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花をさかすことしかできない魔法使いモン [花モン] 作者:井上ジェット
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5.キアヌからの手紙

「モン、兄さんから手紙が来ているぞ!」

 青年時代になってからのモンの友人、ディッキリー・ドゥックルーは戦地へ行き来する輸送の仕事をしています。モンの兄キアヌからの手紙を持っていました。
「この手紙、しわしわじゃないか」
 手紙は湿気ていてシワだらけ。戦地を掻い潜って来たのだとモンは感じます。兄からの手紙が楽しみだったモンは手紙が届くだろうという頃になるとそわそわしました。
「ぼくはいつだって、兄さんの手紙は必ず届くと信じているのさ!」
 モンは「部屋で読みたいんだ!」と家に駆けます。
 モンが駆けていく様子をみたマキは、キアヌから手紙が来たのだと勘付き、追いかけました。
 戦いで家を無くした人たちの集合宿舎がモンの家です。一人部屋で、隣の部屋もまたその隣の部屋も、同じくらいの年頃の者が住んでいます。モンは部屋へ飛び込みます。マキは後から来て扉の隙間からモンを覗いています。
 モンは丁寧に手紙の封を開けました。
「モン、私も入って見てもいい?」
「いつも気にせず入ってくるじゃないか?」
「そうだっけ…この部屋、こんなに暗かったっけ?上の方についている小さな窓の明かり、ここは落ち着くね」
「いつもはそんなこと言わないじゃないか。どうしたんだい?」
「隣に半分座っていい?」
 部屋へ入り扉を閉め、椅子に半分座ります。落ち着かないマキを気にして、モンは手紙を読むのをためらいました。マキは言いたいことがあるのです。
「わたし、もうすぐ旅立っちゃうから…母さんと父さんの敵、討ちたい…だけどモンと別れるのは少し寂しい…」
「マキが敵を討とうだなんて、僕はしてほしくないよ…行かずにここに、いてほしい」
「行かなくちゃならない。18才になったんだもの!」
 マキは葛藤していて、モンの手を握りました。
「何事も大丈夫さ…。あ、手紙読まなくちゃ。…この手紙、兄さんの匂いがするよ!手紙を読むのがもったいないなあ!」
「え?…どれどれ、私にも嗅がせて…あ、本当だモンの匂いに似てるね」


――親愛なるモンとマキへ、オレは怪我なく元気です。
定期的に手紙を出さなくちゃモンやマキが心配するからね。忘れずにこの通り出したよ。昨日はメシに、とっておきの肉が出た。肉ってこんなに、美味かったんだな!
また、手紙します。元気で。
キアヌより


「兄さんは疲れているようだよ。いつもより手紙が短いし、肉が美味いなんて強がりを言っている。戦いが激しくなっているんだと思う。とっておきの肉を食べたって…おかしいよ…どうしよう…兄さんが…」
 モンは険しく目を閉じ、震えている。マキは少し強く、優しく、背中からモンを抱きしめました。
「モン、大丈夫だよ…きっと大丈夫だよ…」

 一息ついてモンが宿舎から出ていくと、幌馬車のディッキリー・ドゥックルーがまだ待っています。
「おーい、モン!駆けて行ってしまうものだから伝えそびれたよ。君にもうひとつ渡すモノがあるんだ」
「もう一つ?」
 ディッキリーはもう一つ届けるものがあると言います。ディッキリーは大きな牛2頭に繋がれた貨物車の中に声をかけました。
「つきましたよ!」
 貨物車には、モンの兄キアヌが乗っていたのです。春の風が吹き始めたこの日に、1年ぶりにモンの兄のキアヌが戦地から帰ってきました。
「帰ったぜ!土産はない!はははは」
「キアヌ兄さん!兄さん、帰ってきたのかあ!」
 その日、キアヌ、マキ、ディッキリーとモンは、遊び語らいました。キアヌは適当な楽しい出来事を語り、襲撃にあった時のことは黙っていました。
「だいたい暇な日々だよ。時々遠くから大きな声が聞こえたと思うと、誰かが羊のゴーコーに追われている声だったりと何も問題はないよ。僕はカエルを追いかけて食料を調達する日々さ!はははは」
「キアヌがカエルを!?クスクス」
 マキはキアヌがカエルを追いかけている姿がツボに入って、おかしくてたまらないようです。モンは苦笑い。やがてマキの戦場へ行く日が迫っているという話題になりました。
「もうすぐ出発の日がやってくる。私は戦うの」
 モンとキアヌは多くを語れませんでした。やがて夜になり、草原で満点の星空を眺めました。

 たしかに真夜中でした。突然周囲が眩しいほどに明るくなり昼間のようになりました。
 いつかモンの父が言葉を刻んだあの”刻み石”の前に、モンはやってきていました。
 近所の子供がやってきて、
「モン兄ちゃん、これ作ったんだ」
 草と種で作った、頭に乗せる輪かざりです。一見がさつなもので褒められるようなものではなかったですが、モンなりに良い部分を見つけます。
「よくできてるね。ほら、この部分とかとくに良いね」
「ね!かわいいでしょ」
 近所の子供は輪かざりを自分の頭に乗せて楽しそうにしています。辺りにマキがいません。見上げると、険しい顔をしたマキが空からホウキで降り立ちました。
「家族がたくさんいるみたい」
 モンは魔法を使って子の輪飾りに花を咲かせてやると、子供はびっくり喜びました。
「わあ!すごいや」
「こんな平和がずっと続けばいいのにな」
 その時です。空に暗雲が立ち込め巨大な雷が落ちました。
 ざわつきの中にマキの声が響きます。
「みんな危険よ!敵の大魔法がこちらにやってくるわ!逃げて!」
 逃げる間もなく、雷は何本にも増えて、大地は振動し光と爆発音がすべてを覆いました。落雷の衝撃で子供は弾け跳び、空高くに消えて行きました。
「ああ、なんてことだ…」
 モンが叫んでも、吹きすさぶ風に音はかき消されます。

 強い光が収まり次第に視界がもどると、そこは元の星の瞬く静かな夜空のある、草原でした。悪夢を見て、呻き声でモンが目覚めました。

 翌日の朝は早かったです。朝からキアヌはモンを呼び出していました。
「おまえに、やらなければならない事がある」
 モンは、きっと深刻なことだろうと不安になりました。
 するとキアヌは突如来て…
「てやー!(ふざけて)」
 キアヌはモンの後ろからモンのズボンをずりさげました。
「あ!兄さんこんにゃろーっ!」
 すかさず逃げるキアヌを、モンは追いかけます。他愛もなくふざけることができる喜びをキアヌは感じていました。

 モンがキアヌを追いかけていると、キアヌの姿は、だんだん透明になり消えてしまいました。キアヌは、また戦場へと旅立つのでした。

 出兵の列にキアヌは並んでいます、そばでモンが見送ります。
「モン!僕はおまえに手紙を送るぞ。毎回あたらしい冗談を書いておくから、それを読んで楽しめ!わーっはっは。しょぼくれんな!ヒョーウ!」
 出兵の列に並んだキアヌは、モンが見送っているのに気づくと大声で知らせました。
千人はいる、魔法使いの隊列が歩き出します。キアヌは空を飛べませんから、歩きます。ホウキを跨いだ何百人もの魔法使いの隊列が飛び上がり、補給物資などを乗せた大きな荷馬車が、何台も動き出す。隊の全部が見えなくなるまでは何十分もかかりました。
 最後にはディッキリーの引く牛車の輸送車が過ぎていきます。
 ディッキリーは小さく手を振って、モンも小さく手を振りました。

「兄さんを、引き止めればよかったよ。なんで行かせちゃったんだろう」
 キアヌが居たのはたった1日でした。
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