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異世界に響け!私とあなたの二重奏-分かたれし魂の共鳴- 作者:夜野うさぎ

第四章 波に揺られて ー海洋王国ルーネシア編ー

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【書き直し】ベルトニア街道を行く

2015.11.27 差し替え
 どこまでも広がる青空の下、俺たちは馬車を護衛しながら街道を歩いている。

 「それにしても元気そうでよかったわ」

 御者台ぎょしゃだいのイリーシャさんが、脇を歩く俺にそう言った。
 獅子の月――八番目の月――になって、ますます気温が上がり、季節は夏真っ盛りだ。
 この街道は、エストリア王国交易都市アルと港湾都市ベルトニアをつなぐ街道で、通称ベルトニア街道という。
 護衛には、ティオとラルフのオリバ兄弟も一緒だ。
 思えばこの三人には、俺がこの世界に来て右も左もわからないころにお世話になった。この人たちがいなければ、俺は街にすら入れなかったのかも知れない。本当に困っている時に助けられたことを忘れはしないよ。
 オリバ兄弟もここ一年の間にスキルを磨き、剣術がレベル3にあがり、体術レベル3も取得している。
 オリバ兄弟は馬車を挟んで反対側を歩いている。もちろん俺の仲間たち――隠者の弟子ノルンに、聖女の弟子ヘレン、ネコマタのサクラに竜人族のシエラも、それぞれ馬車の周りを歩いている。上空ではフェニックスのフェリシアが警戒しており、万全な護衛体制となっている。

 俺は隣のイリーシャさんに、
 「イリーシャさんも元気そうでなによりですよ。……あの時は本当にお世話になって、ありがとうございます」と言うと、
 イリーシャさんは、
 「こっちだって命を助けられたのよ?」
と笑った。イリーシャさんは俺の後ろを歩くノルンたちを見ながら、
 「それにしても、あんなに美人ばかりよく仲間にできたわね」
 「ええ、自分にはもったいない女性たちばかりです」
 「ふふふ。今まで何があったのか、今度教えてね?」
とイリーシャさんがどう猛な笑みを浮かべるが、俺が何か言う前にイリーシャさんは何かを思いついたようで、
 「ああ。あなたにじゃなくて彼女たちに聞いた方が面白そうね」と言い、「今晩は女子会かな?」とつぶやいた。
 それを聞きながら、ノルンたちが何を言うか不安になるが、まあ……心配してもどうにもならないか。
 そう思い返して、黙って苦笑して返した。
 ふと視界の端に青い宝石のはまった指輪が見えた。
 「そういえば、前もその指輪してましたね」
と言うと、イリーシャさんはその指輪を太陽にかざし、
 「これ? 私の母さんのものよ」
 「あっ。すみません。込み入ったことをきいちゃって」
 「いや、別にいいのよ。……そうね。夕食の時に、彼女たちとの出会いを聞かせてもらうかわりに教えてあげるわ」
 「うっ。そ、そうですか……」
 これはもしかして墓穴を掘ったのでは? 俺の背中を冷たい汗が流れた。

――――。
 街道脇に設けられた野宿用の広場で、俺たちは野営の準備を始めている。
 今日の夕飯は、ノルンとヘレンの自信作のシチューに、サクラとシエラの捕まえたウサギにハーブを詰めてグリルにした一品だ。
 イリーシャさんもノルンとヘレンと一緒に包丁を持ち、楽しそうに料理を手伝っていた。それを見ながら、俺とオリバ兄弟は周辺の警戒をしている。
 昼間の熱気はまだまだ冷めやらないが、アスファルトに囲まれた日本よりは涼しく感じる。空は日没が近づいて朱に染まり、上空はすでに蒼色が広がって星が一つ二つきらめいている。

 「みんな~、できたわよ」
 ヘレンがそう言うと、たき火のそばに集まってそれぞれが適当な位置で座った。
 ノルンが鍋から深皿にシチューを取り分け、それをサクラが配っていく。
 シエラはウサギのグリルを切り分けて、いくつかの大皿に分けて盛りつけて、適当に置いていく。
 早速、「いただきま~す」と言って、シチューを一口食べる。しみ出した野菜と鳥肉の旨みをスパイスが引き立てている。さすがはノルンとヘレンだ。
 ラルフが「うまい!」と叫び、ティオがうなづきながらパクパクと食べている。
 イリーシャさんも夢中になって、
 「これはお店出せるわね!」
といいつつ食べている。
 俺はノルンたちに親指を立てて「グッジョブ! さすがは俺の嫁!」と言うと、フェリシアにもスープを与えているノルンと、俺の横に座ったヘレンがうれしそうに笑った。
 サクラとシエラがウサギのグリルの皿を持ってきて、
 「マスター! こっちも食べてください!」「そうです! ご賞味しょうみ願います!」
と俺に押しつける。俺は笑いながら、こんがりと焼き色のついた肉を一切れ口に入れた。
 口の中に、タイムやナツメグ、コショウにカルダモンなど、さまざまなハーブと肉の旨味があふれた。さすがに牛肉ほど肉汁はないが、引き締まった肉質にスパイシーな味がマッチしている。
 「うん、うまい!」
と言うと、二人ともうれしそうに破顔した。……正直言って、こっちは冷えたビールが飲みたくなる。思わず、
 「これは酒が欲しくなるな」
とつぶやくと、ノルンがさっとアイテムボックスから酒瓶をとりだして、
 「あるけどどうする?」
ときいてきた。
 ああ! 悪魔の誘惑だ……。だがしかし、ノルンよ。俺たちは護衛任務中だ。アルコールはまずい。
 俺は欲しそうにその酒瓶を眺めながら、
 「くうぅぅ。……飲みたいが、任務中だ。ベルトニアに着くまで我慢しよう」
というと、欲しそうにノルンの手の酒瓶を見ていた他の面々もうなづいた。ノルンは笑いながら、
 「あら? 結界を張っておけばいいじゃない?」
と言う。確かにノルンに結界を張ってもらう方法もあるが、万一ということもある。迷っていると、イリーシャさんが、
 「へぇ。結界? 一晩中保つんなら、ちょっとぐらい飲んでもいいよ? っていうか、私にも欲しいわね」
と言う。ノルンはにこりと微笑むと、俺の方を見て、
 「ジュンもいい?」
ときいてきたのでうなづいた。
 ノルンが取りだしたのは、最近、ノルンがお気に入りの白ワインだ。アルの街で見つけて、結構な本数がアイテムボックスに入っている。
 早速、ヘレンとシエラが人数分のグラスを取りだしている間に、ノルンが水魔法の応用でワインを冷やす。つがれたグラスをサクラがみんなに配った。
 「う~ん。おいしい!」
とイリーシャさんがワインを口にして機嫌良さそうにつぶやいた。そして、俺の方を見て、
 「……それじゃあ、お酒も入ったことだし彼女たちとの出会いの話を聞きたいわ」
といたずらっぽく笑みを見せた。


――――。
 「――――――というわけさ」
と俺は、重要なところは隠しながら、ヘレンとの出会いから始まってシエラが仲間になるまでの出会いを話す。
 話し終わるとイリーシャさんが、
 「ふうん。なるほど、なかなかハードな一年間だったわね。神竜王バハムートなんて話にしか聞いたことがないわ」
と驚いていたが、不意にオリバ兄弟の方を向いて、
 「あんたたちも、もっと強くなって彼女を作りなよ」
と笑って言った。ラルフが、
 「それはイリーシャさんもじゃないですか」
と言うと、イリーシャさんは頭をかきながら、「そうだったわね」とつぶやいた。
 それからワインを一口飲んだイリーシャさんは、「……次は私が話す番かしら」と切り出す。

 イリーシャさんは、今はもう無いマナベル商会という大きなお店の孫娘だったそうだ。
 母親は商会長の一人娘で想い人がいたそうだが、結婚する前に相手が亡くなってしまった。その男性がイリーシャさんの父親だそうだ。手の青い指輪は、その男性から母へのプレゼントらしい。
 イリーシャさんの母は再婚することはなかったが、今から二十年ほど前に大規模な疫病が発生した時に病に倒れ、そのまま亡くなってしまった。商会長の祖父もその病で亡くなり、イリーシャさんだけが残されたそうだ。
 当時はまだ十代で経験もなく、マナベル商会の経営は部下に任せっきり状態になってしまった。最初はそれでも昔からの部下が何かと世話を焼いてくれて、上手くいっていたそうだ。
 しかし、祖父の代から勤めてくれた人たちも年老いて亡くなっていき、新しい部下に経営が切り替わったとたん、別の商会にマナベル商会が乗っ取られてしまったという。
 乗っ取った商会も悪事がばれて倒産し、結局はアルの街にも大きな支店があるフランツ商会に合併したそうだ。
 とはいえ、かなりあくどいやり方で乗っ取られたみたいで、住んでいた家屋敷も売り払うはめとなったそうだ。イリーシャさんに残ったのは、僅かな思い出の品といくらかのお金、そして商業権のみだった。
 イリーシャさんはそれでも恨む気持ちはなく、むしろ解雇せざるを得なかった人々に申しわけないと思っているそうだ。今はこうして行商人として生計を立てているが、いつか店舗を持ち、再びマナベル商会を立ち上げるのが夢だそうだ。

 いつのまにかあたりはすっかり暗くなり、たき火のぱちぱちという音と、林からフクロウらしき声が聞こえる。
 話を終えてイリーシャさんは馬車に入っていった。それを見たオリバ兄弟は、
 「俺たちは、さんざんお世話になったイリーシャさんに恩返しがしたいんだ。だから商会の立ち上げまで、依頼という形だけど、一緒に行動しようと思っている」
と言う。それを聞いて、俺も、
 「イリーシャさんは遠慮するだろうが、俺も手伝えることがあったら言ってくれ」
と言った。……きっといつかマナベル商会は復活するだろう。

 見上げると、東京では決して見られない満天の星空が俺たちを見守っていた。

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