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三田一族の意地を見よ  作者: 三田弾正
第伍章 坂東怒濤編
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第百二十三話 朝氏さん頑張る

おまたせしました。

今回は京都での朝氏の話です。


百十一、百十二、百十三話あたりとリンクしております。

永禄元(1558)年八月十日


■山城国愛宕郡京 池邸 池朝氏


我が家には和歌の師匠である三条西実澄卿が週に一度教授に来てくれている。

「今日はここまでにしておきましょう」

「ありがとうございます」


「ほんに、池はんは筋が宜しいので、教え甲斐がありますね」

「ありがたき幸せです」

師匠の話に流石世辞が旨いなと考えることもあるが、それも見越しての師匠は旨く収めてくる。


「なんの、今まで多くの者に教えてきたが、世辞抜きに素晴らしい出来よの」

「板東の田舎の出でありますが」

「なんの、其方の父、幻庵は若き頃は園城寺にて修行し、古今和歌集にも造詣が深いと聞く故、その血を引いておるのであろう」


「父を御存じで?」

「無論よ、麻呂は駿河へ幾度となく下向しておる故、そこでも会っておる」

「なるほど」


そのような話や都の復興がめざましい話や、院や帝の周辺の話、地下衆からの噂話などをしながら夕餉をともにしている。そんな師匠を見ていると七月に言われた古今伝授の事を思い出した。あの時も夕刻であったな。


「最近思うことがあっての」

師匠がいきなり顔を暗くしていた。

「何か心配事でもございますか?」

「うむ、息子の公光は齢三じゃ、あと十年ほど立たぬと歌も旨くならぬであろう、その為に麻呂が生きている間に古今伝授できるか分からないのでの」


「亜相様は未だ未だ五十にも成っておりません。お父上の仍覚様は七十越でもお元気なのですから、未だ未だ心配するには及ばないのでは?」

「いやいや、この時勢じゃ、いつ何時、病や戦に巻き込まれるやもしれん、現に洛外では公方の一党が都へ攻め込もうとしておるからの」


「確かに、そうでございますが、いくら公方でも都や御所を焼き討ちすることはしないでしょうに」

「確かにそうじゃが、先月、烏丸卿(烏丸光康)が園城寺へ参拝しにいったが、途中の逢坂の関あたりで公方の雑兵に身ぐるみ剥がされてな」

「それは初耳ですが」


「それはそうよ、事もあろうに朝臣たる権大納言が殴打された上に身ぐるみ剥がされこもを着て山科卿の荘園まで逃げてきたのだから、とてもとても人には言えぬ事よ」

「なるほど、しかし烏丸卿は災難でしたね」


確かに公方の軍勢は寄せ集めで統制が全く取れておらず、各地で放火略奪暴行を繰り返していると伊賀者から報告が入っているが、烏丸卿の話は知らなかった。うむー更に諜報網の拡充を図らなければならないか。


「そこで、これという者を探して一代限りの伝授を行い麻呂に万が一が会った際に公光に伝授してもらいたいと思っておる」

「なるほど、念には念を入れると言うことですね」


「その通りじゃ」

「それだけでは無く、麻呂もこれから忙しくなる」

「それは何かございましたか?」


師匠はよくぞ聞いてくれたとばかりに嬉しそうにしてくる。最近は金策に向かうことも無く朝儀以外は歌の事ばかりだが何かあったのか?


「其方も知っておろうが、本朝には勅撰集と言うものがあって、醍醐帝の古今和歌集以来、後花園帝の新続古今和歌集まで二十一編が編纂されてきた、尤も新続古今和歌集は応仁の戦乱の中断し、以後勅撰集はつくられておらぬがな。それを憂いた当今はんが実に九十年ぶりに勅撰集の編纂をお決めにお成りになり、その采配を麻呂に命じてくれての、まっ事目出度く、また責任を感じておるところよ」


おお、勅撰集の編纂とはそれは嬉しくなり忙しくなるわけだ。

「それは、おめでとうございます」

「これで麻呂も京極黄門(藤原定家)紀朝請大夫(紀貫之)に並ぶとは、歌人としてこれ程の名誉は無いの」


そうこう言いながら師匠は気分良く帰って行った。

それにしても、勅撰集と古今伝授か師匠の弟子で伝授者を決めねば成らぬようだが、俺には関係ないな。

さてさて誰が苦労するやらなどと思っていたが、蓋を開けてみれば俺がだからな。世はどう動くか分からんものだ。



永禄元(1558)年八月十一日


■山城国愛宕郡京 池邸 池朝氏


昨日の師匠に続いて今日は九条様が義父殿(西園寺公朝)を伴って朝から会いに来た。

今日は休みで月と新たに整備された三条の市に行くはずであったが、月も仕方が無いとお相手をしてくださいと言ってくれた。月よ近いうちに穴埋めするからな。


で、義父殿は月に『たまには母親の元に顔を出しなさい。寂しがっているから』と月と共に実家の西園寺家へ向かった。で、九条様と俺の二人で話し合い。話というのは、昨日の師匠の話と似通った話で、公方に関することだ。


「いや、この所、世は安寧になってきたとはいえ、洛外では公方の一党が犇めいて胡乱な動きをしておる。全く以て足利の者は歴代が世の安寧より自らの権威を上げることしか頭に無いからの、院も幾度となく公方と修理大夫の和議を勧めておるが修理大夫は承ると言うが、公方が頸を縦に振らぬわ。全く以て、院や当今はんの心中を察して心穏やかではないわ」


「太閤様、検非違使として力及ばず申し訳ございません」

「何の何の、検非違使は内裏を護るが仕事、あのような野蛮な軍勢と戦う為には出来ておらぬのは分かっておる」

「ありがたき幸せです」


「何の、公方の行動は正に天に唾する行為よ。この所朝儀でも幾度となくそのことが話題になるが、一向に埒があかぬと皆頭を悩ませておる」

「ご心中お察し致します」


「当今さんは、後白河帝の様に北面の武士を強化することも考えておられる」

「北面の武士を強化ですか」

「そうよ、そこでお主に公方の元にいる有望な者を引き抜いて欲しいのだ」


「なるほど、公方様の戦力を削る訳ですね」

「ホホホ、そうよ、押しても駄目なら引いてみよと言うでは無いか、公方など金無しで権威しかない状態。その権威も当今さんや院に比べれば木っ端なものよ」


恐ろしい、流石は海千山千の世界を生きてきた方だ。俺ではとてもとても敵わん。親父でも何処まで行けるか分からんな。長四郎でも無理だろう。

「分かりました。この所とみに気になっている者がおりますので、その者達を口説いてみましょう」


「うむ、楽しみにしておるぞ」

「はっ」

先ずは沼田上野介などが良いかもしれない。


話があらかた終わり一服している最中、九条様からとんでもないことを言われて焦った。

「廷尉(朝氏)よ。流石に主上や院の物は無理だが、伏見宮様の書状は用意している。それを以て三好と共に進めている近江への手当を完遂するがよい」


そう言われても、近江に仕掛けはしているが、決定的な時期になっていないし、浅井の尻を叩く切っ掛けが

あればと思っていたが、九条様と伏見宮様が泥をかぶる訳か。


「安心せよ、其方らが進めている事であれば、公方の一党も十分に四散しよう。それにいざとなれば麻呂が責任を取るだけよ」

「太閤様」


九条殿がそこまで腹を括ったならば俺も動くとしよう、まずは松永殿に連絡だな。その後は頃合いを見て小谷に仕込ませた者達を動かすだけだ。






永禄元(1558)年九月十一日夜半


■山城国愛宕郡京 池邸 池朝氏


差配が成功し六角は壊滅状態になった。これにより公方は比叡山に登り小康状態になっている。そこで俺は小田原から送られてきた重要文章の確認だ。月は西園寺邸に泊まると言うことで、久しぶりの一人の夜だ。


まあ、最近は経済状態が安定した各家で子が誕生しまくっているので月も積極的な状態で毎晩励んでいる訳だ。まあ苦には成らないが、偶には一人も良いものだ・・・・・・と思っていたが、何だこの書状の量は、しかも機密文章が沢山ある。


どれどれ、まずは、備前の三石の山中にある陶石と言う石を掘って小田原へ送るようにして欲しいか、何々、備前三石は備前と播磨の境付近に有って赤松家の重臣で備中守護代などを勤めた浦上家の旧居城が在る村か、だが赤松家も今や雄花枯れた状態で嘗ての栄光の残滓も無く浦上の傀儡状態、その浦上も尼子の攻撃で傘下に入る入らぬで兄弟が相克し分裂状態。


播磨国室津には兄掃部助(浦上政宗)が備前国天神山には弟の帯刀左衛門尉(浦上宗景)が、これは聞くだけで難しいな。三石は海から川を上がれば近い故に採掘さえ出来れば堺経由で小田原へ送ることも出来るが、何にしても難しい。


しかし陶石が在れば、関東で窯を起こして磁器生産を行うので唐から態々買う必要も無くなるか。これは商人に任せて行くしかないかも知れぬ。そういえば堺の丹波屋が備前国福岡の阿部善定なる商人と昵懇であったはず。その線を辿ってみるか。


次は、越前の国境に近い加賀国南部大聖寺川の上流や支流付近の山中に黒鉛なる黒い墨のようなものが出る山が有るそうなので、本願寺に頼んで加賀の本願寺派に探させてくれって・・・・・・たしかあそこは顕如殿の話も中々聞かない問題がある国だと聞いたが大丈夫なのか?

まあ、頼まれた以上は顕如殿に頼んでみるが、期待は出来ないぞ。


これは最重要機密文書か、これは暗号文だから解読が面倒なのだよ・・・・・・。


はぁ? 今度は、安芸の小早川家から前当主繁平殿を引き取って小田原へ招待する様にって・・・・・・何々、小早川家は源頼朝がその質実剛健な生活を絶賛した土肥実平の末裔であるが、今は毛利家に乗っ取られて高山城下の教真寺で出家し幽閉状態と、そして年は十六か、その際に毛利へ話す理由として、北條家としては土肥実平殿の末裔を迎え入れることで、北條家が鎌倉執権北條家を継いだことを際立たせる事になると言えと。


更に毛利家にも火種が残るより、遙か彼方の板東へ向かわせた方が何かと良いであろうと。小早川譜代衆が繁平殿の命をまもることを条件に従っている事を考えれば、吉川治部少輔(興経)のように処分することは出来ずに持てあましている事は分かるか、そこを旨く突いて旨く譲歩を引き出せと。それに加えて、小早川乗っ取りの際に粛正された田坂義詮の息子が安芸の本願寺の末寺で出家して生きているから、その者も密かにか、しかも顕如殿への協力依頼の書状まで有るとは・・・・・・。


何々、毛利家、と言うか元就は家を継ぐため九歳の甥を殺した可能性もあり、なぜなら外祖父の高橋家を滅ぼしているから、更に弟を殺し盤石の体制を立てたと。そして吉川を乗っ取るために吉川治部少輔と息子を惨殺し吉川を二男に継がせる。さらには小早川の分家を乗っ取る。その芸当は安芸銀山城攻めの際に元就と同陣していた当主小早川興景が二十三で急死、息子を養子に入れる。しかも興景の妻は元就の姪、これはどう見ても何かきな臭いな。


その上、小早川本家の当主が三代続けて若死に、大内義隆と元就が共謀し繁平を押し込め反対派を粛正して隆景に乗っ取らさせたと、完全に御本城様が大石や藤田にしようとしていることと同じでは無いか、尤も御本城様は粛正はしないのだが。


それにしても、小早川とはまた、しかし俺が小早川中務大輔殿(隆景)と面識があるからか。かの御仁は温和に見えるが、話している最中でもそら恐ろしさがヒシヒシと感じられた。流石は毛利右馬頭(元就)の息子だと感じられた。


その親父と息子を言いくるめ無ければ成らないとは、全く御本城様(氏康)も親父(幻庵)も人使いが荒い事だ・・・・・・。待てよ、ここまで事細かに指示してくると言うことは、これは御本城様や親父の考えじゃ無いな、この今の時点では何の影響も無いように見えて、相手方の得にばかり成る様に見える考え方は長四郎だな。


そういえば、肥前でも少弐家の監視をさせているし、どこまで手を広げるのか分からんな。

しかし、親父が連れてきたときはオドオドしていた長四郎がここまで染まるとは、親父に毒されすぎだな。まあ尤も俺も同じように毒されてるが、親父がいない都での生活も良いものだ。なんと言っても真夜中だろうが何だろうがいきなり細作の件で動く必要もないのだから。


元はと言えば、親父が爺様(早雲)と伯父上(氏綱)に命じられて風魔を含む細作の一切合切を仕切るようになったからだからな。そのせいで俺も親父の後を継ぐために散々しごかれたからな。元はと言えば、兄貴が呑兵衛で、謀なんぞは全く出来ない性質だったから、次男の俺が継ぐ羽目になったわけだ。


しかしそれが、都へ来て何だかんだで、月に惚れられ、まさかそのまま公家として都に残るとは驚愕だったな。


まあ、月は可愛いから不満は全くない。ただこの所忙しくなって何処かへ連れて行ってやることも出来ていないからな。うむー、醍醐寺へでも連れて行くか、いや洛外は今は公方の軍勢が屯っているのだったな。そうなると醍醐寺も危ないな。



永禄元(1558)年九月十八日


■和泉国堺 堺湊


「うむ、久々に見ると関船や商船と違いなんと言えない形だ」

「ですな。尤も池様は都でお過ごしだから珍しいのでしょうが、我らは堺には頻繁に来ておりました」

「そうか、驚いたぞ、まさか毛烈殿が訪ねてくるとはな」


顕如殿などと話をするために、堺へ向かうことにした。その準備中にあの王直の養子である毛烈殿が堺へ来て俺に会いたいと言う話が堺の山科卿(山科言経)から連絡があり急遽予定を前倒しにして急行してきた。


まあ月も連れてきたのである意味、埋め合わせの旅とも言えるが、これも俺の動きを悟られない為と九条様も勧めてくださったからな。それに月が大喜びで本願寺や堺を楽しんでいるのだから。

月は山科卿の奥方らと買い物の最中で、俺はここに置いた細作の頭から毛烈殿が滞在し、船が停泊している場所へ来ている。


さて、鬼が出るか蛇が出るか分からんが、北條綱重として池朝氏として戦わせてもらおう。しかし、長四郎の言っていた通りに王直殿は捕らわれた訳か、長四郎の凄まじさが分かる気がする。

本当に申し訳ありませんが、百二十、百二十一話付近の感想とメールの返しが遅れまくっています。

早急に何とかしますので、今しばらくお待ちください。


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