知れませんが、妙のモデルは、恋姫の風ですから、腹黒ですよ。


祐さんは、五十%ぐらい大人しくなった雪蓮かな?

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