表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ファンファーレを鳴らす人々

作者: ほみち

 私の母がファンファーレ屋さんをやっていたのは、もう随分と昔のことだ。「ファンファーレ 一回 百円」という札を置き、今でいうストリートミュージシャンみたいに駅前で即興のファンファーレを鳴らす仕事をしていたそうだ。

 値段が値段だから、仕事というほど稼げたわけではないようだけれど、なかなか人気があったようで、今日はセレモニーホールいっぱいの人が母へ挨拶をしに駆けつけた。

 息子が良い点をとったという親子や、もうすぐ子供が産まれるという夫婦、中には適当な理由をつけて自分自身に……なんて人もいた。いずれも随分と昔、母の鳴らすファンファーレを聞いたことがある人だった。熱心なファンもいたようだし、実際母の鳴らすファンファーレ・トランペットには不思議な魅力があったようだ。

 そんな母が、惜しまれながらファンファーレ屋さんを辞めたのには、理由がある。機械化だ。ファンファーレすらも指先一つボタン一つで済むようになったのだ。

 「いいことがあった日に、ポチッ! これからいいことがあるように、ポチッ!」脳みそが全部おっぱいに詰まってしまったみたいな水着姿の女の人の、不愉快なCMを覚えている。それを見た、母の悲しそうな顔も。


 それ以来、母が鳴らすことのなかったファンファーレ・トランペットを、今 娘の私が吹いている。私だけではなく、セレモニーホールに集まった人々が、それぞれの楽器で母へのファンファーレを高らかに響かせている。

 永久の眠りについた母の門出を祝うファンファーレを鳴らす人々に、ボタン式ファンファーレを鳴らそうとしていた火葬場の人は、なにもできずに固まっている。

 おめでとう。ありがとう、お母さん。

 貴方の素晴らしい人生と、その終わりに、心からのファンファーレを。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] なんだか切なくてひきこまれました。文章にも無駄がなかったと思います。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ