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三田一族の意地を見よ  作者: 三田弾正
第伍章 坂東怒濤編
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第百七話 小里城の戦い終結

大変お待たせしました。


アッサリ戦闘が終わりました。


皆様のお陰を持ちまして、4巻が11/25に発売されます。

ありがとうございます。

永禄元(1558)年八月十四日 


■常陸国久慈郡小里城 北方森林地帯 岡吉正


孫六と源佐衛門が五月蠅いほどにがなりあっているが、俺は黙々と的を射貫くだけだ。尤もこんな田舎の兜頸なんぞに興味は無いが、一撃する度に面白いように頸が飛ぶのは見ていて思わずほくそ笑んでしまう。


尤も最初に大鉄炮を狙撃に使うと聞いた時は、三田様のおつむを疑ったぜ。考えてみれば判るが、大鉄炮は八貫程(30kg)もある上に五十匁弾を放つ大物だ。無論装薬も十匁を越える。そんな物を放ったとしても狙撃はまず無理であろうと思ったものだ。


俺だけじゃなく孫六たちも無理だと笑ったが、若手の跳ねっ返りが『俺がやってみる』と放って吹っ飛ばされたからな。それだけで無く、あまりの反動に肩を脱臼して暫く使い物にならなくなった程だ。それでやはりホラ話かと皆が思った。


しかし三田様の考えは俺らの斜め上を行く物だった。それは大鉄砲を鉄製で三十貫(112.5kg)の三脚に固定しそれを更に杭で地面に固定することで強烈な反動を押さえ込むと言うもので、実際に鋳物師、鍛治、木地師の協力で三脚を製作してあったんだから驚きだ。


そこで射場に固定して大鉄炮を放った所、多少は反動があるが肩を壊す程の反動は無く、炮口の跳ねっ返りも少なくて何とか狙えそうな感じがしてきた。


その上、三田様は更に反動減少の秘策を出してきた。それは炮口にそろばん玉のような物を付けて発射瓦斯を拡散させ反動を押さえる部品、三田様曰く炮口制退器と言うらしいものを、ネジ留めで炮口に取りつけ再度試験を行った。最初は半信半疑であったが、放ってみると確かに、そろばん玉が付いていると上下左右への瓦斯の噴射が起こり反動が軽減された。


更に、銃身を覆うように付けられた筒に水を入れ銃身が過熱しないようにするとは、普通の鉄炮では無理だが、三脚により固定されているからこその技だな。


そのうえ大鉄炮は一発放つたびに装填手が内筒に湿った布を巻いた拭い棒で掃除を行い、二人がかりで弾込を行う。だからこそ遠距離狙撃なのにこれ程の精度が保てるのだ。


但し、それだけでは五町越えの狙撃は成功しなかった筈だ、大鉄炮を受け取ってから三ヶ月に渡り小田原郊外の練兵場で鉄炮訓練を行った。最初は流石に俺らでも思うように弾が当たらなかった。しかし三田様がお考えになった有翼弾は安定性が抜群でこれで狙撃精度が抜群に上がった。


それでも、最初は風向き、鉄炮の癖、弾の癖などを知らずに放ってみたので、殆どの弾が明後日の方向へ向かっていったが、猛訓練で全ての癖を知ることが出来たからこそ、遠距離狙撃が可能になったわけだ。


しかし、猛訓練したが、今日までにものに成ったのは、俺、孫六、源左衛門を含めて六人だけとは、つくづくこの大鉄炮が扱い辛い事が判る。何と言っても俺、孫六、源左衛門は兜頸を的確に狙い撃ちできるが、他の三人は未だ未だ未熟のようで、人に当たらずに馬に当たったりもしている。


うむー、これから俺らは鉄炮衆の指揮をする為、狙撃は残りの三人に任せるつもりだったが、見る所、大まかな敵将は斃した様に見えるから、鉄炮衆が攻撃に入ったら狙撃は終わらせる方が良いかもしれないな。下手をすれば味方を斃しかねないからな。うむ、その辺りを三田様に注進してみるか、三田様なら判ってくれるであろう。


それにしても紀伊から雇われて坂東まで来たが、中々面白い日々を送ることが出来て感無量だな。俺らの様な傭兵を三田様は全く差別せずに気さくに馬鹿騒ぎしてくれるし、一緒に練兵までするのだから、しかしあそこまで鉄炮や煙硝に詳しいとは驚きだ。三田様はいったい何処からあの知識を仕入れたのであろうか。


幾らなんでもあれ程の事は我らでも判らぬのに、龍勢などの噴進弾、鉄炮の先端に取りつける銃剣など驚きだ。三田様曰く誰でも気が付くと言われたが、長い間鉄炮を扱っていた俺らでも全く想像出来なかった。


それだけでも興味津々で面白いのに、北條家は今まで雇われた家と段違いの優遇で俺らを迎えてくれた。三田様だけでなく、北條氏康公も俺らを差別すること無く他の家臣同様に遇してくれる。畠山なんぞは俺らを差別しまくりで天と地の差だ。


一緒に来た連中の殆どがこのままこの地に永住すると言っているが、俺もこのままこの地へ骨を埋めようかと思い始めている。


ん、馬の背に隠れながら指揮し始める敵がでたか、無駄なことをするものだ。

それ見ろ、馬なんぞ盾にしても貫通するんだよ。

「フフフフ、流せ流せ赤い血をドクドク流して大地に大輪の血花を咲かしやがれ!」



永禄元(1558)年八月十四日 


■常陸国久慈郡小里城北の森 土橋平尉重治


既に集結し準備万端な配下の鉄炮衆を率いて今も狙撃が行われている前方の戦場へ向かう。あれだけのものを見せられた配下の連中だが至って元気で、臆する所を知らないようだ。


それにしても孫六や源佐衛門はあれだけの巨大な大鉄炮を易々と扱い兜頸を取りまくっているが、悔しいが俺にはどう足掻いても真似できない。


しかし、それでも良いと思える程のこの戦場は狩り場と化す事が沸々と感じられる。

何故なら既に敵は大鉄炮の狙撃で主将や組頭などが軒並み討ち取られ、小頭らしき連中が右往左往しながら此方の狙撃場所を探しているが、少しでも指揮をする素振りを見せた者は大鉄炮の餌食に成っていく。


それにより敵は完全に烏合の衆になりつつ有り、これから進撃する我らは据物斬りと言える状態になるだろうからだ。その為に、配下の連中もニヤリと笑う連中が殆どだ。

我々にしてみれば、武士の連中が言うような矜持だの名誉だのは殆ど関係無いからな、敵をうち倒す只それだけだ。


それに名誉の死なんぞちゃんちゃらおかしいからな、生きてなんぼの世の中よ。放ちまくって放ちまくって、敵を倒して終わったら酒と女でどんちゃん騒ぎが楽しみだからな。


さて、進撃喇叭が鳴り響いたな、三田様が決めた仕来りだが、鉄炮を放っていても聞き取れるから指揮を取るのに非常に役に立つからな。


さて、さっさと終わらせるぞ。

「野郎共、進撃だ!」



永禄元(1558)年八月十四日 


■常陸国久慈郡小里城下  久下くげ小四郎こしろう秀光ひでみつ


戦は殿の率いる鉄炮衆の活躍で早々に指揮する者を失った敵は右往左往し、御味方がアッサリと主導権を握り、大藤様、松田様、奥方様(井伊祐子)が残敵掃討を行うと僅か半時程で敵は降伏した。


戦は我らが決死に鎗を振るう事も無く終わったが、戦場を見れば見る程、恐ろしいと思ってしまう。二千ほどいた敵兵で無事な者は殆どおらず。戦場には多くの兵が倒れ伏し呻き声を上げている。ハッキリ言ってこれが地獄と言われれば信じてしまいそうな阿鼻叫喚が目の前に広がっている。


よく見れば、所々に人の手足や胴体がバラバラになって飛び散り、脳や贓物も飛び散りまくり、辺り一面に血溜まりが出来ている。戦に慣れていない若い連中は驚きおののき、完全に腰が引けてしまっている。中には真っ青な顔をして吐きまくる者もいる程だ。仕方ない事だな、元々殆どの連中が新参者だ。実戦経験がある俺などもで眉を顰めそうになる状態なのだから、初陣の者はつらい事が判る。


それにしても俺のように家も継げず所領の分封も受けられず、三十過ぎても嫁も貰えず。普段は実家の片隅の掘っ立て小屋で寝起きし、家の田畑を耕し、戦となれば先頭で突っ込まねば成らず、偶に手に入れた恩賞の殆どを家に取られてしまい、邪魔者か消耗品扱いの零細領主の三男が、今では長槍衆を任されることになったのだ。今まで泥にまみれ石にかじりついて来た甲斐があったと言う事だ。


無論、俺だけでは無く、同じ境遇でやる気のある連中は殿が新たな所領を与えられた際に、宿老の野口刑部殿が大殿(三田綱秀)との話し合いをして、我らのような境遇の者に触れを出してくれた。我らはそれを知りこれで一家が持てると喜び次々に応募した。


小田原へ三々五々向かったのは三田領内の者だけではなく、三田家に繋がりの有る近隣の者たちも集まり結果的に百名程が適性試験なるものを受けて、それぞれ得意な分野に配属された。


俺は鎗については自信があった為、槍術で身を立てようと試験を受け見事合格し、野口殿に次いで宿老としての地位、所領として七十貫の地、それに鎗衆を纏める役を賜った。更に、野口殿の御次女光殿を嫁とする事も出来たのだ。俺は三十男、光殿は未だ十六だが、嫌がる素振りも無く献身的に俺をたててくれる。良い嫁を貰えた。これ程嬉しい事は無いぞ。


同郷(成木村)の宮寺与八郎は勘定方に抜擢され野口殿の長女吉殿を娶った。まあ与八郎の実家は宿老家で殿の幼なじみの一人であるからこその婚姻だが、俺は実力で殿と野口殿に認められた訳だ。


しかしこの戦場を見る限りこれからの戦で我らのような武士は時代遅れなのだろうかと思ってしまうが、鎗で活躍している松田様を見れば未だ未だ捨てたものでは無いと思うことも出来る。

それに、殿は色々しでかしてくれて一緒にいても退屈せずにいられる。



永禄元(1558)年八月十四日 


■常陸国久慈郡小里城下 三田康秀


意外な程にアッサリと戦闘は終わった。

何と言っても、狙撃部隊が田村勢の主立った指揮官を殺しまくって指揮系統が乱れた所で、こちら側が森から現れたので、生き残りの指揮官や小頭がてんでばらばらに攻撃しようとしてくるのを、土橋重治率いる鉄炮衆が三段撃ちで撃退したのだから。


正にあっという間に二千を越えた敵兵は、まるでマリアナ沖の七面鳥狩り状態で壊滅した。見ていて哀れを感じたが、敵に情けをかけるのは愚の骨頂だから、最終的に敵が得物を捨て降伏するまで俺は鉄炮を撃ちまくらせ、大藤殿と孫太郎は鎗を振るい、直虎さんは弓を引き絞った。 


情けをかけて攻撃を手加減すれば此方の将兵を危険に晒すからだ、この世界では戦場で武士の情けなどしていては命取りになりかねないのだから、朝倉宗滴が言ったように『武者は犬ともいへ、畜生ともいへ、勝つことが本にて候』と言うから、たたける時にたたいておかないとだよな。


本来ならば武士の矜持とか、必要なんだろうけど、それは総大将が持つべきで我らのような前線指揮官はただ敵を倒すのみで行くしか無い。それに戊申戦争時の官軍のように無慈悲に虐殺とかしているわけ訳ではないし、捕虜も取って負傷者はチャンと手当させているから。


それにしても、大鉄炮による狙撃と、鉄砲三段撃ちがここまで凄いとは思わなかった。元の世界では長篠の戦いで織田勢が行った三段撃ちは実在しなかったって言う学説が有力だが、この世界では1575年より十七年も早く行われた訳で、これは史実として記録に残るだろうな。それとも、野史の扱いで又ぞろ否定されるかも、まあそうならないように、氏康殿と義重殿に御願いしてたんまり感状をだして貰わなきゃだな。


何と言っても、当主田村隆顕をはじめとして多数の宿老、国衆などを討ち取ったのだから。隆顕の嫡男清顕と軍配者の田村月斎が降伏しなければ恐らく全滅しただろう。月斎は死んだ隆顕の叔父に当たるそうで、兵の命を救うために降伏したそうだ。彼らは自分らの頸を差し出すので生き残りの兵を助けて欲しいと言ってきた。立派な心がけだと感心した。大藤殿も同じ様で、捕縛するだけで済ましている。


二人の命運はどうなるか判らないが、佐竹殿次第だな。佐竹殿も毒を盛った岩城には怒り心頭だろうが、手伝い戦の田村勢までは皆殺しにはしないだろう。


しかし、現実逃避はそろそろ終わりにしないと駄目だ。

戦場を眺めると、正に阿鼻叫喚、血の池地獄状態だ。

隣りに来ている直虎さん、千代女、美鈴は平然と戦場を見ているが、それでも眉間に皺を寄せながら見ているので思う所が有るのだろう。


幹部候補生で、今のところは俺の馬廻りをしている満五郎(藤橋秀基)や兵庫介(加治秀成)は手傷を負った訳でも無いが真っ青な顔で地面にへたり込んで吐きまくっている。同じ様に何百もの将兵がへたり込んで吐きまくり辺り一面は、敵の流した血潮の匂いと呻き声が聞こえ、味方の嘔吐臭と『ゲーゲー』の音が聞こえ、宿老見習いになった金次郎(野口秀房)でさえ青い顔をしている。


彼らは初陣だからこそ、初めての戦場がこんなロマンの欠片も無いような大量虐殺現場じゃ、心が折れるよな。けど俺も初陣なんだが、血の臭いと死臭と死骸から垂れ流される糞尿、吐かれた酸っぱ臭いを嗅いでも気分が悪くならずに、もの凄く平静にいられるんだよな。


別に俺は変態趣味が有るわけでもないんだが・・・・・・んー、やはり都で散々新鮮な死体から腐乱死体まで片付けて来たのと、鈴鹿峠の襲撃でのトリガーハッピー状態で慣れたのか、それともゲームや映画の世界のように感じるのか、はたまた主将の一人としての矜持なのか知らんが、何故か何故か、見れば見る程冷静になってきている。


それにしても、信号喇叭は役に立ったな。あれのお蔭で鉄炮を撃っている最中でもある程度まで指揮系統を纏めることが出来たのだから、いやー、前世でトランペットやっておいて良かったわ。あれのお蔭である程度まで喇叭の構造を鍛冶や鋳物師に教えて製造して貰えたんだからな。


しかし、最初は名作史上最大の作戦のイギリス陸軍のハイランダーズの様にバグパイプを使いたかったんだが、あれは流石に構造が判らないから諦めたんだよな。


喇叭が出来たので今度はギターやバイオリンを製作して貰っている。本当ならストラディヴァリウスとかが欲しいんだが、何時の時代の人だっけ? 今有るなら輸入したいものだな。


さて、此から今宮殿と会談だ、早く場を整えないと駄目だな。



現在リアルで複数の事案が有るため、感想返しは暫しお待ち下さい。

誤字などの修正も暫し遅れる予定ですが、よろしくお願いいたします。

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