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三田一族の意地を見よ  作者: 三田弾正
第参章 京都編
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第肆拾貳話 九條稙通と言う人

お待たせしました。


九條稙通くじょう たねみちは乗馬も剣術も高LVの方です。

弘治三年六月六日 


■山城國 京 内野


京を離れ二ヶ月で北條家一行は色々な成果を上げて京へ帰還した。


氏堯が建物の建設が始まった現場を見回っていると山科卿が訪ねて来た。


「御所の造営も滞りなく進みそうですな」

「此は山科卿。今日は如何しましたか?」

「なに、酒が切れたので貰いにな」


ニヤリと笑いながら仮屋に置いてある酒樽から焼酎を飲んでいる。

「それはそれは」

「まあ噂やけど、関白はんが柳原亜相(大納言)家人の真継って言うんと何やら頻繁に会っているそうやから、まあ気いつけることや」


山科言継は焼酎をガブ飲みしながら重要な情報を教えてくれる。

「ありがとうございます。後で酒はお送り致しましょう」

「そか、宜しゅう」


この後、風魔者に命じ近衞前嗣と真継久直を探らせ、二人の陰謀を探知する事になった。




弘治三年六月八日


■山城國 京 押小路烏丸殿おしこうじからすまどの(二條邸(後の二條御所))


帰洛した氏堯は康秀を伴い二条晴良邸へ赴き、二条晴良と九條稙通と会った。


「二條様、九條様、お忙しい中、申し訳ございません」

氏堯の挨拶に二條晴良、九條稙通がにこやかに答える。

「なんの、朝家の為に働いてくれる左衛門佐の頼みとあれば、断る術もないさかいな」


「で用事とは何やね?」

「はっ、お聞き苦しい事ととは存じますが、御所造営と皆様の御屋敷の建築も進み、今年中には完成の予定でございますが、我等の帰洛後の修繕などが滞る事が心配だと、左京大夫は心配しております」


「なるほど、確かにそうやな、今の御所の状態を見れば、そう感じるのは至極普通や」

「先立つ物が無いさかい、修繕も禄に出来へんしの」

「左京大夫にはなんかええ考えでもあるんかい?」


「はっ、左京大夫は朝家、宮家には御料所を、摂家を筆頭とする公家衆と門跡には荘園を寄贈したいとの事、又地下家には年二十貫(二百万円)を永続的にお渡しするとの事にござます」

氏堯の話に、普段から生半可なことでは驚かない二條晴良と九條稙通が驚きの顔をする。


「御料所に荘園かいな、殆どが横領されてしもうたからな」

「はっ、その為、御料所と荘園は我が北條家が責任を持ち管理し、年貢をお送り致す所存」

「わてらは管理せんでええ訳やな」


「はっ、管理に関しては厳格に行います故」

氏堯の話に、二条晴良と九條稙通は喜んでいる。

「左衛門佐左京大夫の朝家を思う心、あい判った。当今はんも嘸かし御喜びになるやろう」


二条晴良の言葉に氏堯は深く礼をする。

「そう言って頂くだけでも、都へ来た甲斐がございました」


それから雑談をした後、氏堯は屋敷から下がった。


「九條はん、ありがたいこっちゃ。此で朝家もわてらもええ目が見えて来たで」

二条晴良がニコニコしながら話しかける中、九條稙通は何やら考えながら頷いている。

「そうやな、そうかの」


その姿に全然気が付かず、喜んでいる晴良。

「そやそや、荘園が返って来るなら、薄い粥を啜ることも無くなるさかいな」

浮かれている晴良。


「そやそや、前祝いでもしましょっか?」

晴良の言葉に稙通が如何にも今思い出したかのように言う。

「しもうた!二條はん、すっかり忘れとった。午後から客を待たせておったんや」


「ありゃ、九條はん、それはいかへんな、しゃああらへんから、宴は又今度にしましょか?」

「そやな、えろうすまんね」

「いやいや、ええってこっちゃ」


いそいそと二條邸を後にする九條稙通だが、帰りながら家臣に何やら話しかけ、その家臣は直ぐさま氏堯の後を追い、氏堯に稙通からの言付けをした。





弘治三年六月八日 夜半


■山城國 京 九條邸


九條稙通から密かに会いたいと言付かった氏堯と康秀は、夜陰に乗じて風魔者の手引きで九條邸へ忍び込んだ。


「九條様、左衛門佐にございます」

稙通は庭園に現れた氏堯と康秀一行にも驚かず、離れへと案内する。

「こっちや」


こぢんまりとしてうらぶれた感じのある離れへ入ると、周りを風魔者が監視した。

「えろう、厳重やな」

「此方としましても、名指しで呼ばれました以上、こうするよりは」


神妙な顔の氏堯を見た稙通が笑い出す。

「クックック、そう畏ばることはないで。此は雑談や雑談。堅苦しゅうせいへんことや」

普段と違う稙通の態度に、氏堯も康秀も驚く。


「雑談と申しますと?」

「それが堅苦しいっていうんや。此処に居るのは太閤九條稙通やなく、単なる飯綱いいずなの法(魔法)使いよ」


笑いながらそう言う稙通に、氏堯も康秀も呆気に取られる。

「最近は成就したらしゅうて。自分が寝るところには、必ずその頭上の木に梟が留まるし、道を歩けば必ず旋風が起こるようになったんや」


「はぁ」

「まあ、ええわ。それよりさっきの話やけど、あれには裏があるやろう?」

「先ほどの話と申しますと?」


「御料所と荘園や」

鋭い質問に氏堯の目が泳ぐ。


康秀は、織田信長が足利義昭を奉戴して上洛した時、稙通は信長を見ると、立ったまま『上総介か、上洛大儀』と言い放ってプイと出て行った九條稙通の逸話を思い出していた。


稙通は氏堯の目の泳ぎを見て、ニヤリと笑うと言い放った。

「左衛門佐、左京大夫の狙いは朝家や我等の救済だけでは無かろう?」

流石に、海千山千で信長、秀吉にさえ屈しなかった稙通である。その鋭い感覚で北條の裏の狙いを感じ取ったらしい。


此処は氏堯としても、疑念を持たれたままでは折角の友好感を削ぐ可能性があるために、真実を話す。


「はっ、九條様の仰る通り、左京大夫としては、朝家の復興もありますが、それに続いて関東の民の平穏を求めております」

「そやな、左京大夫の領土では民草が生き生きしてるそうやからな」


「しかし、我が北條家は関東では新参者、他國の兇徒と未だに言われる始末。特に先の関東管領上杉憲政を擁した越後守護代長尾景虎は攻め込む気満々にございます。又海の向こう安房の里見義弘さとみ よしひろも海賊衆を使い、三浦半島で夜陰に隠れ無辜の民を襲い、攫い、犯し、殺しております」


「うむ、長尾は確か先々代が徳大寺大納言を括り殺して、越後國主と関東管領も殺しとるさかい、野蛮なんやろうな」

「はっ、当家は先の関東管領上杉憲政様と戦いはしましたが、殺害まではしておりませんし、御子息龍若丸様も無事お返し致しました」


「筋は通したって言う訳やな」

「はっ」

「しかし、里見っちゅうんは碌な事をせんな」


「元々謀反人足利持氏(あしかが もちうじ)の家人にて、持氏敗死後にその子息達を旗印に無謀な叛乱起こし、敗北後に安房へ逃げ込み、混乱に乗じて安房を横領したのでございます。更に現当主義弘の父義堯(よしたか)は、当主になる為に本家で甥の義豊よしとよを葬り去る際に、我が家の援助を受けたにも係わらず、当主になるや北條家を裏切りました。また義弘は昨年には尼僧一人のために鎌倉を焼き討ちし、その尼僧を攫い妻にしたのです」


「何とも高くつくことやな。その尼僧は何者なんや?」

「はっ、古河御所の傍系足利義明(あしかが よしあき)の忘れ形見で、青岳尼しょうがくにと申します。若き頃から義弘は姫の美しさに心奪われ、姫に恋焦がれる余り我慢できず、攫うためだけに鎌倉を焼き討ちするという暴挙を働いたのです」


「何とも、源氏物語みたいやな。源氏物語はええ物語やが、あれは作り話や。それを地でいくような行動、当今はんが知ったら激怒しそうや」

「はっ、その為だけに沢山の無辜の民が悲惨な目に会いました」

「そやな、為政者としては最低な行為や」


「民を守る為に、長尾勢と里見勢が攻め込む際に通らざるを得ない地を、御料所と荘園としたいのです」

「なるほど、朝家と麻呂達の土地なら攻め込めないっていう算段かいな」

「仰る通りにございます」


「せやけど、餓狼のような兇徒にはそんな事、効かへんと思うで」

氏堯の話に稙通は思案しながら疑問の述べる。


「はっ、しかしそれにより帝の御料所を荒らす朝敵として、我が家が堂々と攻撃できます」

「悪い考えやな。せやけど、そうでもせんと坂東の民草を守れへんやろうな」

「その通りにございます」


「せやな、当今はんの御心思うたら、協力も吝かやないで」

「ありがとうございます」

「ええんや、けどほかのもんに知れたらやっかいやな」


「はっ、その為に九條様に……」

氏堯が九條家にはそれ相応の礼をするのでと言おうとしたが、稙通はそれを遮る。

「そう言う訳や無い。金が欲しゅうて言うとる訳やない。帝に御心労を懸けないようにして欲しいだけや」


「それは重重に」

「そならええが、それにしても、左衛門佐にはええ相談者がおるな」

稙通が康秀を見ながらニヤリと笑う。


「如何なる事でございましょうか?」

「ククク、それやそれ、左衛門佐は武人としては一流やが、麻呂達と付き合うには未だ未だやな。話の節々で小童を見てるんがバレバレや。あんじょうせんと麻呂以外にもばれるで」


稙通は笑いながら氏堯と康秀を見ている。

「はてさて、その様な事は」

氏堯の額に脂汗がにじむ。


「誰にも言わへん、其処の小童名は何と言うんや?」

稙通の追及に仕方なしに答える。

「平朝臣三田長四郎康秀と申します」


「女地頭の噂は山科卿から聞いとるで。傑作やな。久びさに笑わせてもろうたわ」

稙通は康秀をニヤニヤ見る。

「お恥ずかしい次第」


「左衛門佐左京大夫でも幻庵宗哲でも今回の様な事は思いつかないやろうな。発想が違いすぎるんや。麻呂かて、若い頃から困窮で摂津国や播磨国を流浪したが、ただ放浪してた訳やないで。婿の讃岐守(十河一存そごう かずまさ)と共に戦場へ出た事かて有るんやから、引き際も弁えとるし、海千山千を対処してきたんやから、人を見る目は確かやで。それに、本願寺を天竺料理で懐柔したんも、それだけでは無く料理できるもんしか判らへん機微ってもんがあるやろ」


稙通の指摘に流石出来ると康秀は感心していた。

「はっ」

「単刀直入に言うで、麻呂も悪巧みに参加させて欲しんや」


稙通の言葉に氏堯と康秀は、はぁっという顔で驚く。それを見て稙通は大笑いする。

「アハハハ、それやそれ、それが未だ未だ未熟なんや。麻呂達に対応するには腹芸が足りへんのや」


「九條様の仰る通り、長四郎が今回の発案者にございます」

氏堯が遂に降参して真相を話したが、康秀にしてみれば言っちゃうのかという感じであった。

「やはりのー。安心せい、話はせえへん」


「九條様、其処だけは必ずにお願い致します」

氏堯と康秀が頭を下げて懇願する。

「ええで。此で面白うなるで。どうせ男児が無く家は兼孝(養子)に継がせるだけやし、楽しみは源氏物語読むだけやったからな。よろしゅうな」


稙通のはっちゃ気振りに溜息をつく氏堯と康秀であった。


補足です、九條稙通の妖術ウンウンは、自己申告なだけです。厨二病です。本編に妖術を出す予定はございませんので、説明不足をお詫び致します。果心居士とかが出るとしても、手品師扱い。

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