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三田一族の意地を見よ  作者: 三田弾正
第伍章 坂東怒濤編
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第百九話 刻動く

お待たせしました。今回は閑話としております。


皆様、本年も大変ありがとうございました。

来年も頑張りますのでよろしくお願いいたします。

永禄元(1558)年八月某日


■相模国西郡小田原 榊原小平太


 「子曰、学而不思則罔、思而不学則殆」


今僕は、同じくらいの年齢の皆と、殿様のお師匠、北條幻庵様から武経七書や儒学なんかを、お公家さんの飛鳥井雅禎様から和歌・蹴鞠・書道を習い、武術などを北條家の方々から、算術とかを水口の小父さんに教わる毎日。ハッキリ言って、殿様のために役に立つならと受けているんだけど、普通の勉学や武術は良いんだが、ぐー、難しい、漢語は難しい・・・・・・


「小平太、如何した?」

「済みません、意味が判りません」

判らない時は判らないとハッキリ言えと言われたから。

「ふむ、未だ難しかったようじゃな、他に判らぬ者はおるか、遠慮無く手を上げよ。聞くは一時の恥聞かぬは一生の恥と申すからの」


幻庵様の問いかけに授業を受けていた半数が手を上げた。何だみんな判った振りをしていただけか。

「ふむ、では確りと聞くように。この意味はこうじゃ。孔子先生はおっしゃいました。『学んで、その学びを自分の考えに落とさなければ、身につくことはありません。また、自分で考えるだけで人から学ぼうとしなければ、考えが凝り固まってしまい危険です』とな」


へー、昔の偉人は良いことを言うんだね。けど殿様だって良いことを教えてくれているから、それ以上の偉人と言われるはずだ。何たって、軍略や物理、化学とか諸々の教科書や参考書は殿様が書いた物を元にしているんだから、『少年よ大志を抱け』とか『腹が減っては戦が出来ぬ』『軍隊は歩く胃袋である』とかの言葉も考案しているからな。


殿様自身は師匠の沢庵和尚から習ったって言うけど、それを習っていたのは、今の僕より遙かに小さな頃だったそうだから、凄い事だと思う。だって僕なら完全に忘れているだろう。


因みに、霜台様(北條氏堯)の二人の子供、六郎様(氏忠)、四郎様(氏光)と岩鶴丸(河田長親)、勝蔵(毛利勝信)、吉助(山内康豊)たちも同じ様に授業を受けているんだ。岩鶴丸と六郎様が断トツでよく出来て、僕と四郎様、吉助が程々、勝蔵が下の方なんだよ、この成績じゃ殿様に合わせる顔が無いよ。


しかし漢語ばかりでは気が滅入るよな。本当は殿様と一緒に常陸へ行きたかったんだけれども、『まだ元服前だから駄目だ』と連れて行って貰えなかったんだよ。悔しいけど駄々を捏ねるほど我が儘じゃないし、孫太郎さんや大きい奥方様(祐子)に習っている武術でも未だ未だ吹っ飛ばされてばかりだから未熟なのは判るんだ。


しかし、こっちへ来て変わった事と言えば、飯が旨いことだよ。小田原は三河や都と違って店がいっぱい有って、色々な物を売っているから、休みにはみんなで買い食いしまくっているんだから。特に魚は旨いし寿司も良いんだよな。


そういった品物の多くが殿様が考案したって言うんだから驚きだ。まあ、尾張で朝日が売っているカステラや餡蜜とかも殿様から教わったわけだから、話に依れば、殿様は各店舗に資金を出して株主って言うものになっているんだって。


まあ、株主といっても判らないんだけど、宿老様(野口刑部)や岩鶴丸の叔父さんなんかが、画期的だといっているのできっと凄い事なんだろうと思う。この前見せて貰ったんだけど、僕には単なる紙切れにしか見えないけど、幻庵様がこれ一枚で百貫の価値が有るって言うんだけど、なんだか、騙されている感じがするんだよな。まあ、殿様が作る物だから嘘じゃないとは思うんだけど、なんか変な感じだ。


まあ、その辺は幻庵様に『お主も大人になれば判る』って言われたから、これから勉強していくんだろうけど、未だに算盤も苦手だし困ったな。けど頑張らなきゃ駄目だ。





永禄元(1558)年八月某日


■相模国西郡小田原 三田笛


極楽浄土のお母様、笛は今、小田原でお婆様(藤乃)、叔母様(妙)・・・・・・お姉さんと一緒にお留守番しています。お姉さんは叔父様(康秀)の奥さんなので叔母さんなんだけど、一度叔母さんって言ったらもの凄く怖い顔で『おねえさんだからね』って言われて漏らしそうになったので、それ以来お姉さんと呼んでいるのです。同じ様に、大きなお姉さんの祐子さん、おっぱいの大きなお姉さんの美鈴さん、ちっこいお姉さんの千代女さんの四人が叔父さんの奥さんです。


他にも、本願寺というお寺の子供で叔父さんの妹だと言う舜姉さんがいるんだけど、家はお寺じゃないんだけどと不思議に思ったら、お婆様が叔父さんが面倒見ているので妹みたいな感じだと教えてくれたけど、それって奥さんとどう違うのかな?


そう思って叔父さんのお友達の孫太郎さんに聞いたら、愛人候補で囲っているって言われたけど、よく判らないので、お姉さんに聞いたら『誰から聞いたの?』と言われたので、孫太郎さんからだと言ったら、それはそれは怖い顔に成って、暫くしたら孫太郎さんが座って頭を下げていました。


『孫太郎、笛に変なことを教えないでください』と言われて『反省していますので、どうか葉殿には内緒で』と謝っていました。お姉さんに孫太郎さんの話を聞いたら、先ほどの話は忘れなさいと、笑顔で言われたので、うんと頷きました。


その後で、聞いたら孫太郎さんは祐子お姉さんの侍女の葉さんが好きなのだそうです。『だから家にしょっちゅう来て食事を強請る』と大きなお姉さんが教えてくれました。


美鈴お姉さんと千代女お姉さんは一緒に遊んでくれるので仲良しです。それにびゅーんと飛び上がって屋根に上がったり、木に登ったり、床下から出てきたりして面白い事をいっぱい教えてくれるのです。


お姉さんたちだけじゃなく、叔父さんの家臣は勝沼にいる人に比べてみんな笑顔で楽しそうです。話を聞いていると、良く判らない言葉なのは、みんなが叔父さんに呼ばれて来たからだって言ってました。


凛ちゃんは叔父さんの一の子分の金次郎さんの奥さんで、すっごくすっごく可愛いし、怒らないので大好きです。それに叔父さんの書いてくれた本を読んでくれるし、お菓子も作ってくれるのです。お姉さんが作ってくれたお菓子は黒こげで美味しくなかったので、今では凛ちゃんと美鈴お姉さんのお菓子が楽しみです。


本は、叔父さんが唐や大秦の物語を元にした。灰被姫シンデレラ髪長姫ラプンツェルとかの虞璃夢グリム童話や人魚姫とかの庵出泉アンデルセン物語とかを読んで貰っているんです。

最近は自分でも読めるようになったので、毎日が楽しいのです。


小田原は勝沼に比べて凄く広くて賑やかで美味しいものが一杯有るんです。お母様にも食べてもらいたかったな。藤乃お婆様はお母様を虐めた鬼婆(綱秀正妻)と全然違って凄く優しくて大好きです。けど勉強は確りさせられるのでその時は少し怖いかも、でもでも、笛は六郎様の奥方になるので、それぐらい出来ないと六郎様に嫌われてしまうので頑張るのです。



永禄元(1558)年八月某日


上野国群馬郡こうずけのくに くるまぐん 箕輪城みのわじょう 長野業政ながの なりまさ



儂の前には五通の書状が並んでいる。

それぞれ、征東大将軍恭仁親王様、古河公方藤氏様、関東管領上杉憲政殿、北條左中将殿、越後守護代長尾景虎殿、正に坂東の縮図とも言える書状だ。


それぞれ、儂に対して今後のことを相談したいと言うものだが、それぞれの性格が出ているのがよく判る文章と言えよう。親王殿下は我らの立ち位置をよく調べている事と元々僧籍にあられたのであるからか『坂東の安寧と民の安定した生活を進めるために是非手を貸して頂きたい』と懇切丁寧な書きようと文章に好感が持てる。


藤氏様は念願叶って公方職に御就かれた事が余程嬉しいのであろう。それが文章に滲み出ている。また、親王殿下と話し合ったのか、同じ様に坂東の安寧を求め手を貸してくれと下手に出ている。あれ程、公方職就任に心血を注いでいた方がだ。変われば変わるものだ。


管領殿は未だに関東の支配者としての矜持があるのか、高圧的な文章だが、所々に帰国したいと言う感じが滲み出てきている。管領殿も里見が管領を名乗ったことによる坂東の勢力の刷新に焦りがあるように見える。


左中将殿は、決して儂に命令するものではなく、まず極々普通に最近の音信などの挨拶をおこない『是非、共に関東静謐にご協力頂きたく御願い申す』と締めている。他国の兇徒と蔑まれた北條家が今では朝廷一の功臣と言われる中で確りとした文であった。


問題は長尾弾正だ。『近日中に関東表へ出馬する故、早々に兵を馳走せよ』だ。もう既に自らが管領を継いだ気になっているようだな。細作によれば、既に自らの為に朱塗り輿の準備もしているそうだ。


それ以外には親王殿下からは儂に従五位下上野介を公方様からは現状を追認する形で西上野の勢力範囲とする半国守護職を認めると印状が来ている。


こうしてみれば、時が流れたのがよく判る、儂も年をとるわけだ。

「ふむ、そろそろ潮時かもしれんな」

「父上如何為さいましたか?」


書状と細作が集めてきた情報を吟味していたが、どうやら声に出ていたようだ。息子が気にしたように儂を見ている。いかんな、独り言を言うとは。


「なに、独り言だ」

「そうでございますか、お声が大きかったのでなんぞあったかと思いました」


ふむ、新五郎も既に十五かそろそろ元服させねば成らぬな、儂ももう六十、何時死んでも可笑しくない、我が長野はここ数代で急激に勢力を広げた故、十二人の娘を近隣に嫁がせたが、儂が死ねば経験の浅い新五郎ではどうなるか、想像しがたい事が起こるかもしれぬ、その様な事が無いように、管領様(上杉憲政)に馳走してきたが、まさか、北條があの様な手を打ってくるとは、儂でも思いつかぬ事だった。


都へ向かい御所の新造、朝廷と公家衆へ荘園の寄贈、更に帝の弟宮を征東大将軍として下向させるとは、それにより公方様(足利晴氏)も左馬頭様(藤氏)を跡継ぎにする事が出来、矛を収め為さった。それに先年の里見が小弓公方の遺児を掲げ自らは関東管領を名乗り鎌倉襲撃を行ったが結局は撃退された。


今まで散々鎌倉や三浦沿岸を焼き討ちされ続けた北條がだ。それにより北條の名は東国に鳴り響いた。今までの様に武力だけではなくだ。朝廷による北條への改姓の詔、征東大将軍府執権、更に公方様との和解により権威的にも侮れない存在になった。


この事で、多くの国衆が北條の門前に馬をつなぐようになった。最近ではあの佐竹すら北條と盟を結ぶという話だ。管領様が越後へ逃れた後、臥薪嘗胆の思いで一刻は北條に頭を下げて管領様が越後勢を連れ戻ってくるのを待っていたが、今では上野から武蔵に到る街道沿いが朝廷の御料所として寄贈された以上は、その地を犯しては朝敵の誹りを得るであろう。


こうなると、越後勢の関東侵攻は非常に微妙になるであろうし、管領様の権威もすっかり黴の生えた物となっていくだけだ。しかも最近は甲斐の武田が頻りに鎌原や小幡に音信をし始めている。あの男の事だ、必ずや上野にも触手を伸ばしてくるはず。儂が健在であれば何のことは無いが、やはり年が問題よ。


それにしても、真田弾正(幸綱)が手を回しているとは、彼のものが逃げてきた際、家族諸共面倒見ていたが、さっさと武田に仕えて此方へ細工してくるとは、たいしたものと言えるかもしれるが、儂としては何とも言えぬが、此方の手の内を知る者が懐に手を入れてくる気がするからの、やはり長野のためには新五郎の烏帽子親を北條左中将に頼むが良いか、しかしな、長尾景虎、相当短気と聞く、下手をすればそれを口実に攻めかかるかも知れぬな、ならば同じ氏でも藤氏様より頂けば、その辺を北條左中将と相談致すか、さすれば、この地も安定する。


「新五郎、そなたの元服を取り行おうと思う」

「父上、やっとでございますか」

「確かにそうだが、今の今まで止めていたのは、儂に迷いがあったからだ、その迷いも消えたわ」


「迷いでございますか」

「そうだ、これを見よ」

儂が親王殿下、公方様よりの書状を見せると、食い入るように読んでいく。


「父上、これは」

「左様だ、上野介、上野半国守護職受ける事に致す」

「おめでとうございます」


「うむ、しかし、これより甲斐の山猿からのちょっかいは減るであろうし、国衆の締め付けも確実に出来るが、管領殿から怨まれるかも知れん。お前もその点を鑑み、切磋琢磨致すように」

「はい」


「殿!」

息子が去って暫くすると、近習が慌てて駆け込んできた。少しは落ち着かんかと思ったが・・・・・・

「どうした?」


「沼田表にて沼田中務大輔殿(顕泰)、嫡男弥七郎殿(朝憲)をお手討ちになりました」

何だと、あそこは親子仲が悪いと聞いていたが、またか、先年には北條に誼を得ていた庶長子左衛門尉三郎殿(憲泰)を誅したばかりであるのに、これは厩橋(厩橋長野家)が黙っておらんな。弥七郎は長野道賢殿の娘婿だからな。


それにしても、我が舅殿(長野業政室は沼田顕泰娘)も血の気が多いのか・・・・・・そういえば道賢殿がぼやいていたが、名主出身の金子(金子泰清)なる者の娘を側室にして生まれた齢七の平八郎を溺愛していると聞いたが、それが原因かも知れぬな。


しかし、沼田が越後寄りになれば甚だ不味い事になる。そうならぬように道賢殿と早急に話し合い、手を打たねば成らんな。


「ご苦労、道賢殿に書状を書く故、早馬の準備を致せ」

「はっ」


うむ、一刻も早くしなければ手遅れになると儂の感が知らせている。

早急に、沼田を押さえねばならんな。


長野業政・・・・・・上杉や長尾より親王がすっき~♪

と、なったかも?


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