ブックリスト登録機能を使うには ログインユーザー登録が必要です。
4th 頭上注意の通学路
――― 以上回想終了。

(って、そんな呑気なことやってる場合じゃない!)

取り出したケータイのショートカットメニューから、ミラーを選択。画面が鏡になったことを確認してから、鏡面に手を触れる。と同時に背筋を駆け抜けるゾクゾクする快感とはほど遠い感覚。自らの深層心理の奥にある巨大ななにかと繋がる感触。これが、僕の本質。無意識下の方向性。自らの境界線を限り無く磨り減らすもの。それは…
『鏡』。

「出ろ!鉄杭3つ!」

叫ぶと同時に屈み込み、ケータイごと右手を地面に落とす。
その直後、身体からなにかが抜ける異様な感覚と引き換えにコンクリートの道路から鉄の柱が僕を中心に三角形を描くように伸び上がり、氷塊に刺さってそれを支えた。しかしその重量を支えるには鉄杭は細すぎたらしく、ミシミシと悲鳴をあげながら変形していく。つまりは、僕に迫る危機は全く去っていない。けれどそこには、僕以外もいる。

「方鐘っ!小刀1本出せ!」

そう。ここには僕の監視監督人にして風紀委員1年生期待のホープ(親の立場ではなく個人の能力の面で)、月島貴弘がいるのだ。

「了解!それっ!」

もう一度鏡に手を触れて今度は画面から直接引っ張り出す。取り出したのは白木の柄を持った刃渡り20cmほどの抜き身の小刀。ヤ○ザ風に言えばドス。それをそのまま月島に投げる。その下手をすると自分を切るかもしれない刃をあっさり月島は捕まえて、スピンオフを発動する。そして、高々と自らの能力を宣言した。

「『雷電双手』(スイッチサンダー)っ!」

まるでそれが本当にスイッチだったかのように、いきなり月島の両手が光りだす。それはぼんやりとした光ではなく、明らかに流れをもって蠢動し、小刀に纏わりついて玉鋼を赤熱させる。
『電流』。
それが月島の原型だ。
そのまま月島は僕の元に走り込んで氷塊をあっさり切り裂いた。

「ふいー。危なかったな。方鐘。」

「助かったよ。僕だけじゃ逃げるだけで精一杯だった。」

というと月島は笑って、

「逃げられたら上々だよ。普通パニクるってのにお前は冷静だし。上々だよ、『愚者の贋作』(フールメイカー)。」

「いや〜。頭の中真っ白でとっさにやってた。月島の声で気が付いたもん。」

僕達能力者でも、まれに『原型』に引きずられて暴走してしまう人がいる。これを防ぐため、それぞれ能力を使う時にある規定の動作をするように指定されている。月島は能力の名前(自分で決めたらしい)を言う、僕は鏡もしくはそれに準ずるものに触れる、だ。

「へいへい。おだてるのはそれくらいな。まぁとりあえず無事だったのでよし!」

「あ、アバウトだね…」

思わず苦笑してしまった。

「で、だ。」

「うん。」

「とりあえず原因はなんだ。つーか誰だ。よし探すぞ。」

「そ、そんな無茶な!学校遅刻するよ!」

すかさず反論してみる。

「月島は風紀委員だからいいけど、僕は一般生徒なんだから!遅刻したら木之本先生に怒られるって!」

と叫ぶと、月島はニヤリと笑って、

「なら協力の名目でいいか?とりあえず急げ。犯人は近いぞ!」

「人の話をきけ!僕の意見ミリ単位も残ってないし!」

ヤケに強引な月島をどうにか抑えつつ、また降ってこないだろうなと空を見上げた瞬間、思わず呟いた。

「……何あれ。」

月島が怪訝そうな顔で振り返り、どうしたよと声をかけてくる。僕が上を指差したのを見て、空を見上げた月島も思わず呟いていた。

「……き、巨人…か?」

そこには、まるで首都電波タワーのようなものがつっ立っていた。しかしよく見ると、ちゃんと腕と足がある。そして何より重要なのは、

「氷でできてるね…」

春先の陽光を受けてキラキラ輝く氷の巨人。悪夢以外の何者でもない。っていうか怖い。

「さっきの奴はあれの一部か。しっかしなんでまた」

「あ、腕落ちた。」

いきなり黒いなにかが纏わりついたかと思うと、綺麗な切断面をさらして右腕が落ちた。

「あー!俺の実家らへんだあそこ!」

「落ち着け。見てみなよ」

「ん?なんかが落ちる腕に絡み付くぞ?」

その月島の言葉通りにさっきと同じ黒いなにかが落ちていく腕を捕まえてさらにこま切れにする。

「一体誰のスピンオフなんだ…?あんなの見たことないぞ」

月島がまるで独り言のように呟く。月島はその立場から遠野市を出たことがない。その月島がみたことないというなら…

「転校生?」

「いや、そんな話は…あ!」
いきなり月島が何か思い出したように声を上げた。

「ど、どうした」

「A・Aだ。黒川副会長の」

「アドバンス・アビリティ?あの、10万人に一人しか使えないっていう?」

それは、いうなれば原型に近い素質を持って生まれ、さらにそれを開花、制御した人だけが使う、
「より原型に近い」能力。とんでもない集中力と恐ろしいほどの体力を使って行使する規格外のスピンオフ。
ゆえに、過拡張能力アドバンス・アビリティと呼ばれている。

「ふーん…うちの学校の副会長、使えるんだ。」

「…なんかあんまり驚いてないな。普通スゲーと思わないか?」

「別に…能力に制限かかってる僕にしたらほかの人と変わらないし。怖いだけだよ。」

「あー、お前は緊急時以外使えないからな。この覚醒者だらけの町で唯一無能力みたいなわけか。」

一応犯罪者な僕は緊急時以外は能力を使ってはいけないというハンデを負っている。偉い人によると無能力となって被害者の気分になれば反省意欲がなんたら、らしい。

「ちなみに、会長も使えるらしいぜ。」

「…いつから生徒会は風紀委員まで兼ね備えるようになったのさ?」

「さあね?」

よく知らない、という顔をして月島が話を打ち切った。
そしてその日、僕は生徒会に呼ばれることになる。……悪い意味で。


+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。