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三田一族の意地を見よ  作者: 三田弾正
第参章 京都編
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第肆拾参話 征東将軍

お待たせしました。


注意 今回の話はキリスト教の闇の部分です、奴隷売買等々史実に基づいた描写であり、現代のキリスト教を貶める物ではございません。歴史の暗部としてこの様な事が有ったとの事ですので御了承下さい。


補足です。

文中にある、羅馬ローマ教皇という人物がいるそうですが、その教皇が百年程前、ポルトガル人以外の異教徒の土地は全てポルトガル人の物であり、異教徒を永遠の奴隷にして良いとお触れを出したとのこと。

ですが、実際に第208代教皇ニコラウス5世により1452年、ポルトガル人に異教徒を永遠の奴隷にする許可の教皇勅書が出されていますので史実の事です。



弘治三年六月八日 夜半


■山城國 京 九條邸


「九條様に是非お願いしたき議があります」

「早速やな、なんや?」

「はっ、さる御方との会談をお膳立て頂けないでしょうか?」


「会いたい言うのは誰何や?」

「その御方は……」



弘治三年六月十五日


■畿内某所の門跡寺院


氏堯、氏政、康秀が九條稙通に願い出た然る門跡との会談の為、畿内某所へ向かった。


「門跡様、本日はお会い頂き忝なくぞんじます」

「太閤殿(九條稙通)から話は聞いています。しかし世俗から離れた拙僧に何の用でしょうか?」

氏堯から門跡様と呼ばれた僧がにこやかに返答する。


「はっ、詳しくはこの者に」

氏堯に指された康秀が話し始める。


「三田長四郎康秀に御座います。いきなりで失礼とは存じますが、門跡様は昨今の仏僧の堕落について如何お考えでしょうか?」

「此はまた手厳しいですね。確かに昨今の仏僧は鳥獣を喰らい女を抱き子を作るなど、戒律にそぐわない行為をする者が多いことは事実ですが、真面目な仏僧もいる事も事実です」


康秀の微妙な質問にも嫌な顔一つせずに真摯に答えてくれる。


「更に、失礼は承知の上で門跡様にお聞き致しますが、昨今本邦に入ってきたデウスの教えをどうお想いでしょうか?」

「此は又、三田殿は仏僧たる私にその質問をしますか」

「はっ、是非ともお願い致します」


此も完全に失礼な質問であるが、門跡は感情論に囚われずに答える。

「ふむ、そうですな。拙僧もさほど詳しくありませんが、その者達が奉仕滅心にて貧しき者達へ行う布施、医療など、我々も参考にすべき点も有るようですね」


「はっ、堺などで聞く限りはその様な話が多いのですが、私としても門跡様よりご意見を頂きたく、色々調べた結果、驚くべき事が判ったのです」

「ほう、それは如何様な事ですかな?」


康秀の言葉に興味津々の門跡。


「はっ、彼等の事を我等は南蛮人と申しておりますが、実際には葡萄牙ポルトガル人、西班牙スペイン人と申すそうにございます」

「なるほど、南蛮とは唐の言葉で南方の蛮人という意味ですからね」


「彼等の國は、本邦より遙か西の彼方、天竺より先にございます。その距離凡そ一万六千里(11000km)ほどだそうにございます」

「なんと、万里の彼方より信仰の為に参ったと言う訳か。まるで玄奘三蔵法師様の様な者達ですね」


門跡が、艱難辛苦を越えてきて布教の旅をするとはと関心してる。


「門跡様、全てが全てその様な高尚な人物では御座いません」

「そうですね。確かに人がいればその人数だけ煩悩と言う物がありますから」

「はっ、彼等は真面目に布教しておりますが、その後にいる葡萄牙、西班牙の目的は、世界征服と自らの民族以外の総奴隷化なのです」


康秀の話に驚く門跡。

「なんと、それは真ですか?」

「はっ、我等が調べた事でございますが、デウスの教えの最高権力者に羅馬ローマ教皇という人物がいるそうですが、その教皇が百年程前、ポルトガル人以外の異教徒の土地は全てポルトガル人の物であり、異教徒を永遠の奴隷にして良いとお触れを出したとのこと」


「何と傲慢な。御仏はその様な事をお許しには成りません」

「門跡様、我等の手の者が西國にて調べた事ですが、西國ではデウスに入信した者達が、神社仏閣、墓、位牌などを破壊し、更に仏僧を迫害しているようにございます。何でも彼等の教えでは、仏教も神道も全て異教であり邪教であると教え、デウスを信じぬ者は全て悪魔の手先であるから容赦は不要だそうにございます」


門跡が康秀の話しに信憑性を感じて、静かな怒りを見せる。


「なんと、余りに独善的で排他的な事をする。その様な教えを広げるとは許せませんね」

「更に、彼等葡萄牙商人は在地の領主に武器弾薬を供給する代わりに、人身売買にも手を染めているのです。戦で捕獲された民を一人数文で買い取り、更に火薬の原料の硝石一石(150kg)をうら若き乙女五十人と交換し、海外へ売り飛ばしている事が判っております」


「その様な無体がまかり通るとは」

「人の欲とは底知れぬ物にございます。彼等は白き肌をしていますが、それは神より支配者として認められた姿であり、それ以外の肌の色をしている者は家畜であるという考えも有るようです。現に海の向こうにある大陸の國々は、西班牙の金危棲蛇怒屡コンキスタドールなる者達により滅ぼされ、富は奪われ、女は犯され、人々は奴隷として虐げられているとのことにございます」


「なんと、南蛮人は其処まで危険な者達なのですか」

「はっ、印家インカという國の帝は比詐呂ピサロなる者と会談中に囚われた挙げ句、人質とされ全ての財宝を奪われた末に括り殺されたとの事」


「なんと由々しき事態ぞ。数年前にザビエルなる者が上洛し、帝と公方への拝謁を願ったが、それが侵略の準備だったとは。危うく帝のお命が危険に晒される所であった」


門跡は康秀の話にザビエルを危険な人物だと考えた。しかしフランシスコ・ザビエルは真面目な宣教師だったので、康秀も流石に誤解させたら不味いのでフォローする。


「聞くところに依りますと、ザビエルなる者は純真な宣教師だったとのこと。問題はその様な純真な者を利用する悪しき輩にございます」


「なるほど、確かに仏僧にも救いのない者もおりますが、真摯に御仏に仕える者達も大勢おりますから、その事は理解できますが、人を人とも思わぬ教えは我が國にはそぐわないですね」


「はっ、今は西國と堺などで少数の信徒がいるだけですが、何れ我が國の富と民の多くを持ち去ろうとするで有りましょう」

「三田殿の懸念は尤もですね。この件は拙僧から帝へお伝え致そう」


「はっ、何れ西國へ向かいし者達が更に詳細な資料と、売られた者達を取り返して来ますので、その際に再度門跡様に確実な証拠をお渡し致します」

「それは重畳です。帝も民の事で非常に御心をお痛めです。少しでも民に幸せが来る様に我等も致さねば成りませんね」



そう言う門跡に氏堯と康秀が畏まって懇願する。


「門跡様、その為に門跡様に関東へ下向して頂きたく存じます」

何がその為なのか判らずに、門跡様が考え込む。

「拙僧には、寡聞にして存じぬ事ですが、何故ですかな?」


「はっ、関東では、応永二十三年(1416)の上杉禅秀うえすぎぜんしゅうらん以来、戦乱が留まることを知らず続いており、昨今元凶とも言える関東管領上杉兵部少輔(憲政)殿を追討致しましたが、管領殿は越後へ逃走致しました。


彼の地の守護代長尾弾正少弼(長尾景虎)は管領殿を保護すると、上杉の家名と関東管領職譲渡を条件に支援を決し、関東へと攻め込もうとしております」


「なるほど、しかしそれがどうデウスの教えに係わるのでしょうか?」

「はっ、現在当家は西國などから葡萄牙商人により売り飛ばされる民を博多商人神屋紹策、嶋井茂勝達に買い戻させております。そして彼等の新たな受け入れ先として関東に迎え入れる為の準備を致しております」


「なるほど、西國で迫害されし民を、関東で慈しむ事を目指す訳ですね」

「はっ、今現在の我が國の現状では全ての民を護る事は出来ません。それならば救える限りの民を救い出そうとの考えにございます」

「つまり、その為に拙僧の下向が必要と?」


「はっ、門跡様に還俗して頂き、是非とも征東将軍せいとうしょうぐんとして坂東へ下向して頂きたく、失礼を承知の上でお願い致しております」

氏堯氏政康秀が深々とお辞儀をする。


「しかし征東将軍とはまた、古い物を持ち出しましたね」

「はっ」

「しかし、確か北條殿は古河公方殿を自家薬籠中じかやくろうちゅうの物に為さっているはず。更に古河公方殿より関東管領職に任命されているのでは?」


「その通りでございますが、現古河公方足利左馬頭様(義氏)は前公方晴氏様の御次男、本来公方になるはずであった御嫡男藤氏殿を押し出しての公方就任にございます。その為に左馬頭殿の公方就任を認めない勢力が多々有るのです」


「なるほど、その最右翼が関東管領上杉兵部少輔殿と長尾弾正少弼殿ですか」

「はっ、更に佐竹右京大夫殿、里見刑部少輔殿(義堯)も同意見といえましょう」


「なる程。御神輿が多くて収拾がつかない訳ですね」

「左様にございます」

「ふむ、それで拙僧に征東将軍に成れと言われるか」


「はっ、現在の情勢では遅かれ早かれ長尾や里見が牙を剥くは必定、例え左馬頭様が命じましても、彼方は自分達で藤氏殿を公方として押してくるはず」

「なるほど、それでは左馬頭殿がいても何の役にも立たないと」


「はっ、その通りにございます」

「征夷大将軍に対するのは征東将軍ですか」


「はっ、征東将軍は木曾義仲きそ よしなか敗死以来、一時的に足利尊氏あしかが たかうじが就任したものの、凶位として誰も就任しておりません。更に鎮守府将軍ちんじゅふしょうぐんと違い征夷大将軍と同格の上、同時に存在してはならないと言う前例がございません」

「随分と古いことを知っていますね」


「関東静謐の為に調べましてございます。凶位と申しましても、門跡様は徳高き高僧にございます。さすれば、凶事を調伏し慶事になるが道理にございます」

「しかし面白いですね。凶事でも拙僧がなれば慶事になるとは、穢れの逆転ですね」


「はっ、関東静謐の為、國を襲う國難の為に、門跡様には鎌倉に下向して頂き、征東将軍として鎌倉府を開いて頂きたくお願い申し上げます」


「その場合、北條殿が執権となる訳ですね」

「仰る通りにございます」

「鎌倉将軍府と古河公方が両立しては些か困るのでは?古河公方殿は如何するのですか?」


「はっ、古河公方様は公方と称されていますが、実際には関東総奉行職のような物。征夷大将軍ではございませんから、征東将軍の方が格が上になります」


「そうなると、鎌倉将軍府は征東将軍の拙僧、執権の北條左京大夫殿となる訳だが、他の諸大名は如何致すおつもりかな?」


「はっ、佐竹右京大夫殿には副執権或いは侍所別当に就任を働きかけたく、その際には門跡様のお口添えをお願い致したく」


「なるほど、一番の敵ならば味方に引き込んでしまえと言う訳ですね」

「はっ」

「しかし、佐竹は誇り高き一族でしょう。それに言っては何ですが、北條は他國の兇徒と嫌われているのでは?」


「はっ、その通りにございますが、佐竹は筋を通す一族にございます。特に現当主右京大夫殿(義昭)、嫡男徳寿丸殿(義重)は高潔な人物と聞き及んでいます」


「なる程、朝廷が直々に命じた征東将軍が開府した鎌倉将軍府であれば、佐竹も話に乗ると言う訳ですね」


「そうなると、拙僧は山車だし(出汁と御神輿を懸けている)になる訳ですね」

「はっ、真実を申しませばその通りにございます」

「ハハハ、面白い事よ。普通の者であれば、拙僧の機嫌を取るために『傀儡など滅相も御座いません』と取り繕いますのに、三田殿は真正直に拙僧に傀儡になれと言われる」


「國難の為に坂東にて王道楽土を目指しますれば、嘘偽りを申す訳には参りません」

「確かにそうですね。拙僧は此処で北條殿、三田殿が耳心地の良い話をしてきたら、断るつもりでしたが、北條殿も三田殿も真正直に話して下された。此処は拙僧の力が何処まで役立つか判りませんが、東国下向も吝かではないです」


その言葉に再度お辞儀する康秀達。


「南蛮人のことも含めて主上にも相談致さねば成りませんね。その際には三田殿も昇殿して貰いますぞ」

「しかし、私には官位がございません故」

「なんの、拙僧とて門跡をしているのですから、伝手ぐらいは有り申す。西國よりの証拠の品々が参ったら帝へお伝えし、昇殿を出来る様に取りはからいましょう」


御料所と荘園の縦深陣地で駄目な連中には征東将軍で勝負を懸ける。


今回の門跡様は実在の人物で征東将軍になれるだけの家柄の方です。


征東将軍の着いた人物に足利尊氏を追加。


実際に当時のポルトガル商人は日本人を奴隷として多数連れ去っていました。その為に秀吉から伴天連追放令喰らったぐらいです。


こんな話を書いた当日に、『安土桃山時代末の1597年、日本人が「奴隷」としてメキシコに渡っていたことがわかった』という記事が出るミラクルが起こった。



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