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星空帳
作:大野昴







私の手の上に星空がひとつある。
つい先日、ショッピングモールの雑貨屋で買った天球儀だ。
年末の処分品で、350円した。



丸い紺色の夜空に、たすきがけのように天の川が斜めにかかっている。
この星空は印刷されたものだから、静かで変わらない。

まあ日向においておけば色あせることはあるかもしれないが、星の位置は不変で動いたりなんかしない。
最近まで私は、本当の夜空もそんなものだと思っていた。









でも星だって生まれて、生きて、死んでいくのだ。

星の素が集まり、光り始める

輝いて輝いて、そして消える。















星は一生を終えるとき、大爆発を起こすことがある。
これを超新星爆発(スーパーノヴァ)という。

星は水素を核融合させて光る。水素は一番軽い元素だ。
するとヘリウムができる。ヘリウムは水素より重い元素。


ヘリウムも核融合する。
炭素ができる。無論、ヘリウムより重い元素だ。
ヘリウムと炭素で酸素もできる。

そうやって重い元素ができる。




私のまつげの先を造っている炭素も、いつだったか星の爆発で飛び散ったものだ。
私の中をめぐる血液の中の鉄も、太陽が生まれるずっと前に死んだ星のかけらだ。

















流れ星がひとつ、窓の外を流れる。


















仄白く光るパソコンの液晶画面に、星の窓が現れた。
星空のシミュレーションソフト。
画面右上の日付は、今日の日付だ。

日付を進める。





一日ずつ、定時に見られる星の位置はずれてゆく。
しかし星座の形は変わらない。


年を進める。


一年や二年ではない

千年後、一万年後、十万年後・・・・・・。




星座の形が変わってきた。縦に長くなったり、曲がりくねったり。



北極星も、もう北を指していない。

















二十万年後の星空は現在とぜんぜん違う。



もし二十万年後、星空を美しいと認識する生き物がいたとしたら、その生き物も夜空の星の並びを何かの形に見立てて、新しい星座を作ったりするのかな。
そのとき、その生き物の目には、夜空はどんな風に映っているんだろう。











今見えている星が二十万年後にはなくなっていたり、新しい星が見えたりするのかもしれない。
今私たちが目にしている星の光の大部分は、地球に生き物が生まれるずっと前に星を出発して、長い長い時間をかけて地球に届いているのだから。

今このとき目に見えている夜空の星も、本当はもう全部なくなっていたとしても、私たちには知るよしもない。
夜空で輝く星はみんな嘘かもしれないのだ。












パソコンをシャットダウンし、部屋の電気を消す。


























私は今日もそっと夜空を見上げる。
そこにあるのが大昔の幻だと知っていても、見上げずにはいられない。

それはきっと、私が立っているこの地球も、星空の一部であるということを忘れないためなんだ。


私だって宇宙の一部なのだということを忘れたくないからなんだ。














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