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三田一族の意地を見よ  作者: 三田弾正
第参章 京都編
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第貳拾睦話 尾張で種まき

タイトルが思いつかない。


尾張編終わりです。

弘治三年二月二十二日(1557)


尾張国海東郡津島おわりのくにかいとうぐんつしま


北條家一行は、熱田大社で宮番匠の岡部又右衛門以言をスカウトし、中中村で刀鍛冶の加藤正左衛門清忠もスカウト。更に後の豊臣秀長になるはずの木下小竹一家にスカウトをかけたが、小竹達は暫く考えたいとの事なので、津島にて返事を聞く事として、先に津島へと向かった。


「津島は尾張一の湊町と聞いたが、噂に違わない繁栄ぶりだな」

「津島は織田弾正忠家おだだんじょうのちゅうけ飛躍の地と言えます。何せ上総介かずさのすけ様(織田信長)の御祖父霜台様(織田信定)がこの地を支配して以来勢力を増し、今は守護代にまで成られたのですから」


氏堯の言葉に反応するように丹羽長秀が話すが、織田信長を賞めることに気が行ってしまい、端から見たら斯波義銀の家臣ではなく、織田信長の家臣であることが完全にバレバレであったため、康秀、氏政などは何度も吹き出しそうになるのを必死で我慢していた。


「なるほど、経済を握る事は大事と言う事じゃな。三河守(織田信秀)が四千貫も寄進出来たのはこういうことじゃったんじゃな」

「まさに、そう言う事です」


織田家が山科卿に賞められて嬉しそうに丹羽長秀が話す。

その後、一行は湊近くの大慶寺に腰を落ち着け、めいめいに休み始める。


暫く休んでいると、再度丹羽長秀が現れた。

「お休みの所、申し訳ございませんが、尾張守護代織田上総介(おだかずさのすけ)(織田信長)がご挨拶に参りました。


「三河殿のご子息かな?」

山科卿が思い出したように質問する。

「はっ、織田三河守(織田信秀)の子息にございます」


「なるほど」

「お会いしましょう」

氏堯の言葉に丹羽長秀が信長を呼びに行った。


皆は、織田上総介と聞いてもピンと来ない状態で有ったが、康秀にしてみれば、信長を歴史上知っているために緊張していた。


暫くして、丹羽長秀が信長らしき人物を連れて部屋に入ってきた。

「織田上総介信長と申します。山科卿にはご機嫌麗しく。北條殿、お初にお目にかかる」

「三河殿のご子息か。三河殿には、色々世話になり申した」


「北條左衛門佐氏堯と申す」

「北條新九郎氏政と申します」

「三田長四郎康秀と申します」


康秀にしてみれば、信長は破天荒な傾奇者のイメージが有ったが、今回の信長は確りとした姿をしていた。つまりは万正寺で斎藤道三を驚かした時の格好と言えた。


康秀としてみれば、信長VS氏堯の話が聞けるかと期待したのであるが、信長は挨拶を済ませるとそそくさと退出してしまい、拍子抜けであったが、流石に戦国の風雲児という感じか、自分達を観察した目は鋭かったのである。




弘治三年二月二十二日


■尾張国海東郡津島


北條家一行を見に来た信長であったが、一目見てさほどの人物とは思わずに、挨拶と少々の話の上で退室した。この当時は斉藤道三の殺害により斉藤義龍との間で戦端が起こっていた上に、弟の織田信成おだのぶなり(織田信行)との確執も大きく、北條一行に注意を向けるほどの意識下になかったのである。


「五郎左、北條の軍だが規律はまあまあだが、装備は大したことが無さそうだな」

「はい、鉄砲も少なく弓が主力の様です。鎗も二間ほどしかありません」

「うむ、関東は田舎というが、果たして全てを出しているかが疑問だが」


「確かに」

「それにしても、御所の修理を行うか。朝廷の歓心を得るのは易い事だな」

「はい」


「それで、宮大工に野鍛冶を連れて行くか」

「千秋殿もなるべく、使えない人物を送りましたので」

丹羽長秀が必死にフォローする。


「まあ、良いだろう」


信長と言えども神ではないのだから、スカウトされた人物が未来で役に立つとは判らなかったのである。これが、既に織田家や他家に仕えていた人物であれば、態々引き抜くのは何故だという疑問が湧いたのであろうが。康秀が欲をかかずに引き抜きやすい人材のみを狙った結果であった。


「五郎左、取りあえず尾張を出るまでは、お前が案内せい」

そう言いながら、馬に乗り去っていく。



弘治三年二月二十三日


■尾張国海東郡津島


津島郊外の寺で寺侍の男が佇んでいた。


はあ、我が子が大きくなるにつれて、このままで良いのだろうかと思う。爺様の時から寺侍としてこの寺に仕えてきたが、この所の尾張の動きに目が廻るようだ。しかし織田様に仕える伝手も無いし、このままであれば、儂はともかく息子達の代にどうなるか判らない。


「森殿、森殿」

おっ、つい考え事をしていたので、聞こえなかった。

「如何致した?」


「森殿に御客人だ」

私に客とはいったい誰だろう?


康秀は津島郊外のある寺に来ていた。風魔の暗躍で探して居たらしい人物を発見していたからである。通された座敷で待っていると、うらぶれた四十代ほどの侍が現れた。


「私に御用とは貴方でしょうか?」

「森殿ですな。私は関東の北條家家臣三田長四郎康秀と申します」

関東の雄、北條家の家臣が津島に来ているとは噂で聞いていたが、関係の無いことと思っていたこの男は、一瞬返事が遅れた。


「もっ、申し訳ござらん、拙者、森太郎兵衛もりたろひょうえと申します」

康秀はしげしげと太郎兵衛を見てから、話し始める。

「森殿は、現在のご自分の生きようにご満足かな?」


思っていたことをズバリと当てられた太郎兵衛は驚く。康秀側は風魔からの連絡でその不安や不満を知っていたから言ったのであるが、太郎兵衛としてみれば驚愕であった。


「はっはい、このままで良いのであろうかと。特に息子達の将来を考えたら」

「なるほど。実はこの度、当家は都へ向かい御所の修築を行う事と成りました。その際吉兆を占ったのですが、尾張の地にて共に連れて行くべき人物がいると出たのです」


その言葉に驚くが、実際にこの時代は占い全盛期であるから、太郎兵衛も大して疑問に思わなかった。

「その占いがどのような結果を?」

「尾張に相模国愛甲郡毛利庄と音を同じにする者有り、彼の者を相模へ戻せば万々歳であろうと」


その言葉に、太郎兵衛も驚く。何故なら森家は鎌倉時代に相模から尾張へ移住してきた一族の末裔だと教わってきたからであった。

「なんと、我が家は、相模国愛甲郡毛利庄出身だと教わっております」


「なるほど、占いは正しかった訳ですな」

「それで、私をですか?」

太郎兵衛の質問に康秀が頷く。


「森殿、我が家に仕えませんか?」

「北條家にという訳ですか、しかし北條様には良き家臣が大勢いましょう。その中に自分のような寺侍が混じっては疎外されるだけかと」


太郎兵衛の考えも尤もであるが、別に康秀は北條家に仕えろと言っている訳ではないのである。

「自分は三田家の四男で若年ですが、新たな所領も頂いております。しかし如何せん、譜代の家臣が僅か四人しかおりません。どうでしょう、森殿。当家に仕えてくれはしませんでしょうか?」


太郎兵衛にしてみれば、関東へ移住する不安もあったが、北條家家臣としてではなく陪臣であればさほどの気苦労も減るのでは無いかと考え始めていた上に、息子達の将来を考え話に乗る気になって来た。

「私としては吝かでないのですが、如何せん妻と子が二人もおります。恥ずかしながら、喰わしていくためにはそれなりに銭が要り申す」


「それならば、当家で銭五十貫(五百万円)を取りあえず給しましょう。都での奉仕の後、相模へ戻り次第知行割を致す所存」

太郎兵衛は五十貫という数字に驚きを隠せない。


「なんと、それほどまでの御厚意を頂いては、嫌とは言えますまい。この森太郎兵衛勝貞、三田様にお仕え致します」

「宜しく頼みますぞ」

「はっ」


太郎兵衛は五十貫という金額に驚き恐縮しているが、康秀の方にしても息子の方がメインであり、青田買いにしては安い金額でなんか騙した気がして少々恐縮していた。



弘治三年二月二十五日


■尾張国海東郡津島


康秀と二曲輪猪助にのくるわいすけが他人に聞かれないように注意深く話していた。

「康秀様、美濃の状態は万全です」

「やはりな。斉藤道三敗死後、斉藤義龍が反対派粛正を終えているから、あと一年早ければ芽はあったが」


「蜂屋や坂井などは既に織田上総介へ仕えております。明智は既に美濃から消えておりまして、未だに行方が知れません。ご期待に沿えず申し訳ございません」

「仕方が無いですよ。風魔衆には無理なお願いを何時もしているのですから。風魔には本当に感謝しています」


その言葉を聞きながら猪助は頭を垂れる。

「ありがたきお言葉、部下達も喜びます」

「それに、森太郎兵衛を見つけてくれたじゃないですか」


「はっ」

「それと末森だが、やはりきな臭いか」

「はっ、織田信成、昨年の謀反の後、今は大人しくしてるようですが、若衆の津々木蔵人つつきくらんどを重用し、宿老の柴田勝家しばたかついえは増長した蔵人に侮られ無念に思ってるようです。更に信成は、岩倉の織田信安おだのぶやすに通じているようです」


「なるほどな、そろそろ又やるか」

その言葉だけで、二人は信成が再度謀反を起こすのではと判る。

「恐らくは」


「しかし、柴田が上総介に伝えるであろうよ」

「可能性は大きいかと」

康秀は今後起こることを知っているから、考えたような振りをしながら一呼吸時間をおいた。


「猪助、信成には何人子供がいる?」

見当違いの質問に一瞬驚くが、其処はベテランであるから、淀みなく答える。

「男児三名女児一名がおります」


又考えた振りをする。

「なるほど、謀反を起こせば子供とて死罪か」

如何にも気の毒そうに演技する。


「はっ此も武家の習いかと」

猪助も答える。

「猪助、末森には何人か入っているか?」


「はっ末森を探れとのご命令により、既に二年前より五名が入り込んでいます」

「よし、万が一、信成が粛正或いは敗北したとき、偽の死体を用意し自害に見せかけて母諸共に小田原へ送れ」

「はっ」


何故かと猪助も考えたが、康秀の手腕を判っている以上はそれを全うさせるだけだと思っていた。

何故なら、自分の噂を聞いた者達が、敵の忍に追撃されながら馬を盗んで逃げた自分を馬鹿にしたりする中で、風魔小太郎に命じられて会った康秀は、自分の行動を賞賛してくれたのだから。


『情報収集の為に忍んで居た以上は、情報を伝えるのが大事であり、敵と戦うのは本末転倒。猪助殿の行為は賞される事であり、馬鹿にして狂歌を書く連中こそ、本末を見ていない』と言われたのだから、それを聞いて胸の閊えが抜けホッとしたのである。それ以来康秀の為に頑張っているのである。



弘治三年二月二十六日


■尾張国海東郡津島


二十六日になり、支度を終え家族も連れて来た岡部又右衛門以言一家や加藤正左衛門清忠一家が続々と津島へやって来た。その中に小竹と旭が混じって居た。


「北條様、お待たせ致しまして申し訳ございません」

又右衛門が頭を下げる。

「なんの、いきなりの都行きでは、家族の支度は大変であったろう」


「ありがとうございます。此が女房の田鶴、息子の又兵衛、娘の凜でございます」

「うむ、都までは長いが頼むぞ」

「はっ」


岡部家が終わると加藤家の番になった。

「北條様、宜しくお願い致します」

「正左衛門、宜しく頼むぞ」

「はっ」


氏堯達が話している中、康秀と小竹が話をしていた。

「小竹殿、旭殿、よういらっしゃった。仲殿はどうなされた?」

康秀の言葉に小竹が慣れない丁重語を間違えたり野良言葉混じりで話しながら、すまなそうにする。


「実は、私は、元武士とは言え既に百姓状態です。それにおっかあが、おっとうの眠る中村から離れたくないと言うで、おっかあを残して行く訳にはいかないんです。それにあんな継父でも居るだけで、他家から田畑の横領やらを防げたのも確かで、恩もあるだで、それに兄さが帰って来たとき、誰もいなきゃ可哀想だで、三田様のお誘いなんですが、すみませんです」


そう言うと、小竹は頭を地べたに擦りつける勢いで土下座し始めた。


康秀にしてみれば、この場で小竹を斬れば全て終わるのだが、とてもそんな事は出来なかった。将来の禍根を断たず、自分自身の判断のミスを呪うことになるかも知れないのに、為政者としては失格な行為をしてしまった。


「そうですか、小竹殿は間違いなく太守となると思ったのですが残念です」

「そんな、おらに太守なんて、一生百姓で暮らすのがええですだ」

すっかり訛りが出てしまっている。



その後、加藤一家と小竹達は話してたが、いきなり旭が康秀に話しかけて来た。

「三田様、兄ちゃんはああは言ってるだども、うちは都って言うのを一度見てみたいだよ、連れてってくれんかね?」


旭は康秀と同じ年の十五才である。旭の話を聞いた小竹が慌てて旭を呵る。

「こら、旭、三田様にご迷惑をかけるんじゃない!」

それに対して旭が反論する。


「兄ちゃん、帰って来るかも判らんし会ったこともない日吉兄ちゃんを待っていたって、どうしようも無いべ。それにおら嫁さいくなら百姓より武士の方がええだよ」

「おっかあを捨てて行けるか!」


その大げんかに正左衞門の妻伊都が入ってきた。

「小竹、旭、三田様の御前なのですよ。小竹も旭も言いたいことは判りますが、静かにしなさい」

そう言いながら、康秀にすまなそうに土下座する。


「いや、奥方、その様な事しないで下さい。まるで私が悪者みたいだ」

そう言いながら康秀が笑い出す事で、場を和ませた。

「旭、どうしても都へ行きたいか?」


康秀の質問に旭は即答する。

「はい」

「小竹、旭はこう言っているが、どうする?」


「妹を一人で都へ行かす訳には行きませんし」

小竹は自分が付いて行く訳にも行かないと葛藤している。

其処へ伊都が助けに入る。


「三田様、宜しいでしょうか?」

「なんですか?」

「旭を家で預かり、都へ行くと言うのは宜しいでしょうか?」


伊都の言葉に旭は喜びの顔を見せ、小竹は考えている。

「伊都さん、ほんとうかい?」

「三田様からご了承を受けたらだけど」


「三田様、お願いしますだ、おらを都へ連れてって下さい」

康秀としても考えようであったが、旭の不幸を知っている手前嫌とは言えなかった。

「判った、伊都殿の才覚にお任せします」


「三田様、ありがとうごぜえますだ」

旭が喜んで頭を下げるが、小竹は仕方が無いという表情をしていた。

「三田様、拙い妹ですが、宜しくお願いします」


「小竹殿、旭殿が不幸にならないように気を付けよう」

「お願いします」

そう言って小竹は頭を下げる。


「しかし、袖振り合うも多生の縁とも言うから、小竹殿に此を差しあげよう」

康秀が腰に挿していた鎧通しを抜いて小竹に手渡す。

それを受け取った小竹が驚く。


「こんな、ええ物頂く訳には行かないだ」

「良いと言う事だ。それならば野良仕事にも使えるので、竹を割るときなどに重宝するぞ」

「けど」


それでも恐縮しているが、結局受け取る事に成った。


こうして津島湊から船に乗り、小竹の見送りを受けながら、桑名までの三里の船旅は始まった。


船の中では、年が近い凛と旭が早速仲良くなって話していた。


桑名に到着すると、一人の僧体の武士とその妻であろう女性が子供の手を引きながら現れた。そしてその武士が話しかけてきた。

「失礼でございますが、北條様ご一行でございますか」

こういう結果になりました。

信長との対面はアッサリ終わりました。

地味に猿にダメージ&超青田買い&原野商法。

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[気になる点] 文の途中、風魔の昔語りで自分が敵から馬に乗って逃げた噂を他の者が馬鹿にしたのに殿だけは称賛してくれたと、書いているのですが分かりにくいです。そこは、昔語りから入るのではなく、昔私の噂を…
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