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2nd 平穏な一日の始まり
夢を、見ていたらしい。目覚めてまず始めに、そう思った。けれども夢の内容はあやふやでほとんどと言っていいほど覚えていない。ただ、唯一残っていたのは、おぞましいまでの恐怖感。まるで実際に体験したかのように印象だけが強く残っていた。

「くぁ…ふわぁ。」

と呑気な欠伸をしながら眼鏡と青緑色の箱のペンダントを身に着けて大きく伸びをする。これが僕、方鐘恭一かたがねきょういちの朝だった。

まだ眠い身体を引きずってベッドから出ると、とりあえずケータイを取り出す。時間はちょうど7時を指した頃だった。

「やっぱり、誰もいないか。」

となんとなく呟いた。そう。現在僕は一人暮らしなのだ。
とりあえず学校へ行く準備を済ませると、台所へ立つ。弁当を昨日の残り物から適当に選んで詰め込んだ。ちなみにほとんど自炊している。たまにコンビニ。一人暮らしなのだから仕方ないだろう。

(なんか主夫だよね、こういうの。)

まぁ出来るのが料理だけだからそういうのもおこがましいか、と思いつつ、学校用具をカバンに突っ込んだ。
カンカンカン、と金属音をたてながら螺旋階段を降りる。天気は晴れで春先にふさわしいといえる天気だった。

(あ、鍵かけたっけ?)

と思って振り返ると、桜色の花びらとともに浮かぶ桜庭荘の文字。これが僕の住むマンションである。ちなみに305号室在住。ここから学校まで直接行けばだいたい20分だが、いつも用事があるので早めに出る。この用事、20分もかかるくせに外せないものなのでかなり大変だ。しかし、これをしないと義務違反になるのでしないとさらに大変なことになるのだが。

(しかし、もうちょっとこの時間を上手く使えないかなぁ?)

などと思いつつてくてくと歩いていくと、いきなり足が思いっ切り滑ってコケた。

「あいたた…なんだこれ」

派手に打った頭の痛みをこらえて立ち上がってみると、アスファルトの道路がみごとにワックスがけされていた。テカテカと光っている。
うわ、と思わず呟いてから、いつものことか、と思い直す。こんなのはここ、遠野市では珍しいことではない。なにしろここは月島学園がある特区なのだ。ほとんど全員が原型を発現している以上、並大抵のことは起きてもおかしくない。

(ワックス、ってことは『樹脂』か『潤滑』の原型かな?まぁ、ほっといても『修繕』か『逆行』の原型が直すか。)

と、今度は滑らないように気をつけて歩いていくとかなり大きな建物に着く。これが目的の建物、大月寮。なにせ大理石に金字で書いてあるのだ。間違いない。
ふと見上げると、見知った友人が壁を歩いて降りてくるところだった。声をかけようとすると向こうも気付いたようで先に声をかけてきた。

「おっす!方鐘か!」

「おはよう、三上。」

月島は起きてる?と聞こうとした瞬間、いきなり三上の横から凄まじい爆音とともに人影が学校へ飛んでいった。さすがに近くにいただからだろうか、『粘着』の三上も驚いて思わず壁から足を離してしまったらしく、下まで落ちてきた。慌てて駆け寄ると、三上は平気そうに飛んでいった人影にキレていた。

「この野郎!もちっと周りに配慮して飛べや!」

「というか、アレは誰?あんなの初めて見たけど…」

「ああ、アレは多分東あずまだな。『飛翔』かなんかだって聞いたことがある。」

「なるほど」

つまり、こういうのが僕を含む『突発性原型覚醒型機能拡張症』患者…つまり異能者が持つ異能力である。道にかかってたワックスもそうだろう。
覚醒者はそれぞれ個人の魂の形、つまり『原型』を得て、それに応じた力を手に入れることになる。例えば『飛翔』なら文字通り空を飛ぶ。けれどそれも個人個人でさらに違いがあり、東のように自分を猛スピードで飛ばす人もいれば、逆にほかの物を飛ばす人もいる。つまりたとえ同じ『原型』を発現しても能力にはバラつきがあり『原型』自体も現在見付かっただけで3ケタを数えている。まさに個人個人で変わる力というわけだ。発見されて10年たった今では、発現者は『原型』と『同じ』の『位』を持つ者…『同位体』(アイソトープ)と呼ばれている。

「でもあれじゃあ、風紀委員ジャッジメントに捕まるんじゃないかな?スピード違反で」

「知らん。上手くするんじゃないか?」

「どうだろうね。そうそう、月島起きてる?」

と聞くと三上は苦笑して、

「東の立てた轟音があったけど…怪しいな。まだ寝てるかも。」

「あ、あれで起きないんだ…ま、まぁ頑張ってみるよ。」

まさに飛行機が飛び立つくらいの轟音だったのだが。

「あいよ。しっかし、お前も大変だな。知ってるか?お前らクラスでひっそりホモ疑惑かかってるんだぜ」

「いやいや、そういうわけじゃないんだからね」

全力で否定する。冗談じゃない。

「とにかく、僕と月島はそういうのじゃないから!」

「はいはい、分かった分かった。んじゃな」

そう言って三上は走っていった。さて、僕は僕の仕事をしないと。
とりあえず僕は寮に入った。


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