第百五話 小里救援前哨戦
お待たせ致しました。
やっと完成しました。
4巻の方もゲラが帰って来るので修正開始です。
戦闘シーンを改訂しました。
永禄元(1558)年八月十四日 卯の刻(午前7時)
■常陸国久慈郡小妻 妙見山山麓 大藤秀信
小里城からの使い・・・・・・使いと言って良いのか少々疑問だが、今永殿の息女は山伏姿で現れた。我々(根来衆)も変装は行うので変には思わなかったが、話を聞けば聞くほど、独断専行という言葉が当てはまる人だと判った。
無論、我ら足軽衆は臨機応変が身上であるものの、戦はじゃじゃ馬姫の遊びではないのだと思ったが、姫の持ってきた敵情、地形、荷駄の位置などが的確に調べられた情報で是はと唸りを上げそうになった。そこで風魔衆の調べで急遽作成した地図に姫がもたらした情報を書き込んでいく。勝姫は地図の正確さに目を見張っていた。一通り書き込みが終わると、軍議が始まるが勝姫も参加の意向を示した。
軍議である以上、全ての備え指揮官が集まるがその者たちは姫を知らぬ者ばかりであるから、俺が紹介することにした。
「皆ご苦労、先ずは軍議に先立ち、この方を紹介しよう。小里城主今宮永義殿の御息女勝姫殿だ。姫には敵情を知らせに来て貰った」
「小里城主今宮永義の娘勝と申します。この度の増援、真に忝く存じます」
深窓の姫君を匂わすような笑みと優雅な立ち居振る舞いに騙される者が続出しそうだ。
俺も、先に話していなければ騙される所だった。
姫の姿にすっかり鼻の下を伸ばした連中は・・・・・・
おい、息子よお前もか。
まあ、それは置いておこう、それにしても、この地図もだが、典厩殿のお作りになった物は、野戦糧食に各種装備、戦術教本など、我らの戦いに大いに役に立つものだ。典厩殿は御本城様と幻庵様の秘蔵っ子であられ、御本城様の婿でもある。
そして、御本城様、幻庵様御自ら手塩にかけて育てられたお方、他国者で傭兵出身の我らと違いなんと恵まれた境遇よと妬んだりもしたが、最初にお目にかかった際に気さくに挨拶してくれたことも驚きだが、亡き父上の戦話を知っており、その働きを絶賛してくれてからは親しくさせて貰っている。
それに、貴公子らしからぬ言動と働きで大いに楽しませてくれている。特に我らの様な足軽衆は戦い方が胡乱であるが故に、風魔同様軽く見られる事も有ったが、典厩殿が化里羅戦、敵を化かし野里を使い、阿修羅の如く戦うの簡略らしいが、それの達人と賞賛してくれた。それだけでは無く、唐の国や南蛮における化里羅戦教本を寄贈して頂いた事で、今まで以上に戦の仕方が進んだのだから。
それに最近では古里から多くの根来衆、雑賀衆を引き連れて来てくれたことで、久しぶりに亡き親父殿を知る旧知の者たちと会うことも出来、更に新式鉄炮などを手に入れる事も出来たのだから、是で益々戦働きしやすくなった。典厩殿感謝致しますぞ。
永禄元(1558)年八月十四日 卯の刻(午前7時)
■常陸国久慈郡小妻 妙見山山麓 今宮勝
城で矢作りなどで戦場に出して貰えずにいたところ、御屋形様よりの援軍が来ていると盗み聞きして親父に黙ってコッソリ繋ぎを付けようと抜け穴から外へ出て進んでいたら、お付きの摩耶が血相変えて現れた。やっぱり睨んだ通り摩耶は乱破だったようだ。その事を指摘すると、仕方なさそうに肯定したのが可笑しかった。
摩耶は『直ぐに城にお帰り下さい』と言うから「このまま戻ったら敵に見つかりかねない」と説得したが、やはりここまで来て正解だった。何と言っても話には聞いていたが御屋形様は本気で北條家との盟約を結んだようだ。旗が少ないのは気になったが、聞けば修験の道を駆け抜けてきたから旗は殆ど置いてきたそうで、名誉より救援を重要視していることに好感が持てた。
まあコッソリ来たことを知られて治平に怒られたがここの大将、大藤殿に許可を受けて軍議に参加したが、驚きの連続だった。北條方の乱破、風魔と言うそうだが、彼らが持ち寄った報告をテキパキと絵図面に書き込んでいくがそれがあまりにも正確で驚いてしまった。
是ほどの情報収集力は今宮衆でも難しいと思う、御屋形様が北條家と盟約を結んだのも判る気がする。
それにしても、兵たちの姿や持つ得物が見たことも無い様な物が多くて興味を持てる。十字型の鎗もそうだがあれ程の鉄炮が有るとは驚いた。それにあの大人の身長ほどのでかい鉄炮はなんだい。
それに、兵が無駄話もしないで黙々と飯を食っているのが驚きだ、うちの衆でも雑談で騒がしいのが是だけ静かだと不気味なぐらいだが、それだけ練度が高いと言うことなのだろう。
さて出発のようだ、是から父上たちを助けるんだから、気が逸るが私と摩耶と治平だけじゃどうにもならないから、大藤殿宜しく頼むよ。
永禄元(1558)年八月十四日 卯の刻(午前7時)
■常陸国久慈郡小妻 妙見山山麓 三田康秀
さて、何処かで見たようなじゃじゃ馬姫の登場で驚いたが、戦場の情勢が判ったから良しとしておこう。その勝姫はお付きの摩耶ともに大将の大藤殿の所で預かる事になったのは良かった。だって、自分で言うのも何だが、何処ぞの小説じゃ有るまいし、新キャラ登場でドタバタ喜劇と惚れられて嫁が増えるとかもう嫌だもん、それに勝姫には地雷臭がしまくっている。敢えて言おう、千代女と美鈴の様な感じがするんだよ。
ん? またかよ、満五郎(藤橋満五郎秀基)がじゃじゃ馬姫を見ながら惚けていやがる、お前は直ぐに惚れまくるからな、京都でもそうだし美鈴にも酷い目に遭ったのを忘れているんだよな。全く以て恋愛に関しては鳥頭だからな。全くそろそろ身を固めさせなきゃならないんだが、良い子がいないんだよ。
それはさておき、勝姫が持ってきた敵情により作戦が決った。
ここから、山麓北麓を一気に下り、情報では、行石村には伊達勢の荷駄が屯してるとの事で、先ずそれを撃破し、その後、城の北側から田村勢の陣を攻撃する方法を取る事になった。
付近の村人は既に西側山頂へ逃げこんで無人状態で、通過にはなんら障害にはならないそうだ。確かに、敵軍が来た村々は略奪放火暴行強姦されるから山に作った村の避難所へ逃げるのが普通だからな。
永禄元(1558)年八月十四日 辰の刻(午前9時)
■常陸国久慈郡行石 三田康秀
妙見山から四里(2.6km)を一気に下り行石村を眺める位置に到着すると、情報通りだらしなく屯する荷駄が見える。
北條家と違いこの時代は兵站の考えが薄いために輜重兵を編成せずに荷駄などは徴発された農民たちが自らの農耕馬を連れて参加しているために、監視を怠れば荷駄を持ったまま逃げ出すのが必定、その為に荷駄奉行などがある程度の兵を持って監視している。
その為、一度攻め込められれば農民たちは自らの馬を護るために慌てて逃げるのが普通だ。まあ農民を殺すのも酷なのと、できる限り恐怖を伊達領に伝える為に、監視部隊は鏖殺するが、農民は殺さず散らす事にした。
その為、先頭にはゲリラ戦の名手大藤殿の足軽衆から選抜したスタッフスリングを使う兵たち、スタッフスリングとは長棒の先に球を投げだす網を付けた物で、言って見ればラクロスの様な感じで導火線式の爆弾などを投げるわけだが、今回は非殺傷兵器として胡椒、唐辛子などの刺激する物を入れた物を用意してあって、それを大藤殿の長男与七殿が指揮することになった。
隠れながら観察していると、小里城のある南方から天空に上がる龍勢の姿が見え、それと同時に風に乗って爆発音や喊声が聞こえはじめた。その音と龍勢を見た荷駄隊は何が起こったのかと慌てているようで、農民達が騒ぎだしそれを監視隊ががなりたてている。暫くすると、監視隊から一騎が小里城の方へ駆けていった。
此方がじゃじゃ馬姫と話して決め、小里城に風魔と修験者に搬入させた龍勢で攻撃時期を知らせ、焙烙玉などで攻撃してもらう事で敵軍の注意をひく事は成功したようだ。
これで、此方が少々の音を出しても田村勢は気づくこと無くいけるであろう。
先ほどの騎馬も途中で始末する為に風魔衆でも腕利きが隠れているからな。
迂回した我々が森から突然現れると、荷駄の連中が驚きの顔で騒ぎ出した。
監視部隊の連中は戦線後方でダレて鎧すら着ておらず、先ほどの爆発音などで慌てて鎧などの支度をしていたが間に合わずに、鎧下だけで鎗や弓を持ち始めた。
しかしそれを目聡く見つけた直虎さん指揮の弓衆が狙い澄まして狙撃していく。
「良いか、逃げる兵は卑怯ものだ射尽くせ! 逃げない兵は訓練された兵だ射尽くせ! 敵兵は全て射尽くせ!」
「「「「「「「おう!!」」」」」」」
直虎さん・・・・・俺が前に書いた小説から取った台詞を言っているんだが、見てみりゃ直虎さんの姿が映えすぎてなまじ似合うから、何とも言えない状態に、その為なのか、兵たちが凄いほどの命中率になっているわけで、えーと、直虎さん、扇動家の目もあるかも?
そんな中、先頭の大藤勢が勢いよく胡椒弾、唐辛子弾を投げ付けると、狙い澄ましたように殆どの弾が敵の頭上やど真ん中で爆発し胡椒や唐辛子の粉末が飛び散ると『クシャン』『ゲホゲホ』『ウギャー』『目が目が!』とか言う声が聞こえはじめるし、更に馬が刺激臭により暴れはじめ大騒ぎになってきた。
弓隊に射られ混乱しながらも、僅かな敵兵はこっちへ突っ込んでくるが殆ど孫太郎の部隊が仕留めていく。
俺が指揮する鉄炮隊は銃剣を付けて準備していたが、狙撃する事も無く、ほんの少数を刺殺するだけですんでいる。何と言っても殆どの敵兵は非殺傷兵器により戦闘不能だし、残りは直虎さんたちが射貫くし、俺は完全に暇な状態で全体を見ている。
ここで潰しても二里(1.3km)先には二千の敵がいるわけで、軽いウォーミングアップと言えるから、ここで時間を使うわけには行かないからな。
結果的に、僅か小半時(30分)も掛からずに僅か二百程度の敵兵は全滅した。逃げおおせた敵は皆無だった。何故なら周りには風魔衆が目聡く監視し逃げようとする兵は全て始末したからだ。その後、荷駄衆は皆で囲んでから代表者としての村長に命じた。
「お前が村長か?」
「へい、命ばかりはお助けを」
懇願する村長と一千人近い農民を前に大藤殿が宣言した。
「民百姓は国の宝と言う、それが例え他国であってもだ。お主らを監視していた兵どもは全て斃した。お主ら、暫くはこの地で待機せよ。二刻ほどすれば解放する故、その後は荷と馬を持って村へ帰れ」
大藤殿の言葉を聞いて、村長が驚いている。
「では、帰して頂けるのですか?」
そりゃそうだ、普通なら彼らは虐殺されるか、捕虜として奴隷売買にあうか、良くても馬は取り上げられるのが、命も助かり馬も取り上げられず、それどころか荷駄の兵糧まで持って帰って良いと言っているのだから。
「無論だ、北條家に二言は無い、北條は初代早雲公以来、民百姓を大事にするのでな、もしそなたらが在所で無体な目に会ったなら北條家を頼るが良いぞ」
「ありがとうございますだ」
農民たちは頭を下げ、神仏を拝むように有り難がりながら監視のために残る、輜重兵達と共に、死体の片付けをし始めた。
我々は敵兵の頸すらとらずに、僅かな時間で地下足袋も新しい物に変え再戦の準備を終えると、一気に田村勢と決戦する為に一路南下しはじめた。
兵の士気も高まり足取りは軽く進んでいくんだが、殆ど活躍出来なかった鎗隊の孫太郎や鉄炮衆の孫六たちはフラストレーションが溜まりまくっているみたいだな。まあ、今は我慢してくれ、次の接敵は小半時(30分)程後だし。
それに、じゃじゃ馬姫が来た後に到着した本当の使者に小里城との繋ぎを頼み、荷駄隊襲撃と同時に小里城に反撃させ、注意を城に向かわせた事で、敵の田村勢は小里城からの猛反撃に驚き右往左往している様で、今のところは荷駄達が撃滅されたことを全く察知していないようだ。
何故なら、動きが判る西側山頂から街道周辺を通り東側山頂までは風魔衆が五里(3.3km)を五十人の横隊状態で胡乱な連中を狩り出しながら進んでいるためだ。その為に風魔衆を急遽呼び寄せたほどだから。
それにしても、荷駄隊との戦闘では、あれだけ持ってきた火薬を使うほどではなかったからな、今度の田村勢との戦いに使うか、それとも伊達勢に使うかだが、伊達勢と対峙している氏康殿と坂東太郎殿の戦い次第だがどうなるかだな。
戦闘シーンが未だ少しで申し訳ないで、次回が田村勢との戦闘です。